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バミアの末路(2)

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「簡単に始末しては私の母があなたのせいで余計に苦しんだ時間に対する報復になりませんし、私やイジス様以外の荷物持ち、既に亡くなっている方々の供養になりませんから、少しは生かしておいてあげますよ」

 今すぐ殺される事だけはないと思い少々安堵するバミアだが、今迄の非道な行いに対する報復がこの程度の脅しで済むわけはない。

「とりあえず、あなたの体内にこの魔物を侵入させます」

 ミスクの手から光が出ると、その光の中に浮かぶように現れている小さな魔物。

 その魔物は冒険者だけではなく商人や民からも恐れられている魔物で、ヒルの様な外観をしており直接的な攻撃能力は殆ど無く、防御力も極めて低い魔物ではあるのだが、一旦体内に侵入されると自力では取り出す事は略不可能な魔物。

 その魔物を使役している人物の意思に反する行動を取った場合、内蔵を食い荒らされる恐ろしい存在だった。

 内部に侵入されない限りは安全であると言われているヒルのような魔物、デヒル。

 万が一発見した場合にはそのまま踏みつぶして駆除できるのだが、ギルドにその存在の報告義務がある程に危険な魔物だ。

 自然繁殖した魔物が体内に入ると、誰にも制御されていないために即内蔵を食い尽くされて死亡してしまう。

 人の体内には皮膚を食い破って内部に入るか……運悪く口、鼻、耳から侵入されるかの何れかとなる。

 耳であれば取り出す方法はほとんどないが、鼻であれば外から鼻をデヒルごと潰すようにすれば駆除できるし、口に入った瞬間にかみ砕けば安全であり、皮膚からの侵入であれば痛みで気が付き即駆除できるのだが、侵入された後には長い時間苦しみ続けるために決して油断できない危険な魔物として広く伝えられている。

 デヒルを使役するには自らの血液を摂取させる必要があり、相性が良ければデヒルはそのまま使役できるのだが、もちろんそのような行為を公に行えば、どのような立場の者であっても厳しい罰則の対象になる。

 弱い魔物ではあるのだが、危険な魔物だ。

 そのデヒルを召喚し、バミアの中に入れると言い放ったミスク。

 子供でも知っている魔物である為、バミアは恐怖で顔が歪む。

「まっ、待って下さい。絶対に裏切りません。改心します。お願いします!」

 以前の寡黙なイメージは崩れ去り、助けを乞う内容を饒舌に口にしているのだが……ミスクの心には響かない。

「煩いですね。あまり煩いとこの場で放置する事になりますよ」

 今の今まで魔物の攻撃に晒されて、ギリギリの所だったのだ。

 そこに放置されれば、再びあの拷問の様な攻撃を受けると改めて理解したバミアは怯えるだけで、これ以上口を開く事は出来なかった。

 大人しくなったバミアを見て、ミスクは容赦なくデヒルをバミアに飲ませようとする。

 無意識なのか、バミアは恐怖によって口をきっちりと閉じていたのだが、ミスクによって片手で口を掴んだ状態で持ち上げられて、痛みによって口を開く。

 そして容赦なくデヒルを口に入れたのだ。

 バミアは……何かの物体が喉の奥に入った事を認識した。

「うぉぇ~」

 何とか吐き出そうとするが、一旦体内に入ってしまえば自力で取り出す事は不可能なので、無駄なあがきだ。

 デヒルが体内に侵入した事を確認したミスクはバミアを持ち上げていた手の力を緩めると、ドサッっとバミアが地面に倒れるのだが、お構いなしにミスクは続ける。

「あなたも理解しているでしょう?そのデヒルの能力。とりあえずの命令は、私達に逆らわない事だけにしておいてあげますよ。そうそう、当然その個体は私の特性ですから、通常のデヒルだとは思わない事です」

 ここで少しでも反論した場合には、デヒルによる自らの命の危険がある事を知っているバミアは涙を流しているだけだ。

「貴女にはこの下層で暫く生活して頂きます。安心してください。食料や水は定期的にここに置いておきます。魔物はあなたを攻撃する事はありません。ですが……上層階に繋がる階段を上った瞬間……私としてはそれでも一向にかまいませんけれど」

 恐怖を煽るように時間を溜めて、バミアのお腹を指さすミスク。

 上層階に向かって逃げようとした場合にも、内蔵を食い荒らされると暗に伝えているのだ。

 絶望の表情を浮かべているバミアをよそに、これ以上話す事は無いとばかりにミスクはこの場から消えていき、残されたバミアは栄光を掴める可能性が極めて高い人生から最悪の状況に一気に落とされた。

 そこからのバミアの生活は、今迄の贅を尽くした気楽な生活からは当然ながら一変していた。

 食事に関してはミスクの宣言通りに何故か指定された場所に出現しているのだが……この階層は、余り周囲が明るくない上に想像を絶する魔物が常に闊歩している。

 こちらも宣言通りにバミアを襲う事は無いのだが、魔物はバミアを確実に認識しているので、その恐怖から碌に睡眠もとれず、出て来る食事は毎日同じ物で量は最小というおまけつき。

 精神的にも肉体的にも極限の状態で生活せざるを得なかった。
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