婚約破棄寸前なので開き直ったら溺愛されました

迷井花

文字の大きさ
17 / 25

17.グレースの外出①

しおりを挟む
 グレースがカサドラの屋敷に来てから、1週間が経とうしていた。
 忙しいフェイトは初日の夕食のあと、その足で任務へと戻っていった。

 だからと言って暇を持て余すことはなく、メイド長のドーラに屋敷の複雑なしきたりを教わる日々。
 一般的な貴族の常識では通用しないことがとても多いのだ。
 
 今朝も朝早くから独特のカーテシーのやり方を学んだ。
 
 グレースは、鏡台の前に座り自分の姿を映しながら、静かにため息をついた。
 メイドのライリーが黙々と身支度を手伝っている。
 
 しんとした支度部屋はにぎやかなサマーリー家とは大違いだ。
 シーフォード家では使用人との間に明確な線引きがあった。
 ライリーとは年齢は近そうだが、ドレスや髪型を選ぶ時に言葉を交わすだけ。
 
 今日はドーラの急用により、珍しく午後の時間が空いた。
 庭には初夏の陽射しが燦燦と降り注いでいる。
 
 楽しみといえば、与えられたシーフォード家の歴史やカサドラの地学などの教養書が数冊。
 ここでのしきたりにはうんざりさせられるが、長いシーフォードの歴史はまるで物語のように面白かった。
 中でも初代シーフォードの騎士カサドラにフェイトの面影を感じ、心が躍った。
 
 初代騎士の名を冠する湖を抱くのが、ここカサドラの土地。
 歴史書に出てくる風景がカサドラにはそのまま残っている。
 
 また、この土地にはグレースにも役に立てそうなことがあった。
 教会に大きな孤児院があるのだ。
 屋敷にこもっているより、子供たちの遊び相手をする方がよっぽど領民に喜ばれそうだ。
 
 『奉仕活動は遊びではありません。そのような考えでいる間は控えた方がよろしいでしょうね』
 
 グレースの短絡的な考えはぴしゃりとドーラに否定されたが。
 いつか子供たちと触れ合いたいという気持ちは、グレースのこの生活での新しい目標にもなった。
 
「午後の予定はどうされますか。音楽家でも呼んで演奏させましょうか」

 思考を中断され顔を上げると、鏡の向こうのグレースはすっかり仕上がっていた。
 無表情のライリーがその後ろで控えている。
 
 音楽家の演奏――グレースは肩を落とし、開いていた歴史書を閉じた。
 空き時間はいつもそれだ。
 
「……フェイト様の留守を預かっているのに遊んでばかりね」
「グレース様が退屈されないようにとフェイト様に仰せつかっております」

 侯爵家の過ごし方は、それしかないのかしら……。
 
「他には奉仕活動もありますが……公的な活動でしたら外出も可能ですし」

 ライリーからおもわぬ返事がきて、グレースはバツが悪そうに口を押えた。うっかり本音がこぼれてしまった。
 そんなグレースを観察するように、ライリーはじっと見つめている。

「奉仕活動ならぜひしてみたいけど、まだそのレベルではないとドーラに言われているの」
 
 二人の間の線引きが曖昧になった勢いで、グレースは正直な気持ちを吐露した。
 
「メイド長が?」

 ええ、とグレースは恥じるように目を伏せる。
 ライリーが珍しく驚いたように瞳を大きくした。
 それからふと肩の力を抜くと、グレースに説明してくれた。
 
「たまにシーフォードの奥様がいらっしゃいますが、気軽に行かれていますよ。外では屋敷のしきたりも関係ありませんし」
「そうなの……私、教会の孤児院に興味があったの。そこで子供たちがどんな風に過ごしているのか知りたくて」
「ご指示いただければ、護衛を手配します。どうされますか」
 
 ライリーはグレースの想いを否定も肯定もしなかった。
 
 勝手なことをしたらドーラは怒るかもしれない。
 けれど、短時間触れ合うだけなら――グレースは迷った末に決断した。

「ライリーお願いするわ」
「かしこまりました」

 ライリーからは淡々とした返事が返ってきた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。

朝日みらい
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。 宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。 彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。 加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。 果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

溺愛王子の甘すぎる花嫁~悪役令嬢を追放したら、毎日が新婚初夜になりました~

紅葉山参
恋愛
侯爵令嬢リーシャは、婚約者である第一王子ビヨンド様との結婚を心から待ち望んでいた。けれど、その幸福な未来を妬む者もいた。それが、リーシャの控えめな立場を馬鹿にし、王子を我が物にしようと画策した悪役令嬢ユーリーだった。 ある夜会で、ユーリーはビヨンド様の気を引こうと、リーシャを罠にかける。しかし、あなたの王子は、そんなつまらない小細工に騙されるほど愚かではなかった。愛するリーシャを信じ、王子はユーリーを即座に糾弾し、国外追放という厳しい処分を下す。 邪魔者が消え去った後、リーシャとビヨンド様の甘美な新婚生活が始まる。彼は、人前では厳格な王子として振る舞うけれど、私と二人きりになると、とろけるような甘さでリーシャを愛し尽くしてくれるの。 「私の可愛い妻よ、きみなしの人生なんて考えられない」 そう囁くビヨンド様に、私リーシャもまた、心も身体も預けてしまう。これは、障害が取り除かれたことで、むしろ加速度的に深まる、世界一甘くて幸せな夫婦の溺愛物語。新婚の王子妃として、私は彼の、そして王国の「最愛」として、毎日を幸福に満たされて生きていきます。

図書館でうたた寝してたらいつの間にか王子と結婚することになりました

鳥花風星
恋愛
限られた人間しか入ることのできない王立図書館中枢部で司書として働く公爵令嬢ベル・シュパルツがお気に入りの場所で昼寝をしていると、目の前に見知らぬ男性がいた。 素性のわからないその男性は、たびたびベルの元を訪れてベルとたわいもない話をしていく。本を貸したりお茶を飲んだり、ありきたりな日々を何度か共に過ごしていたとある日、その男性から期間限定の婚約者になってほしいと懇願される。 とりあえず婚約を受けてはみたものの、その相手は実はこの国の第二王子、アーロンだった。 「俺は欲しいと思ったら何としてでも絶対に手に入れる人間なんだ」

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

女避けの為の婚約なので卒業したら穏やかに婚約破棄される予定です

くじら
恋愛
「俺の…婚約者のフリをしてくれないか」 身分や肩書きだけで何人もの男性に声を掛ける留学生から逃れる為、彼は私に恋人のふりをしてほしいと言う。 期間は卒業まで。 彼のことが気になっていたので快諾したものの、別れの時は近づいて…。

処理中です...