妄想聖書

丸我利伊太

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想生記

第一章  光あれ その三

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彼らは問題を解決する方法を導き出していった。
一つの意識ごとに一つの宇宙を与えればよかったのだ。

一つの宇宙に一つの心。

宇宙はいくつもに分かれていった。
ここに、平行宇宙が始まったのだ。
宇宙は幼かった。彼らは会話を楽しんでいた。平和な日々が続いた。
彼らは感じていた、ただただ幸せな時を過ごしていた。

年月は流れていった。

ある時、奇妙なことが起こった。
彼らが経験する初めての出来事。
宇宙の一つが消滅したのだ。物質と波が無となったのだ。
これが宇宙の死なのだ。

彼らはまだ気づいていない、自分が死ぬことを……。

「Aさん、どうしたのかな?」
「Aさんいなくなっちゃった」
「おかしいなー」
「Aさんに会いたいなー」

そしてまた一つ、宇宙が消滅した。
ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ、いつつ、

彼らは慌てだした。

「何が、起きているんだ」
「ああ、仲間が消えてゆく」
「次は誰だ、僕か、僕なのか」

一つ、一つ、宇宙は消えていった。

「恐ろしい、恐ろしいことだ」

宇宙は嘆き、苦しんだ。
最後の宇宙が消えた時、世界は沈黙に包まれた。
物質と波には寿命があったのだ。

これで終わりなのか?
これで世界は終わりなのか?

いや違う! 次元、空間、時間はまだ残されている。
次の奇跡が起こるために、まだ時間が進んでいたのだ。

奇跡は起こる。

確率的に起こるのだ。
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