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ゾルドン王子の最後

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 第三防壁上部にいる近衛騎士隊長とSランク冒険者達は、醜い言い争いを続けている。



「すると、我が近衛騎士隊を見殺しにしたと言う事か!」

「あ~ん?一目散に逃げだした奴が何を偉そうに説教しやがってるんだ?」

「おう、その通りだ。そんなに助けたいならあそこにいる王子殿下も救って見せろ」



「王子は、王命により近衛騎士達を救うためにこの場に来たのだ。既に救出対象がいないのであればあんな場所にいる必要はない。王子!ゾルドン王子!!」



 大声で防壁上からクズ兄を呼んでいる近衛騎士隊長。

 だが、その声はクズ兄には届いていない。いや、届いているのだが、理解していない。



「ようやく自分の罪を償う最終段階に入ったな」

「おう、この時をどれほど長い時間待ったか。だが、魔族にはなるべく長くこいつを甚振る事を願うばかりだ」



 ヘイロンも、俺の呟きに感慨深く頷きつつ同意してくれら。



 あのクズ兄は、視界に見える魔族の群れ・・・逆に、救出対象である近衛騎士が一切視界に入らない状況に壁を背にしながら震えているのだ。

 半ばパニックになっているクズ兄に、近衛騎士隊長の声が聞こえても内容など理解できるわけもない。



「王子!ゾルドン王子!!まずい、このままであれば我らは英雄を失ってしまう。至急開門して王子をこちらに迎え入れろ!!」



 門の近くにいる商人に大声で指示を出した近衛騎士隊長だが、その指示が実行される前にSランク冒険者が無慈悲にも待ったをかける。



「まて!決して開けるな!!」



 ドーン・・・



 その声が聞こえ終わるかどうかのタイミングで、魔族が防壁に近接してきたのだ。



「ひぃぃいい・・・」



 クズ兄はもちろんの事、防壁に守られているであろう商人、近衛騎士隊長、Sランク冒険者達も怯えの声や表情を見せる。



 クズ兄などは、座り込んで震えている。それを見たヘイロンは怒り心頭だ。



「おいおい、最後位は抗って見せやがれ!俺達に対するあの偉そうな態度は何だったんだ」



 だが、ああなってしまっては最早死ぬのを待つだけだろう。

 魔族は、目の前にいるのが全く脅威にならないクズである・・・と正しい認識をしたようで、臨戦態勢にはなっていない。

 やがて、かなり後方に位置取っていた魔獣の群れも第三防壁に近づいてくる。



 この魔族がいれば、魔獣が暴走することは無いはずだ。



「あ”ひぃ・・・い」



 絶望の表情を浮かべたクズ兄は、ズボンを濡らして震えている。



「クック・・もうこいつはダメだな。まもなくユリナス様の無念を晴らせると思うとグッとくるぜ」



 魔族はクズ兄の頭を左手で鷲掴みにすると、軽く持ち上げる。

 クズ兄の顔と魔族の顔の高さは同じになり、かなり近い!!



