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ゾルドン王子の足掻き

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 ナユラは力を受け入れるために、<光剣>を手にした状態で微動だにしていない。



 一方、クズ共も同様に固まっている。

 こいつらは絶望・驚愕、現実を受け入れられない状態によって固まっているので、決して力が流れ込んでいるからではない。

 だが、そんな状態を放置してやるほど俺は優しくない。



「クズ!!約束通りお前の命をもって終わりにしてやろう。二言はないだろうな?」

「な、待て!まさか本当に抜けるとは・・・とすると、そこにある<六剣>は全て本物か・・・」



 近衛騎士達には動揺が走っている。特に一番最初にこちらに刃を向けてきた新人近衛騎士の動揺が激しい。伝説の力を持つ集団に真っ先に喧嘩を売ったのだから当然の反応だ。



「おい、アルフォナと共にそこにいる伝説の<六剣>所持者達!貴様らにはこの魔族討伐の英雄であるゾルドン王子に仕える事を許そう。共に悪魔を討伐してお前らを英雄にさせてやる。こんな何の力もないクズに仕えていても良いことはないぞ。未来の国王に仕えられるチャンスはそうそうある物ではない。迷う事はないだろう。そうすれば、さっきまでの不敬もなかったことにしてやる」

「ああ、一切迷う事はないな。騎士道精神に誓って貴様なんぞの配下にはならん。私、いや我ら<六剣>所持者が仕えるのは、最強の剣である<無剣>所持者であるロイド様のみ。貴様こそ不敬だ」

「何が魔族討伐の英雄だ!笑わせるな。お前さえいなければユリナス様は難なく魔族を討伐できていたんだ。魔族に捕えられ邪魔になった挙句に、一撃も与えられなかった腰抜けのクズが喚くんじゃねーよ!!」



 俺が何かを言い返す前に、アルフォナとヘイロンが怒りを込めてクズに返事をしていた。

 ヘイロンのセリフには、テスラムさんが深く頷いている。

 彼らの体からは怒気が漏れ始めているが、まだ堪えてくれているので問題ないだろう。



「な、このクズが<無剣>所持者だと?」

「だから言っただろうが、おれは基礎属性がないのではなく、<無属性>だとな」



 そう言って、こいつには過ぎた物だが<無剣>を顕現させ、切っ先をクズに向ける。



「くっ、良いのか?ここで俺が、いや俺達が死ねばフロキル王国が黙っていないぞ!」

「この期に及んで脅しにもならない事を言ってくるとは・・・貴様には本当に失望した。ロイド様、嫌々ながらも一旦は仕えていたこのクズの断罪、よろしければこの私、アルフォナが致しましょうか?」



「いや、当初の話の通り先ずは今の状況を理解させよう」

「承知しました」



 アルフォナも、あふれ始めた怒気を抑えて一歩下がる。

 こう言った精神的なコントロールはアルフォナとテスラムさんがずば抜けている。

 見ようによっては冷淡にみられる場合があるかもしれないが、必要に応じて冷静になれない者は十分な力を発揮できない場合が多い。

 最近テスラムさんから教えを受けている俺達が、最初に習った事だ。それ程重要なことなのだろう。



「それじゃあクズ共、お前らの武器を取り上げるようなことはしないが、万が一攻撃の気配を感じたら容赦なく反撃するからそのつもりで」



 近衛騎士共は怯えており、全身が震えている。情けない。

 だが、これで現状の説明はできるだろう。



「じゃあ、テスラムさん。最新情報を含めて説明してもらってもいいか?」

「もちろんでございます。お任せください」



 一歩前に出て説明を始めようとしている。

 何故か近衛騎士達も一歩下がるがまあいいだろう。



「皆様、私は<風剣>のテスラムと言います。余命少ないあなた方が覚える必要は一切ございません」



 いきなり強烈なストレートを放ったテスラムさん。よっぽど怒っているんだろう。表情からは一切伺い知る事はできないが。



「では現状を説明いたしましょう。先ずは、あなた方の傲慢な姿勢が続いたために、第四防壁内の冒険者を含む住民の不満が充満しており、既にご存じの通り全ての住民がフロキル王国を出国しました。そうすると、第五防壁の外にいる魔獣を討伐する者がいないので魔獣が激増しております。その討伐を命ぜられたのに何故かここにいるのか不思議でなりませんが・・・」

