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修行中の遭遇

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「ロイド、この娘どうしてこんなところに一人でいるんだ?」

「もしかしたら、噂の裏ビジネスでここに送られたんじゃないか?」

「そうすると、送り込んだやつと鉢合わせていないとおかしくないか?」

「いや、そうでもない。送り込む方も命がけだろうから、すでにあの世にいるかもしれないぞ」

「そうかもしれないな」



 俺とヘイロンが話をしていると、スミカが心配そうに彼女を見つめている。



「ロイドさん、あの人、このままだと無事に地上に出られないんじゃないですか?もし出られたとしても、あの辺りにも魔獣がいましたよね?無事に街までなんてたどり着けないんじゃないでしょうか?」

「そうだろうな。だがそれがどうした?今ぱっと見必死で生きようともがいているようには見える。だが、こいつが悪党ではない保証はない。ひょっとすると、暗殺対象をこの奥に置いてきた帰りかもしれないんだぞ?」



「う、そうですね。そうかもしれません。また私は、深く考えずにごめんなさい」

「ロイド様、今回に限ってはその線はないでしょう」



 ヨナがスミカのフォローをした。



「なんでだ?」

「腰に巻いているベルトを見てください」



 改めて腰のベルトを見る。そこには鷹の頭上に槍が交差したマークが刻まれていた。

 復讐にも情報が必要だということで、しょっちゅうヨナからこの近辺の国についての勉強をさせられているからわかったが、これは隣国の王家の紋章だ。



 着ている物のサイズもおかしくないので、服やらなにやらを全て奪った状態で歩いている王家以外の人間・・・という可能性は低いだろう。

 つまり、この娘は隣国の王族であるということだ。



 正直この娘を助けることは簡単だ。しかし、逆に俺達を目撃されてしまうことになる。

 <隠密>の影響下にあったとしても、王族だけに看破系統のスキルがあるかもしれないし、見つからなかったとしても、第三者の手により救出されたこと位は理解してしまうだろう。



 俺達の存在が具体的ではなくとも、明るみに出る可能性がある。

 そんなリスクを負うメリットがあるのか・・・悩むところだ。



 かなり悩んでいると、



「ロイド、今回は助けてみたらどうだ?嬢ちゃんの言う通り、その娘は王族だろ?俺もあのクソ王族一族だったら見捨てる。いや、むしろ生かさず殺さずで苦しめたいところだが、この娘の国に関しては、前までは・・・・悪い噂は聞いたことがないしな」

「ん?今は悪い噂があるのか?」

「残念ながらな。俺の勝手な推測だが、その娘は正しい道を行こうとしている。そして、それを邪魔に思っている奴らに消そうとされたって所だと思うがな」



 そんな話をしている俺達の横を、必死に足を引きずりながら一階層へ続く階段方向に進む、王族であろう女の子。

 俺達には気が付くはずもなく、何やら虚ろな目をしながらも足を進めている。

 そして、彼女の呟きを拾った瞬間、俺はこの娘を助けることを決めた。



「私は決してあきらめない。お兄様、あなたは間違っている・・・悪魔に力を貸すなんて・・・・・・・・・・・・・」



 この呟きを聞いたヨナ、スミカ、ヘイロンは俺を見る。



「折角の手がかりだ。この場は助けないという選択肢はないな。少々離れた位置から<隠密>を解除して助けることにしよう。ヨナ、<影魔法>にポーションあるか?」

「大丈夫です。この程度の怪我であれば<闇魔法>で縫合すれば問題ないと思いますが・・・」

「いや、無駄にレベルの高いスキルを見せる必要はない。ポーションで治療することにしよう。幸いこの辺りには魔獣の気配がないので、少々距離を取るか」



 一階層へ続く階段方向に移動した俺達は、<隠密>を解除して再び進み、必死で歩く王族の娘が視認できる位置までやってきた。



 俺達を視認した王族の娘は一瞬顔をこわばらせる。敵が来たと思ったのだろう。ここは俺達が話すより、同性で親しみやすいスミカに任せよう。



「どうしたんですか?大丈夫ですか?なんでこんな所にいるんですか?一人なんですか?どこか痛いですか?」



 ・・・これはダメだ・・・良くも悪くも素直すぎるからな。期待した俺がバカだった。



「おい、ちょっと落ち着け。そこのお嬢ちゃん、俺達は少々訳があってここに修行しに来ている冒険者パーティーだ。見たところ少なくない怪我をしているようだから、まずは治療させてもらって、落ち着いた状態で話を聞かせてもらえるか?」



