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ゾルドン王子の真の実力
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「クソッ、なぜ英雄であるこの俺がこんな状態に・・・」
クズ兄は国王の命令に背き、その結果、正に起ころうとしているフロキル国家存続の危機の原因の一端を担っているにもかかわらず、現状を嘆いているばかり。
あの国家中枢を担っているやつらは、そんな奴ばかりなので別段驚くべきことではない。
「おい、さっさと英雄の力を見せて見ろ!」
相変わらずヘイロンは容赦ない。
「煩い。この俺の<炎剣>を奪ったやつが偉そうに言うな!」
未だクズ兄の中では、ヘイロンは<炎剣>を奪った憎い奴と言う位置づけが確定している。
だが、何をどのように喚いたとしても現状が変わることはない。
そう、あのクズ兄の前には多数の魔獣が列をなして待っている。
洞窟の出入り口は大した大きさではないので、一気にとてつもない量の魔獣が来ることがないのだけが幸いだ。
奴の装備は、王子と言う立場を最大限に利用したであろう豪華な装備になっている。
奴の持っている剣は当然俺達の剣と比べるまでもない代物ではあるが、レアドロップか、人族の英知を極限まで集約した剣なのだろう。
そこそこの力が込められている。
そう、込められているだけで決してクズ兄本来の力ではない。
とは言え、俺達もその辺りに関しては人の事は言えないので、ここは良いだろう。
その他、部分的に防御のために装備している鎧や宝飾品も、何かの力を付与している感じだ。
あれだけ自分に強化を施しておけば、あの程度の魔獣に遅れを取ることはないだろう。
俺の予想通り、クズ兄はそこそこ奮闘している。
迫りくる魔獣を以外にも軽快な動きで迎え撃ち、無理のない体制で切り裂いている。
王族故に、剣術などは基礎を叩き込まれていたんだろう。
「どうだ!見たか。これが魔族討伐の英雄であるこの俺、ゾルドンの真の力だ」
低レベルの魔獣討伐ではある物の、一応流れるように討伐することができたクズ兄は自信満々に俺達にアピールしてくる。
後ろに控えている近衛騎士達も、これで少しは休憩ができると安堵の表情を見せているように見える。いや、彼らの想定以上にゾルドンが使える事が証明されて安心しているのかもしれない。
「へぇ~、そこそこやるんだな。俺としてはやつの事だから速攻で騎士の後ろに隠れるかと思っていたんだがな」
「そうですな。剣術の基礎はかなり修練したように見えます。ですが、そこまでです。ヘイロン殿と違い修羅場をくぐった経験はないのでしょう。今は正攻法で対処できる範疇ですが、魔獣も正々堂々真正面から来るだけではありませんからな」
「そうだな。いかなる攻撃からも主君を守る騎士道精神をもってすれば、これくらいの修羅場は克服できそうな物なのだが・・・アレでは無理だろうな」
クズ兄の動きを意外と思ったのは俺だけではないようで、思わずヘイロンも軽い賛辞を述べた。
だが、テスラムさんとアルフォナは、クズ兄と近衛騎士達がこの修羅場を超えられないと判断したようだ。
いや、俺達全員同じ判断ではあるのだがな。
王城における鍛錬で基礎だけはできており、装備によってブーストされていたクズ兄も普段鍛えているわけではなく、テスラムさんの言う通り修羅場等一切くぐっているわけがない。
体力もなければ臨機応変な対応もできない。
思った通り、複数の魔獣がどこかで拾ったであろう武器を、味方の魔獣がいるにもかかわらず投げてきた事に対応できず、肩に傷を負った。
クズ兄にしてみれば、王城内部での鍛錬時には味方を目くらましに使用した攻撃を受ける想定はしていないはずだ。
