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ゾルドン王子、王城に帰還する

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「お~、気配ではわかっていたが、益々良い感じになってるじゃねーか。壮観壮観」

 洞窟から出ると、俺達の周りに魔獣は一切近寄らないが、フロキル王国側には大量の魔獣が溢れている。



「ロイド様、フロキル王国側以外の魔獣は私が鍛錬ついでに討伐しておきました。そのせいで、フロキル王国側に魔獣が逃げて行ったのであっち側の魔獣が想定よりも増えていると思います。今回の討伐で、私的にも少しだけ<水剣>を使えるようになってきたと思うんです」

「そうか。ありがとう。ついでと言っちゃなんだが、クズ兄に状況を理解させる必要があるので、痛みも取ってやってくれるか?それとアルフォナ、テスラムさんの案の通り、<土魔法>の防壁を作ってくれ。フロキル王国の向こう側も、ヘイロンとテスラムさんと相談して魔族を取り込むようにしておいてくれ」



「お任せください。では、ヘイロン殿、テスラム殿、防壁を作成する位置を指示いただけるか?」



 ヘイロンは<探索>で、テスラムさんは眷属の力でそれぞれ魔族の位置を把握している。

 お互いが場所を正確に確認しあう事で、万が一にも防壁外に魔族を逃すことはないだろう。



 以前アルフォナは<土魔法>でこの強大な距離に防壁を作れるか不安になっていたようだが、今はそのような気配はない。



 やがて位置関係を完全に掴めたようで、アルフォナは<土魔法>を使用する前準備として<土剣>を顕現させた。

 テスラムさん曰く、本来は属性魔法を使用する際に<六剣>を顕現させる必要はないのだが、慣れていないうちは顕現した方が力の制御がしやすいらしい。



 この辺りも、長く<六剣>を所持していたテスラムさんならではの知識だ。

 ヨナも無意識化で理解していたようなのだが、彼女はあまり他人に何かを教えるのには向いていないので助かっている。



 アルフォナが地面に手をついて魔力を込めている。

 俺達のいる位置とフロキル王国を囲うように、巨大な壁がアルフォナを起点に現れる。



「ヘイロン殿、スミカ殿、この壁表面に<炎魔法>を懸けたのちに<水魔法>で急冷して強度を上げることができます。その後に、所持者となって間もない状態で申し訳ありませんが、ナユラ殿の<光魔法>で、魔法に対する抵抗を付与してください。ヨナ殿は、<闇魔法>で上空を覆う形で防壁を作成お願いします。私も<風魔法>で上空の防壁を作成します」



 壁で囲われた内部の上空は、<闇魔法>と<風魔法>によって外部からの侵入と脱出を防ぐ仕様にするらしい。

 こうしてみると、<六剣>総出で防壁を作成している。なんて贅沢な防壁だ。



 感動していると、順次作業が終わっているようだ。

 一番能力を駆使したアルフォナが若干疲れた様子を見せたが、スミカの<回復>によって完全回復していた。

 こう考えると、スミカの存在はとても大きい。



「こ、こんなバカな。なんだこの力は」



 痛みが取れているクズ兄は、<六剣>の力を目の当たりにして呆然としている。

 だが、最早俺達はこんなクズ兄に俺達の力を親切に説明してやる必要はないし、その気も一切ない。



「おい、これからお前を王城まで届けてやる。だがお前も今、目の前で見た通り、フロキル王国を中心として広い範囲で第六防壁とも呼べる防壁を作成した。この防壁内部には、お前らの怠慢によって溢れている魔獣と一部魔族に進化した者を取り込んだ。他の国に迷惑がかからない様に、第六防壁外の魔獣は俺達が討伐しておいてやったから感謝しろ」

「そ、そんな・・・こんな量の魔獣を防壁で囲うだと??」



「ああ、そうだ。お前らの行いの結果だぞ。親切な俺達はお前に現状をきっちり把握させてやる。ここから王城までどれだけ魔獣が溢れているか、お前のその目で確認するんだな。とは言え、既にここからでも相当な数の魔獣が見えるがな。アルフォナ!」

