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 水野カーリが部屋に入ってきたので、湯原セーギは良い事を思いついたとばかりにこう告げる。

「おはよう、カーリ。じゃあせっかくだから一緒に挨拶しに行く?」

 突然の事だったのだが、この場にいる面々の反応は大きく異なっている。

「そうですね。せっかくですから、挨拶しておくのも良いかもしれませんね」

 あっさりと同意する水野カーリだが、残りの二人、ハライチとミズイチはすんなりと受け入れる事は出来ないので、当然異を唱える。

「そ、それはダメです!セーギ様、カーリ様!」

「そうです。態々あのような下賤の者達に偉大なるマスターであるお二人が直接出向く必要はございません。それに、相手は召喚冒険者と言う立場で明らかに不敬にもお二人を狙っています!お二人の身の安全を考えますと、申し訳ありませんが私達としては許容する事はできません」

「う~ん、気持ちはありがたいけど、少し対策をすれば大丈夫でしょ?」

「そうですね。ハライチちゃんとミズイチちゃんの心配はありがたいですが、やっぱり本当に久しぶりなので挨拶しておきたい気持ちがあります。お願いできませんか?」

 絶対の主にこう言われてしまっては断れない二人のブレーンは、即座に対応を始める。

「ではセーギ様、カーリ様、暫し隣のお部屋でお寛ぎ下さい。条件が整いましたらお声がけ致します」

「悪いね、無理を言って。じゃあお言葉に甘えて休ませてもらうよ。行こうか、カーリ」

「はい。セーギ君」

 こうして映像が映っている部屋に残されたハライチとミズイチは、<三傑>を含めた意思のある魔物全員に情報を伝達し、即座に対策を実行する。

「今回はチェー様、レイン様、ゴースト部隊で対策を行います。何かを付与するような物を隠し持っている可能性も排除できませんので、アイズも一体派遣してください。その後は……」

 蟻一匹逃さない程の鉄壁の布陣で対策を始めるのだが、その目標となってしまった四人の召喚冒険者は突然現れたレベル99のゴースト隊複数の威圧だけで動きを止める。

 野営を終えて、岩本と三原と同じように先ずは壁伝いで脱出を図ろうとして壁際に全員が寄っている時に、背後から強烈な殺気を浴びせられてしまったのだ。

 その後にチェーの分裂体が四人を完全に拘束し、最早何もできない状態で地面に転がっている。

……コツッコツッ……

 七色の綺麗な髪を揺らしながら地面に転がっている四人に近づくのは、水野カーリの眷属であり<属性族>のレイン。

「あなた方が、我らが主の同郷だとはとても思えませんね。そこの貴方。鑑定をしても無駄ですよ。私は鑑定阻害を使えますし、貴方程度のレベルであればそもそも私を鑑定できません」

 地面に転がりながらも、どう見ても敵である目の前のレインを鑑定しようとした吉川だが、レインの言う通りに何もわからなかった。

「これからお二人がこちらに参ります。許可を得ずに発言した者は……」

 そこで言葉を切ったレインは、自ら局所的に殺気を放つ。

 ある程度力を抑えなければこれだけで死亡しそうなので調整してはいるのだが、相当な脅しになったようで目を大きく見開いた状態で固まっている四人。

「これで大丈夫でしょうか……ゴースト部隊はお二人の近くから絶対に離れないように。チェーもお二人の近くへ」

 レインの指示通りに眷属が動いた後に、先ずはハライチがこの場に現れる。

「レイン様……大丈夫のようですね。私からも念を押しておきます。我らが主の言葉にのみ嘘偽りなく答えてください。余計な事を言った場合には命の保証は出来かねますので悪しからず」

 優雅に一礼するのだが、その話の内容は決して優雅に聞く事はできない四人。

 視線は空中を漂っているゴーストだけではなく、見た目とは裏腹に相当な強者だと嫌でもわかるレイン、そして謎の魔物チェーに注がれる。

「久しぶりだな」

 そこに湯原セーギ水野カーリがミズイチを伴って前触れなく表れる。

 既に散々脅されているので、日本の意識で悪態をつく事などできる訳もない四人は怨めしそうな表情で二人を見ている。

「お前等さ、話を聞くところによると三原っていう召喚冒険者に鍛えてもらったのに裏切ったんだって?で、次はレベル上げの為に俺達を狙っている……と。ハライチ、この四人のレベルっていくつだっけ?」

「女性の方が34で、男性が35になります」

 この場にいるアイズからの情報を得てレベルを丸裸にするハライチ。

「あのさ?敢えて俺達の情報を開示する事はしないけど、雰囲気でわかるだろ?お前等では俺達のダンジョンの攻略なんて無理。一回目だけは見逃してやるけど、二度目はないよ?そもそも日本にいた頃、あの空間、俺はお前等に良い感情なんてないからね。来るなら次は容赦なく迎撃する。今後はそこの所、良く覚えて行動すると良いんじゃないかな」

「そうですね。湯原・・君の言う通りですね。私も同じ気持ちです。前まではなんであれほど無駄に突っかかってくるのか聞きたい所でしたが、今の皆さんを見ていたらその気もなくなりました。もう行きましょう?湯原君」
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