「う、こいつら下等な魔獣のくせに、この俺に傷をつけるとは!!おい、お前らも十分休んだだろうが!!ここにいても埒外が明かない。まだ体力があるうちに突破するぞ!!」
後方に控える近衛騎士を奮い立たせる。
近衛騎士達は、クズ兄の為ではなく自分達が生き残るためにもそうするしかないと悟り、かなりの気合の入りようだ。
俺達と言えば、<六剣>の力を微小範囲に纏っているので魔獣はこちらを認識してはいる物の、一切近づいてくる気配は見せない。
「お~、思った以上にやるじゃねーか。どうする?魔族の気配が近づいてきているが・・・間もなくここに来そうだぞ。このままだと、あいつは魔族に相対したら瞬殺だな。だが、まだ一回しかあいつの絶望の表情を見ていないんだよな」
「そうですな。魔族をこの洞窟内で閉じ込めてしまえば情報漏洩の心配も減るでしょう。ロイド様、如何しますか?」
ヘイロンの呟きにテスラムさんが反応した。俺としてももう少しあのクズの絶望の表情を見たいので、不本意ではあるが少々手を入れることにしよう。
「魔族がこの洞窟に侵入後、万が一を考えてアルフォナを洞窟の外に配置し、一旦洞窟を<土魔法>で密閉してもらうか?」
「そうですな。それが良いかもしれません。良いですかアルフォナ殿?」
「主君の命だ。否もない」
「助かるよ。アルフォナはあのクズの絶望の顔を目の前で見られなくなってしまうので申し訳ないが、頼む。それと、周辺の魔獣がいるだろうから対処にスミカもアルフォナに同行してくれ」
「お任せください」
「ぐぁ~・・・」
洞窟から脱出しようとして、一旦俺達の視界から消えていたクズ御一行は、階段を転げ落ちるように再びこの場に現れた。
「ゾルドン王子、あれは明らかに他の魔獣とは一線を画しております。明らかに魔族。魔族ですぞ」
焦る近衛騎士隊長。そして、近衛騎士隊長の魔族と言う言葉に絶望の表情を浮かべる近衛騎士達。
いやいや、俺達が絶望の表情が見たいのはお前らなんぞではない。
お前らにも絶望を与える必要はあるが、今、この場所ではあのクズ兄が絶望の表情を見せることが重要だ。
「わかっている。あの場では俺達が展開するスペースがなかったために押しやられてしまったが、この場所であれば散会して攻撃することができる。待ち受けるぞ」
だが、俺達の希望とは裏腹に、クズ兄はまだまだ無駄にやる気を出している。
相手との力量差がわからないクズ故に、絶望を感じることができていない。
未だに勝てると思っている表情だ。
魔族!もう少し頑張れよ!!
俺達の思いが通じたのか、魔族がものすごい勢いで入口から侵入してきた。
その隙に、アルフォナとスミカは魔族の横をすり抜けて洞窟の出口に向かった。
一瞬魔族は驚きの表情を見せるが、先ずはクズ一行に目標を定めたようだ。
俺達は、継続して<六剣>の力を体の周りに漂わせているだけ。
だが、魔族であれば低レベルでもある程度俺達の力には気が付いているだろう。
その上で、あの魔族はクズ兄達に目標を定めている。
本能的に俺達には敵わないと理解できたのかもしれない。
「いいぞ魔族。そのままあのクズ共を長く苦しませろ。ユリナス様は長きにわたり苦しんだんだ。瞬殺なんて許さねーぞ」
「ヘイロン、心の声が漏れてるぞ」
「お、スマンなロイド。だがこれは偽りない俺の心だ。どうする?万が一瞬殺されそうになったら・・・いや、実力差からその可能性が極めて高いが、そうなってしまったら俺は納得できねーぞ」
「私もそう思います。ロイド様。アレはユリナス様の仇です!」
「確かにヘイロン殿とヨナ殿の仰る通りですな。あの騎士共は良いとして、王子本人は瞬殺など生ぬるい。そうなってしまいそうな場合、大変不本意ではありますが、ギリギリ命に別条がないレベルの時点で魔族を討伐致しましょうか?」
俺の事情を知ってはいるが、母さんに会った事もなければ縁もゆかりもないナユラは黙っている。