 さすがは熟練冒険者のヘイロン。水を差し出しながら王族の娘・・・もう面倒くさいから王女でいいか?まだ確定したわけじゃないけど・・・王女に向かう。



 スミカのドタバタから、落ち着いたヘイロンの一連のやり取りを見て少々安心したのか、王女は素直にヘイロンから水を受け取り、飲み干した。

 その間に、ヨナがポーションで怪我の治療を終了させる。



 もちろんヨナは認識阻害をしており、素顔はさらしていない。



「あ、ありがとうございます。正直に申し上げますと、もうだめかと思っていました」

「そりゃそうだろうな。こんなSランクダンジョンに武器が普通の弓矢、それも残り矢が三本。そして怪我までして満身創痍。普通は死んでるぞ」

「ええ、ご指摘の通りです。この指輪の収納にも、もう武器はありませんし、本当に危険な状態でした」

「じゃあ、少々事情を教えてもらえるか?」

「・・・命の恩人なので、隠すわけにはまいりませんね。私、このダンジョンから程近いリスド王国の第一王女で、ナユラ・リスドと申します」



 怪我も治り、少し落ち着きを取り戻したように見える。そして想像通り、やはり王女だった。しかし流石は王族。高級アイテムの収納指輪を持っているようだ。



「実は私の国、リスド王国では、お父様である国王が崩御して王位争いが起こっています。王位継承者は私を含めて三名おりますが、一番上の兄上は今病床に臥せっております。そして二番目の兄上は・・・私、聞いてしまったんです。あの兄上が長兄とお父様を悪魔の力を借りて手を下したと言うことを・・・」



 やはり悪魔が出てきたか。俺は無意識に手に力が入ってしまう。



「私がその話を聞いていることも、悪魔の力を借りている兄上にはわかっていたようで、その日のうちに、ここよりも更に奥まで、屈強な冒険者に連れてこられてしまいました」

「一応確認するが、その冒険者どもはどうなった?俺達はすれ違っていないぞ」

「残念ですが、この奥にいる魔獣によって命を散らせました。その隙に私は逃げてきたんです」



 運が良いんだか悪いんだか・・・とりあえず正直に気になったことを聞いてみるか。



「凡その話は分かったが、仮に貴方・・・失礼、ナユラ王女が国に戻られたとしても、状況は厳しいのでは?」

「いいえ!決してそのようなことはありません。元からあの兄上は国民に対して適切な対応をするような人ではなかったんです。そんな人が国王になってしまったら、我が国はおしまいです。決してあきらめるわけにはいきません」



「その病床に臥せっているという第一王子はどうなんですか?」

「あの兄上はとてもやさしいお方で、よく第二王子である兄上と意見が合わずに喧嘩をされていました。・・・私は決めたんです。王族のいざこざで国民に苦労をさせるわけにはいきません。必ず第二王子を断罪し、第一王子に王位を継いでもらうと!」



 この王女は、一応王位継承権があるのだろうが、自らが王位に就くつもりはないらしい。

 しかし、悪魔か。魔族ではなく悪魔が出張ってくるとはな・・・

 その悪魔が、母さんを殺した魔族の親玉かはわからないが、10年以上待ってようやく得られそうな手がかりだ。逃すわけにはいかないな。



「ナユラ王女、その悪魔についてもう少し情報をいただけませんか?実は私も悪魔を探していまして、私の仇がいるはずなんですよ。場合によっては協力できるかもしれません」

「本当ですか??わかりました。その悪魔は人の姿をしています。しかし、溢れる瘴気は隠しきれないようで、少々武をかじっていれば見分けることは可能です。そして、詳しくはわかりませんが、毒素を扱うようなのです。どのように第二王子である兄上と接触したかなどはわかりませんが、しょっちゅう兄上の部屋に来ているようです」

「しょっちゅう来ている・・・それは今も来ているということでいいんですね?」

「え、ええ。私がここに連れ込まれる直前にも来ていましたから」



 溢れる殺意が抑えられなくなってきそうだ。

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