「お任せを」



 そう言うと、乱雑に作られた<土魔法>の乗り物?にクズ兄を閉じ込める。

 もちろん中から外を十分確認できるように、スカスカだが・・・



「よし、さっさとこいつを送り届けてゆっくりするか」



 あまりに全力で移動すると、クズ兄程度では外の状態を確認することはできないので、若干抑え目に移動する。



 アルフォナは揺れを抑えたり飛来物から保護したりするつもりは一切ないので、入れ物の中でクズ兄は結構苦しんでいる。

 一方で、時々速度をかなり落として周りの状況を確認させるようにもしているので、少なくとも魔獣が溢れている状態は理解しているだろう。



 程無くしてフロキル王国の防壁前に到着する。

 ここは安全のために作られている第四防壁よりも一層外に作られた保険の意味合いがある第五防壁だ。

 ここの門に通常門番がいるのだが、こんな状態なので、より安全な内部の防壁内に移動と言う避難を済ませたようだ。



 何を犠牲にしても自分の身を守る行動だけは一級品な連中の真価が表れている。

 門の周りには、魔獣来襲に抵抗した痕跡が一切ないのがその証拠だ。



 第五防壁の門をくぐると、固く閉ざされた第四防壁の門が見える。

 第四防壁と第五防壁の間には既に魔獣が侵入しており、第四防壁の門や壁に攻撃をしている。



 ここの防壁自体は平民が住むすぐ外側に設置されている防壁であるため、耐魔法強化も弱く、もちろん物理的な強度も弱い。



「ヘイロン殿、私なりに気配を察知してみたのだが・・・この第四防壁内部の住民はギルド関連の者を除いて避難済み。このような緊急事態であればギルドや最も重要な拠点となると思うのだが、人の気配を一切感じない。これは、私の鍛練が足りないのだろうか?」

「いやいや、アルフォナの感知した通りだ。あいつらもより防御力の高い内側の防壁内に避難済みだ」



「ロイド様、如何致しましょうか?このまま門を破壊して侵入するも良し、王城に直接王子を送り届けても良しです。門を破壊してしまいますと、彼らに与える恐怖の時間が短くなってしまいますので、いっそ直接王城に侵入してはいかがでしょうか?」

「それは、<空間転移>を使用するという事かな?まだ一度も使った事はないんだが。正直自信はないな」



「全く問題ございません。転移先の座標の認識、転移先の景色の把握、転移先が視認できる等、条件としては割と緩いと初代様が申しておりました」

「う~ん、それじゃあ練習ついでにやってみるか。切羽詰まった状態で初めて発動するんじゃ困るからな」



 一応魔獣が溢れている状況ではあるのだが、今の俺達にとっては切羽詰まった状況には当てはまらない。



「であれば、私から提案がありますロイド様。あやつらの宝物庫に赴き、中身を一切没収するのはいかがでしょうか?近衛騎士時代にかなりの上納物を運び込んだ記憶があります。そこにはレアドロップも保管されているので、奴らの希望の目は早めに摘んでおきましょう」

「それは良い案ですな、アルフォナ殿。場所は私が把握しております故問題ないでしょう」



「貴様ら、我がフロキル王国の国宝を・・・王子である俺の前でかすめ取ろうと言うのか?恥を知れ!」

「おいおい、人聞きの悪いことを言うな。お前らが強奪した品々を俺達が貰っておいてやるんだ。それにな、これはユリナス様に非道な仕打ちをした罰でもある。俺としては、宝物庫の中身全てでこれ以上俺から直接お前に手を出さないと誓ってやろう」



「ヘイロン殿、なんと騎士道精神にあふれた言葉であろうか!!」



 アルフォナもわざとヘイロンを称えている。

 そう、ヘイロンはあくまでも俺は・・と言っている。つまり、他の<六剣>所持者は手を出すかもしれないと言っているのだ。



 だが、極限状態になっているクズがそんな事を理解できるわけはない。



「う、二言はないな?」

「ああ、お前と違って約束は守る」



 ほらな?予想通りだ。
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