だが、決して反対はしてこない。
<光剣>所持者として、<無剣>所持者の俺の無念は理解しているからだ。
クズ兄は国王の命令に背き、その結果、正に起ころうとしているフロキル国家存続の危機の原因の一端を担っているにもかかわらず、現状を嘆いているばかり。
あの国家中枢を担っているやつらは、そんな奴ばかりなので別段驚くべきことではない。
「おい、さっさと英雄の力を見せて見ろ!」
相変わらずヘイロンは容赦ない。
「煩い。この俺の<炎剣>を奪ったやつが偉そうに言うな!」
未だクズ兄の中では、ヘイロンは<炎剣>を奪った憎い奴と言う位置づけが確定している。
だが、何をどのように喚いたとしても現状が変わることはない。
そう、あのクズ兄の前には多数の魔獣が列をなして待っている。
洞窟の出入り口は大した大きさではないので、一気にとてつもない量の魔獣が来ることがないのだけが幸いだ。
奴の装備は、王子と言う立場を最大限に利用したであろう豪華な装備になっている。
奴の持っている剣は当然俺達の剣と比べるまでもない代物ではあるが、レアドロップか、人族の英知を極限まで集約した剣なのだろう。
そこそこの力が込められている。
そう、込められているだけで決してクズ兄本来の力ではない。
とは言え、俺達もその辺りに関しては人の事は言えないので、ここは良いだろう。
その他、部分的に防御のために装備している鎧や宝飾品も、何かの力を付与している感じだ。
あれだけ自分に強化を施しておけば、あの程度の魔獣に遅れを取ることはないだろう。
俺の予想通り、クズ兄はそこそこ奮闘している。
迫りくる魔獣を以外にも軽快な動きで迎え撃ち、無理のない体制で切り裂いている。
王族故に、剣術などは基礎を叩き込まれていたんだろう。
「どうだ!見たか。これが魔族討伐の英雄であるこの俺、ゾルドンの真の力だ」
低レベルの魔獣討伐ではある物の、一応流れるように討伐することができたクズ兄は自信満々に俺達にアピールしてくる。
後ろに控えている近衛騎士達も、これで少しは休憩ができると安堵の表情を見せているように見える。いや、彼らの想定以上にゾルドンが使える事が証明されて安心しているのかもしれない。
「へぇ~、そこそこやるんだな。俺としてはやつの事だから速攻で騎士の後ろに隠れるかと思っていたんだがな」
「そうですな。剣術の基礎はかなり修練したように見えます。ですが、そこまでです。ヘイロン殿と違い修羅場をくぐった経験はないのでしょう。今は正攻法で対処できる範疇ですが、魔獣も正々堂々真正面から来るだけではありませんからな」
「そうだな。いかなる攻撃からも主君を守る騎士道精神をもってすれば、これくらいの修羅場は克服できそうな物なのだが・・・アレでは無理だろうな」
クズ兄の動きを意外と思ったのは俺だけではないようで、思わずヘイロンも軽い賛辞を述べた。
だが、テスラムさんとアルフォナは、クズ兄と近衛騎士達がこの修羅場を超えられないと判断したようだ。
いや、俺達全員同じ判断ではあるのだがな。
王城における鍛錬で基礎だけはできており、装備によってブーストされていたクズ兄も普段鍛えているわけではなく、テスラムさんの言う通り修羅場等一切くぐっているわけがない。
体力もなければ臨機応変な対応もできない。
思った通り、複数の魔獣がどこかで拾ったであろう武器を、味方の魔獣がいるにもかかわらず投げてきた事に対応できず、肩に傷を負った。
クズ兄にしてみれば、王城内部での鍛錬時には味方を目くらましに使用した攻撃を受ける想定はしていないはずだ。
「う、こいつら下等な魔獣のくせに、この俺に傷をつけるとは!!おい、お前らも十分休んだだろうが!!ここにいても埒外が明かない。まだ体力があるうちに突破するぞ!!」
後方に控える近衛騎士を奮い立たせる。
