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ジャロリア王国ギルド

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 大陸中の人族が治める国家に公表される、国家認定ランクのギルドや個人。

 各国で共闘するための情報共有の一環、脅威に対抗する戦力があると言う国民への安心材料として国家戦力として公表しているのだが、一方で魔王国にも、今や雑魚と認定しているルーカス率いる【勇者の館】がジャロリア王国認定Sランクギルド、最大の脅威となっている同族であるフレナブルやアルフレドがいる【癒しの雫】がアルゾナ王国所属認定Sランクギルドであると言う情報が容易く入ってくる。

「で、あの裏切り者フレナブル達が魔族だと分かった上で、アルゾナ王国は【癒しの雫】を所属させている……と」

「その通りです。その抜けた穴を、雑魚ルーカスがSランカーになり、【勇者の館】がSランクギルドになる事で形式上は埋めているようです」

 魔王国のとある部屋で、魔王ゴクドと四星筆頭のジスドネアが得られた情報を基に今後の指針を立てている。

 新四星二人がSランクギルド【鋭利な盾】のギルドマスターであるSランカーのホスフォを仕留め、更にはAランカーのフィライトまで仕留めた上に【勇者の館】のAランカーを多数仕留めたので、非常に好戦的な魔族達は更なる攻勢をするべきであると町中が沸き上がっているのだ。

 最終的には置き土産として城門外に待機させていたSランク魔獣二体が惨殺された情報は秘匿しているのだが、この盛り上がりに何かしら答えなければ魔王としての信頼が揺らぐ可能性があるので、慎重に標的を選んでいる。

「やはりここはルーカス達を始末しましょう。ですが、穴埋めとは言えあれほどの醜態を晒した男がSランカーに返り咲いている以上、我らが掴み切れていない秘策があるのかもしれません。暫し様子見で魔獣を嗾けてはいかがでしょうか、ゴクド様」

「確かにその通りだな。一点に集中している時に突然フレナブルが横やりを入れてくる可能性も捨てきれない。ではそれで行け」

「はっ」

 ゴクド達の中ではフレナブルがいる【癒しの雫】が脅威の対象であり、ルーカスがいる【勇者の館】は取るに足らない雑魚なのだが、それ故に失態を犯して魔王国の雰囲気を壊さないように慎重に事を進める事にした。

 今回は四星が出撃せずに、再び高ランクの魔獣を嗾けるのみだ。

 もちろん情報収集のための魔獣も別途派遣し、ジャロリア王国の対応、そして対抗してくるのであろうルーカス達の強さも、念のため確認する予定となっている。

 彼らの読みでは【癒しの雫】はジャロリア王国に在るのだが、所属は隣国であるアルゾナ王国の為、ジャロリア王国ギルド本部からの依頼を受ける立場にないので、彼らの周辺に脅威を与えなければ、出張って来る事は無いと考えている。

 そのようなわけで、再び魔王国からの侵攻の対象となったジャロリア王国だが、ギルド本部はまるで活気が無くなっている。

 品行方正で、部下には間違いなく公平に接していたギルドマスターであったラクロスが解任されてリビル公爵家の騎士に戻り、その後を引き継いだのがツイマ。

 当然、受付に降格された時代の同僚からの扱いに対する報復とばかりに、無理難題を押し付けて、細かなミスも重箱の隅をつつくような事をして高圧的に指摘している。

 特に標的になっているのが【癒しの雫】の担当であったラスカと、【勇者の館】担当であったミバスロアだ。

 ここ数日、明らかに魔王国から派遣されているのであろう高ランクの魔獣による被害が多発しており、それも【癒しの雫】を避けるかのように、王都中央にある王城から見て【癒しの雫】の真逆側ばかりに被害が集中している。

 どうしても国家認定Sランクギルドに依頼を出す必要があるのだが、その依頼にこの二人が向かわされる。

 当然【勇者の館】ではルーカスやエリザが手ぐすね引いて二人を待っており、口の利き方が悪いだの、声が小さいだの、態度がデカイだの、さんざん文句を言われた挙句に追い出される事もしょっちゅうだ。

 そうなるとギルド本部に戻ってから理不尽にツイマに叱責される上、【勇者の館】が対応できないのは二人の態度が悪いせいで、民に迷惑が掛かっていると噂までまき散らされている。

 脅威にさらされると余裕がなくなるのは誰しもが同じで、残念ながら一部の民や冒険者は今までの【勇者の館】の蛮行の事は忘れ、根も葉もない噂を信じ込んでラスカとミバスロアにきつく当たる者すら出始めている。

 受付の仲間は必死で庇うのだが、【勇者の館】が出撃しない為に実際に直接脅威にさらされている冒険者の一部は態度を改める事は無く、より苛烈になって二人を攻め立てるのだ。

「テメーらが、心底詫びてルーカス様にお願いしないから、俺達が危険な依頼を受ける羽目になるんだよ!」

「さっさと退職しやがれ!」

「こっちは命がけなんだよ!お前らの下らないプライドのせいで死ぬかもしれねーんだぞ!」

 このような言葉を投げられては流石に心が折れ始めており、二人は休日に思わず【癒しの雫】に向かってしまった。

 ここのギルドマスターは幼いながらも、両親のギルドを必死に守っていた……そしてクオウとフレナブルが所属してから目覚ましい発展を遂げていたな……と、楽しかった頃の思い出を語る程に心が弱っていた。

「おや、あんた達……ちょっとおいで」

 遠目で【癒しの雫】を眺めて涙ぐんでいる二人を見た近隣の住民の一人が、二人を強引に自宅に連れ込む。

「ホラ、これをお飲み。申し訳ないが、あんた達の噂は聞いているよ。だけど、バカだね!あんな噂、考えるまでもなく嘘じゃないか。だから、そんな噂のせいで【癒しの雫】を支えてくれていたあんた達が悲しむ姿は見たくないんだよ」

 過酷な状況に追いやられている二人にとっては、これが立場を大きく変えるきっかけになった。
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