 クズ兄は、目を極限まで大きく見開き体中が震えている。

 不思議そうな目で見つめている魔族は、空いている右手でクズ兄の左手を握ると、無造作に肩口から引きちぎった。



「ぎゃあぁ~~~~~~」



 両足をじたばたさせているが、魔族は頭を離すことはしない。

 途端に第二防壁の上が騒がしくなってきた。



「な、早く王子をお助けするのだ」

「だが、この距離で魔術を発動すると王子まで攻撃してしまう!」



 そんなやり取りが聞こえたであろう魔族は、第三防壁の上を見る。



「ヒッ・・」



 魔族と目があったSランク冒険者は情けない声と共に尻もちをついてしまった。



 魔族の力の一端を理解したであろうSランク冒険者達は、転移で逃げることも忘れて、残り少ないアイテムを使用した攻撃に打って出た。



 魔族に向かって複数の斬撃、土の槍、風の刃、水の爆発、炎の玉・・・多種多様な攻撃が魔族に襲い掛かる。



「グギャァ~・・・・」



 一気に視界が悪くなる中、聞こえて来るのはクズ兄の悲鳴だけだ。

 だが、Sランク冒険者達は攻撃の手を一切緩めない。

 そればかりか、魔族をかなりの至近距離で初めて見たであろう近衛騎士隊長も、手に持っていた槍を魔族に向かって投げてしまっている始末だ。



 だが、防壁の上から下にいる魔族に正確に当てる技量がこの近衛騎士隊長にあるわけがない。



「グギャ~・・・」



 聞こえてきたのは、クズ王子の更なる悲鳴。



「お~、あの近衛騎士隊長、なかなかいい腕してるじゃねーか。クズの右足に突き刺さったぞ!!魔族の援護射撃をするなどなかなかできることじゃねー」



 そうしている間もSランク冒険者達の攻撃は続いているが、魔族に効いている様子はない。

 あいつらには見えないだろうがな・・・



 やがてアイテムを全て使い尽くしたSランク冒険者達は、肩で息をしながら魔族のいるあたりを見つめる。



 やがて視界が開けてくると、相変わらず防壁上部を不思議そうな顔をしながら見つめ続けている魔族がいる。

 魔族には致命傷どころか傷すら見ることができない。

 実は少々傷をつけていたのだが、回復してしまっているのだ。



 だが、攻撃を共に食らっていたクズ兄は違う。魔族が壁になって攻撃を直接食らっているわけではなかったが、右足には近衛騎士隊長の槍、そして体中からは血がにじみ出ている。

 幸か不幸か、左の肩は炎で焼かれたときに血は止まったらしい。



「おいおい、なかなか悪運強いなこいつ。いや、逆か?これほど長く苦しめられる状況にい続けているんだから・・・やはり天罰だな」

「騎士道精神に真っ向から反する者の末路などこんなものだ」



 虫の息のクズ兄と、何のダメージも見られない魔族を見ているSランク冒険者達。



「これは、俺達では歯が立たない。撤退だ!!」



 我先にと第三防壁上部から第二防壁側へ逃げ込む。

 ここでも誰一人として転移のアイテムを使用する素振りすらなかった。

 動揺していて単純に忘れているだけだろう。



 無様に逃げまとっているSランク冒険者達と近衛騎士隊長の姿を見た第三防壁内部の住民はパニックに陥っている。

 その中には、冒険者ギルドの連中もいた。



「Sランク冒険者と近衛騎士隊長がかなわなかった奴らに俺達が対抗できるわけがない」

「に、逃げろ!!」



 口々に騒ぐと、一斉に第二防壁に向かって人の波ができる。

 こいつらは、自分が逃げることに関しては天下一品だ。

 家の中にいる連中も、騒ぎを敏感にかぎつけて逃走している。



「ロイド様、どうぞ」



 ヨナが新しい飲み物を入れてくれた。どうやら俺は肩に力が入りすぎていたようだ。

 いつの間にか画面にのめり込むような姿勢になっていた。



「ふ~、ありがとう。いざ復讐の状態を見ると肩がこるもんだな」



 一息して周りを見ると、他の面々はテスラムさんがおかわりを準備してくれたようだ。



 落ち着いてもう一度映像に視線を落とす。



 第二防壁入口は大渋滞。

 いち早く逃亡していたSランク冒険者と近衛騎士隊長は、あろうことか既に第一防壁近くまでやってきている。いつの間にか馬に乗っていた。



 第三防壁外にいる魔族は防壁内部へ興味を移し、手にしていた瀕死のクズ兄を魔獣の群れに放り投げる。



「た・・・た・す・け・・・」



 誰にも聞かれることのない、そして決して叶えられることのないクズ兄最後の希望を俺達は聞いた。



「ハン、何を虫のいい事言っていやがる。俺達がさんざん頼んだポーション一つすら出さなかったクズに手を貸す奴などいる訳がねーだろ!」



 そう言いつつも、ヘイロンはクズ兄の最後の映像から目を離すことは無い。



 魔獣の群れの中に投げ込まれたクズ兄は、無数の魔獣に嚙みつかれ咀嚼されていく。



「ギャー、助けてくれ!助け・・・て・・くれ・・・・」



 最後に大声を出したが、やがて喉を噛まれた状態で声すら出せなくなった。



「フン、生きるに値しないクズの最後などこんなもんだ。ユリナス様、まずは一人・・・」

「ああ、近衛騎士達も復讐対象だったが、明確な対象は一人目だ。母さんはこんな俺を見て悲しむかもしれんが、ここだけは譲れない」
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