塩対応の汐宮先生は新人医局秘書にだけ甘くとける

吉岡ミホ

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パネルディスカッションの後

パネルディスカッションの後⑥

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「……それは俺に対する侮辱か? 
俺をなんだと思ってる? 
俺は医師だ。患者のこと治したいと思ってオペし、術後も患者が少しでも元の生活に戻れるよう手助けする。
常に患者の幸せな人生を願っている。
それが愛する人の家族なら尚更だ。
俺は叶恋の家族を大事に思っている。
君はきっと数字しか見てこなかったのだろうな。
崇高な意識を持てとまでは言わないが、少しは自分が売る商品のその先に、大勢の患者の人生があることは覚えておいた方がいい。少なくとも、君のようなMRから医療機器を買いたいとは思えない。
それに……俺は叶恋を捨てたりしない。
叶恋の全てを受け入れ、一生添い遂げる覚悟がなければ、今隣にはいない」

「永真先生……」

「『イシハラの西島さん』その名前、よーく覚えておくよ」

 永真先生が陽介のネームホルダを読み上げた。
 
「な……お、俺を脅すんですか!?」

「さあな。名前を覚えておくと言っただけだが? 
……叶恋、大丈夫か? 行こう」

 まだ何か言おうとしている陽介を無視して、私たちは振り返らずに会場を後にした。

 タクシーに乗っても全身の震えが止まらない。

「叶恋、大丈夫か? 震えているな……」

 永真先生が私の手をギュッと握ってくれた。

「あ……大丈夫です。……すみませんでした」

「いや…………フゥ……」

「……永真先生?」

「とんでもない奴だな。
あそこまで自分勝手な奴、初めて見た」

「……ですね」
 
 まさか陽介があそこまでクズだと思わなかった。
 あれは、理沙が気の毒に思えるレベルだ。

 でも、陽介が放った言葉は今も私の心に深く突き刺さっていた。
 まるで呪いのように。

 そしてそれ以上に、間に入ってくれた永真先生に対して申し訳ない思いを抱いていた。
 こんなことがなければ、今日は記念すべき日だったはずなのに。

「……ご迷惑おかけしてすみません。
今日は永真先生の大事な日だったのに。
嫌な思いをさせてしまって……」

「それは大したことじゃないから気にしなくていい」

「でも」

「学会はこれが最後ってわけじゃない。
この先何度もあるんだし、ただの仕事の一環だ。
大したことではない」

 たしかに永真先生なら、これから何度も今日の発表以上のことがあるだろう。
 次はシンポジウムかもしれない。

 でも、やっぱり今日はデビューの日なんだから、特別だと思うんだけど……。
 
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