「な、なぜそこまで知っている?」



 クズが驚愕しているが、ウチのテスラムさんの情報収集能力を甘く見て貰っては困る。

 いや、今更認識を改めても余命が短いので意味はないだろう。

 クズの質問を一切気にせずに、テスラムさんは説明を続ける。



「そうすると、当然魔獣が増殖するわけです。既にその中から魔族に進化した者が三・・・いえ四匹いる事を確認しています。既に魔獣はこの<六剣>の洞窟よりさらに先までのエリアで増殖している事を確認しており、即ちフロキル王国は外部への脱出は全ての魔獣を討伐しない限り不可能な状態までになっています。この辺りもあなた方の愚策、そして自らの欲のみを最大限追求した結果。いやはや流石です。自ら退路を防ぐ不倶戴天の決意ですな」

「ふざけるな。お前の言う通りだとしたら、なぜこの場に魔獣がいない。<六剣>の洞窟周りも魔獣であふれているんだろ?」



「フフ、間もなくこの<光剣>の洞窟もそうなりますよ。今までは<光剣>の力に怯えていた魔獣共が侵入してこなかっただけですからな。その<光剣>も間もなくこの場から無くなります。もちろん既に抜剣されている他の洞窟は魔獣で溢れていますよ。いや~、楽しみですな」



 都度恐怖を湧かせるセリフを忘れないテスラムさん。黒い笑顔が非常に怖いのは経験上知っていたが、クズ共にとって見ては初体験なので、それはそれはとてつもない恐怖だろう。



「おい、お前!様子を見て来い!!」



 真っ先に俺達に切っ先を向けてきたので、誰よりも洞窟の出入り口に近い位置にいた新人近衛騎士が命令される。

 テスラムさんが言った現実を受け入れられないのか、慌てて出口に向かっている。

 彼にしてみれば本当がどうかわからない魔獣の発現よりも、この場のテスラムさんの方が恐怖なので、何も考えずに命令に従ったのだと思う。



「くそ、いやまだ事実かどうかわからない。ロイド、あいつの報告でさっきの戯言が事実でないと確認されたらどうなるかわかるだろうな?」



 相変わらず自分の立場が分かっていないようだ。

 そもそも、お前は今さっき俺との賭けに負けて命を奪われるはずなんだぞ?

 とは、面倒くさいので言わない。なぜなら、どう考えてもテスラムさんの言う事は事実で、気配によれば既にあの騎士は出口を完全に出る前に魔獣と遭遇しているからだ。



 かなり弱い魔獣と戦闘になってはいるが、魔獣の数が増えている事、中レベル程度の魔獣もこの洞窟に興味を示している事から、このままでは間もなくあの騎士の命は亡くなるだろう。



 そうそう、俺達が持っている伝説の剣は完全に力を抑え込んでいるので、魔獣からしてみれば障害が一切ない状態になっている。



 だって、こんな話をしている最中にこいつらのために結界を張っているなんて無駄だろ?



「お前は相変わらずなんでそんなに無駄な自信があるんだ?あの騎士が無事に戻ってこられるとでも思っているのか?」

「どういう意味だ?」



「ここまで説明しないとわからんか。いいか!テスラムさんが言っていたことは事実だ。いや、俺も魔族に進化した者は三匹と報告を受けていたんだが、今この場で四匹に増えたようだな」



 テスラムさんが頷いている。



「そして、この洞窟の<光剣>の封印も解けると共に、ある意味洞窟の防御機能も失った。つまり、あの若い騎士は今現在魔獣に襲われているという事だ」

「でたらめを言うな。万が一魔獣がいたとしても、今襲われているなど分かるわけがないだろう」



「そう思うのは勝手だがな。お前が受けた命令を俺達が知っていたのは分かってるよな。それくらいの情報収集能力は持ってるんだよ。だがな、あの騎士が戦闘をしていると言う事実は別に特殊能力を使って知り得た事じゃないぞ。俺達の基礎能力が高いから、気配で解るんだ」
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