破滅のアダムとイヴ 〜Sランクと記憶喪失と東京と〜

新進真

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承『記憶喪失の《討伐者》』

第14話 迫害

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 あのゴブリンの集団に村を襲撃されてから約2時間が経過した……。

 俺はドラゴンを呼び出し、”ここだけの話”をしようとしたが、ヤツはガイアさんの怪我を発見した。

「この処置では危ない。ここは私に」とヤツはいい、その大きな手で処置を始めた。鋭い爪をしまい、傷を付けないようにゆっくりと。

 俺が適当に巻いた布を引き剥がし、そこに少量の液体を塗った。すると、彼の腕が緑色に光り始めた。周りの村人は皆驚いた声を出した。もちろん、俺も出したが。

「彼に何をした?」と俺が聞くと、ヤツは自慢げに話し始めた。

「古来から伝わる”薬草”の力だ。四肢欠損でもしてなければ、ある程度治せる」と。

 その薬草とやらには触れずに、改めて、”ここだけの話”をすることにした。そのために村の奥の方へ行こうとしたが、ヤツに止められた。
なので、代わりに周りに生えている巨大な木のテッペンに行くことにした。 

「その盾は置いていけ」とヤツに言われたような気もするが、聞かなかったことにしてそのまま左で持った。

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 この木は人が想像する”木”ではない。過去に巨人がいたのではないか、その巨人が生やしたのではないか、というくらい巨大な木が何百本も生えている。
 50m……いや大きいものであれば100mを超えているかもしれない。前に行った塔ほど高いものではないが、それでも普通の人間からすれば高い。

 その木のテッペンは、ちょうど人もモンスターも座る事ができるように加工されていた。過去に、この村らしき所にも誰かが住んでいたのだろう。登る術は見つからなかったため、ヤツに運んでもらうこととした。

「その返り血は落とさないのか?」とヤツに聞かれる。この血はモンスターの血だ、簡単には落とせない。人間の血とは違い、粘着力がある。水で流したところで……というくらい。

「塩水で流せ」とヤツは言う。木のテッペンには塩水が入った大きな容器が事前に用意されていた。まるで俺が来ることを予知していたかのように。
 その塩水をかけてもらうと、粘着力のあったモンスターの血はサラサラと流れていった。
初めて知った。先の白蛇との戦闘でも彼には「1日待てば蒸発する」と教えられ、その通りに1日待った。その必要はなかったのだ。

「人間界でも常識なはずなんだがな」と言う。彼が知らないだけなのか、全体的に知られていないだけなのか、どちらなのだろうか。

 服はびしょびしょに濡れたが、どうでもいい。

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「それで、話とは何だ?」とヤツに聞かれる。
 俺は苛立ちを顔に出さないように、こう言った。

「お前が知っていることを全て話せ。薬草でも洗脳でも何でもいい、全てだ」と。

 ヤツは困惑しながら話し始めた。

「薬草は……この世界に古くから伝わる草だ。あらゆる生物の怪我を治すこともできる上……せ--」

 ヤツが何か言おうとしたが、ヤツが嘘をついているのは何となく伝わってきた。だからこそ、また俺は苛立ちを顔に出しつつ話し始めた。

「ではステラ村の村人が『山火事が起こったから避難した』と言っていたのは何故だ?それはお前の能力か? それともな--」

「それは草の力だ。”人草”という物の力を私が利用させてもらった」
 ヤツは自らその人草の存在を喋った。

「この姿で村人の前に出たとしても恐れられ、私の言うことなど聞く者はいないだろう。だから人草の力を使い、洗脳という形で避難させた。そして彼にも使用した」

「えっ」とおもわず声を出した。彼……とはガイアさんのことだろうか。ヤツの目線は下を向いている。

「彼には申し訳ないことをした。君にも使ったが、何故か君には効かなかった」

 更に新たな情報を得ることができた。その”洗脳する草”を俺にも使ったが、効かなかったとのこと。

「彼がまさかレインマークの人間に真正面から言い放つとは思わなかった」とヤツは続けたが、ここで俺は気づいた。

「彼がレインマークのお偉いさんに話したことを……どうしてお前が知っている?」

「それは……全て聞いていたからだ」
 ヤツが答える。聞いていたとは、どういう意味だ?

 彼がレインマークのお偉いさん方と話したのは、大体建物の中だろう。建物の中にいる人たちの声を、どうやればこの大きなモンスターが聞くことができるのか。逆に屋外で話していたとしても、不可能である。

「この草を吸わせた者は、草を吸った者の声を聞くことができる。例え遠くに居たとしても、直接耳に入ってくる」

 この世界に薬草という物が存在していたこと自体初耳だが、このように盗聴することができる洗脳のための草も存在していたようだ。さらに、その草を人間ではなくモンスターが使用していたことも驚愕だ。

 やはり、俺たちを利用しようとしていただけではないのだろうか。そういう考えが俺の頭をよぎり始めた。

 今の俺に剣などといった”武器”はない。だからこそヤツは見くびっているのかもしれないが、俺には”武器”がある。

 左に持っていた盾を右手で持ち、投擲武器のようにヤツの目に向かって振り投げた。
 残念ながらゴブリンのように上手くいかない。ヤツの大きな手で受け止められてしまった。

「何をする気だ!」とヤツは言うが、それを無視したままヤツの目を睨み続ける。

 カタッ……

 ヤツは俺の意を察したのか、掴んでいた盾を地面に置き、また語り始めた。

「私が君たちを利用した。それは間違っていない。彼を軽く洗脳し、勇気を与えた。少しでもモンスターを支持してくれる者が増えることを願ったが……。が、私は彼の勇気を見くびっていた。まさか都市の人々に直接言い放つことまでするとは思っていなかった」

 まだ俺でも分からないことが多いが、彼は元から勇気のある人物だった。勇気が無ければ、討伐者という職につかないだろう。
腕を刺されただけで気絶するところ以外は。

 ついでに、新たな発見もあった。
 俺はヤツを睨みつつ、ある質問をした。

「その草は、世界全体の生物を洗脳することも可能なのか?」

 その草を世界全体の人間に使用し、「モンスターを迫害せよ」という命令をしてしまえば、人間は皆その命令に従うだろう。

 が、違ったようだ。ヤツは首を横に振り、さらに続けた。

「私もそう過去に考えた。が……残念ながら、全ての人間に効くような洗脳する草は存在しないようだ。それどころか、この草も最大で42人までだ。あくまで、私の聞いている範囲での話だが」

 ステラ村の人口は40人くらいである。全員に使わなくとも、半数が騒げば半数もつられて避難するのだろうか。

「その上、期限も存在する。私が発見した限り……2年が限度だ。一度に使用する人数が多くなれば多くなるほど、その期限も短くなる」

 ならば、複数人……100人くらいの人がその薬を使えば、ざっと4200人に効くということだろうか。小国程度なら丸々洗脳することもできるだろう。

 しかしそれも違ったようだ。またヤツは首を横に振った。

「その草は効かない者もいる。君こそその例だ。逆に、その草を使用することができない者もいる。全ての生物がこの草を使用できるわけではない」

 それならば全ての人間が突如モンスターを迫害し出すということは通常であればありえないことと分かる。何か他に”広範囲に使用できる草”が存在するのであれば、話は別だが。

 これ以上いがみ合った……いや、俺が勝手に敵意を持って接しているだけだが、何か行動を起こさない限り埒が明かない。

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