近衛騎士達は、クズ兄の為ではなく自分達が生き残るためにもそうするしかないと悟り、かなりの気合の入りようだ。
俺達と言えば、<六剣>の力を微小範囲に纏っているので魔獣はこちらを認識してはいる物の、一切近づいてくる気配は見せない。
「お~、思った以上にやるじゃねーか。どうする?魔族の気配が近づいてきているが・・・間もなくここに来そうだぞ。このままだと、あいつは魔族に相対したら瞬殺だな。だが、まだ一回しかあいつの絶望の表情を見ていないんだよな」
「そうですな。魔族をこの洞窟内で閉じ込めてしまえば情報漏洩の心配も減るでしょう。ロイド様、如何しますか?」
ヘイロンの呟きにテスラムさんが反応した。俺としてももう少しあのクズの絶望の表情を見たいので、不本意ではあるが少々手を入れることにしよう。
「魔族がこの洞窟に侵入後、万が一を考えてアルフォナを洞窟の外に配置し、一旦洞窟を<土魔法>で密閉してもらうか?」
「そうですな。それが良いかもしれません。良いですかアルフォナ殿?」
「主君の命だ。否もない」
「助かるよ。アルフォナはあのクズの絶望の顔を目の前で見られなくなってしまうので申し訳ないが、頼む。それと、周辺の魔獣がいるだろうから対処にスミカもアルフォナに同行してくれ」
「お任せください」
「ぐぁ~・・・」
洞窟から脱出しようとして、一旦俺達の視界から消えていたクズ御一行は、階段を転げ落ちるように再びこの場に現れた。
「ゾルドン王子、あれは明らかに他の魔獣とは一線を画しております。明らかに魔族。魔族ですぞ」
焦る近衛騎士隊長。そして、近衛騎士隊長の魔族と言う言葉に絶望の表情を浮かべる近衛騎士達。
いやいや、俺達が絶望の表情が見たいのはお前らなんぞではない。
お前らにも絶望を与える必要はあるが、今、この場所ではあのクズ兄が絶望の表情を見せることが重要だ。
「わかっている。あの場では俺達が展開するスペースがなかったために押しやられてしまったが、この場所であれば散会して攻撃することができる。待ち受けるぞ」
だが、俺達の希望とは裏腹に、クズ兄はまだまだ無駄にやる気を出している。
相手との力量差がわからないクズ故に、絶望を感じることができていない。
未だに勝てると思っている表情だ。
魔族!もう少し頑張れよ!!
俺達の思いが通じたのか、魔族がものすごい勢いで入口から侵入してきた。
その隙に、アルフォナとスミカは魔族の横をすり抜けて洞窟の出口に向かった。
一瞬魔族は驚きの表情を見せるが、先ずはクズ一行に目標を定めたようだ。
俺達は、継続して<六剣>の力を体の周りに漂わせているだけ。
だが、魔族であれば低レベルでもある程度俺達の力には気が付いているだろう。
その上で、あの魔族はクズ兄達に目標を定めている。
本能的に俺達には敵わないと理解できたのかもしれない。
「いいぞ魔族。そのままあのクズ共を長く苦しませろ。ユリナス様は長きにわたり苦しんだんだ。瞬殺なんて許さねーぞ」
「ヘイロン、心の声が漏れてるぞ」
「お、スマンなロイド。だがこれは偽りない俺の心だ。どうする?万が一瞬殺されそうになったら・・・いや、実力差からその可能性が極めて高いが、そうなってしまったら俺は納得できねーぞ」
「私もそう思います。ロイド様。アレはユリナス様の仇です!」
「確かにヘイロン殿とヨナ殿の仰る通りですな。あの騎士共は良いとして、王子本人は瞬殺など生ぬるい。そうなってしまいそうな場合、大変不本意ではありますが、ギリギリ命に別条がないレベルの時点で魔族を討伐致しましょうか?」
俺の事情を知ってはいるが、母さんに会った事もなければ縁もゆかりもないナユラは黙っている。
だが、決して反対はしてこない。
<光剣>所持者として、<無剣>所持者の俺の無念は理解しているからだ。
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