婚約破棄寸前なので開き直ったら溺愛されました

迷井花

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25.ライリーの疑問

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 グレース・サマーリーがカサドラ屋敷に来てから、1か月。
 
 退屈しのぎに過ぎないと思っていた彼女の孤児院訪問は、ライリーの予想を外れた。
 
 グレースはまめに孤児院へと通い、全力で子供たちの相手をしている。
 そして自ら作成した簡単な読み書きの教材を使い、子供たちに文字を教え始めた。
 
 この姿には、遠くから様子見していた修道女たちの心を開きつつあった。

 それはライリーも同じ。
 屋敷にきた当初のグレースを、美貌だけが取り柄のつまらない令嬢だと思っていた。
 しかし、孤児院での彼女の姿を見るうち、その考えは根底から覆された。
 
 だが、なぜ彼女は自分の魅力を隠そうとするのか、その理由が分からなかった。

 一方で主であるフェイトにも疑問を感じていた。
 婚約が決まった直後の彼は、グレースに関する指示を出す時どこか楽しげに見えた。
 それ以前は笑った顔など見たこともなかったのに。
 そんな主の変わりように、これは喜ばしい婚約なのだろうと屋敷の者たちは皆考えていたのである。
 
 ところがいざグレースが屋敷に滞在するようになると、彼の表情は硬くなり、どこか落胆しているようにすら見える。
 ほかに意中の相手でも――?
 婚約者候補の中には、他に有力な候補が何人もいた。
 
 そうかと思えば、彼は婚約指輪に最高級のダイヤモンドを選んでいた。
 そして、その指輪に触れるグレースの表情は喜びと憂いが入り混じっている。
 
 二人ほど矛盾に満ちた関係は見たことがなかった。
 
 ――所詮ちがう世界の人たちだもの。私に理解できるわけないか。

 ひょうきんな少年の動きに、思わずぷっと噴き出したグレースの屈託のない笑顔を見つめながら、ライリーはそんなことを考えていた。
 すると、横に並んでいたマクベスが独り言のようにこぼした。

「グレース様は変わったお人だ」
「ええ、フェイト様といい勝負」

 ちょうど自分が考えていたことと一致していたので、ライリーは大きくうなずいた。
 マクベスはじっとグレースの動向を見つめている。

「護衛としてお仕えする時は、いつも料理人に敬意を払った言葉をかけてくださる。
 だが料理長へのあいさつのしきたりは相変わらず無視だ。
 別に俺はこだわっているわけではないが、たった一言で済む話だろ。
 それをやらないで使用人たちの反感を無駄に買ってる。わざわざ自分の立場を不利にするのはどうしてなんだ?」

 マクベスの疑問はもっともだった。
 グレースは今ではシーフォード家の厳格な家風にもすっかり順応している。所作のひとつひとつも完璧。
 けれどたまに、使用人に対する礼儀を欠いていた。
 
 料理長への挨拶なんて、一言「大儀であった」と示すだけの簡易な慣習である。
 使用人がずらりと集まる中、グレースは頑なにやらずにいるから、皆から傲慢な女主人だと思われている。

 だがその理由について、ライリーはひとつの疑いを持っていた。

 メイド長のドーラだ。
 ドーラは、本来なら許されているグレースの奉仕活動の外出を止めていた。

 きっと伝え忘れたのだろうと思おうとしたが、メアリーベルと共に現れたドーラを見て、ライリーはドーラへの疑いを強めた。

 ドーラが意図的に伝えていないのでは?
 そう考えれば、あの真面目そうなグレースの不思議な無礼にも納得がいくのだ。
 
 でも、だとしたらドーラはいったい何の目的で――?

 いつのまにか強く握りしめていた拳に気づき、ライリーはわずかに目を開き、力を緩めた。
 
 ふうと肩から息を吐く。
 少年に負けじとひょうきんな顔を作るグレースに、ライリーはその目を細めた。
 
 ドーラが何を企んでいるにしても、ちょっとした陰謀なんて貴族の屋敷にはよくある話。 
 一介のメイドには関わりのないこと。
 例え何かに気づいても見て見ぬふりで、澄まし顔を作るだけだ。

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