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魔族とSランク冒険者達

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 下を向いて歩いている冒険者達だが、自宅が近づくにつれて足が速くなっていた。

 こいつらは、人に見られない自宅の中で転移魔道具を起動するつもりなのだろう。



 だが、そんな彼らの最後の希望は、それぞれの自宅近くに到着した時に打ち砕かれた。



 あの魔族が、第三防壁内部に侵入してSランク冒険者達を見つめていたからだ。



「ひぅ・・」



 誰だかはわからないが、情けない声をだしている。

 最高ランクに位置するSランク冒険者達全員が、目を見開き魔族を見据えているまま動きを止めた。



 決して戦闘の準備のために見据えているのではなく、驚きと、恐怖心から見ているだけだ。



 ふと、誰かが呟いた。



「くそ、こうなったら止むを得まい」



 そして、自称魔力が枯渇していたはずだが、誰ともなく体に魔力を漂わせた。

 当然の事だが、こいつらは魔力は枯渇などしていなかったのだ。



 体に魔力が漂うように見えているこの状態は、身に着けている魔道具を起動しようとしているためだ。



 魔族の方は、Sランク冒険者達の体に魔力が漂うのを確認すると、好戦的な笑みを浮かべている。

 魔族から見れば、Sランク冒険者達が戦闘態勢になったと思っているのだろう。



「いや~、見ものだな。もしかしてこいつら、最後の最後でとんでもない力を隠し持ってるかもしれねーからな。いっちょ頼むぜ、冒険者最高峰の連中よ!!」

「いやいや無理でしょヘイロンさん。わかって言ってるんですよね?」

「そうに決まってんだろ!あ~、飲み物が一層うまく感じるぜ!」



 暢気な会話をしているヘイロンとスミカだが、映像の向こうにいる連中は驚愕の表情を浮かべて叫ぶ。



「クソ!なんで起動しない。あの魔族の妨害か!!」

「まさか壊れている??」

「ば、ばかな!!」



 お互い秘密にしていたであろう魔道具による避難について、極限状態に置かれているせいで自ら容赦なく漏らしている。

 直接的は表現ではないが、同じ穴の狢だからお互いの状況を理解するのは簡単だろう。



「あの魔族と・・・戦うのか・・・」



 アイテムの力を借りて全員で攻撃したにもかかわらずピンピンしていた魔族が目の前にいる。

 既に自分を守る防壁もなく、力を増加させるアイテムもない。最後の綱の転移魔道具も起動しない。



 全てのSランク冒険者達は状況を理解したようで、震えながらも各自攻撃の準備をする。



「こいつさえ倒せば、魔道具が使えるはずだ」



 また誰が言ったかわからない呟きに、武器を構えた全員の気力が上がったようだ。

 そんなに逃げたいのかよ!!



 魔族は更に好戦的な笑みを深め、距離的に一番近くにいる冒険者に襲い掛かった。

 襲い掛かられた冒険者は、生き残るために通常以上の集中力を発揮したのか、ギリギリで魔族の爪による攻撃を回避する。



「この魔族、明らかに遊んでんだろ?あのクズ王子の前に移動したときと速度が違いすぎるぜ!」

「その通りですな。あの冒険者達を見て脅威度は低いと判断したのでしょう。破壊要求を長時間にわたって満たせるように、全力での攻撃はしていないのでしょうな」



 ヘイロンとテスラムさんの会話に対してナユラとスミカは頷き、アルフォナは顔を顰める。



「全力を出さない相手に敗れ去るなど・・・恥辱の極み!」



 騎士道精神を持つ者として、決闘相手に遊ばれる事態になっていることが許せないようだ。



 だが、魔族の一方的な攻撃は続く。



 標的を変えつつ連続攻撃を仕掛けている魔族。

 おそらく、あの中で誰が一番強いのか確かめているのだろう。



「クソ、この魔族やはり強い」

「このままだと全滅だ。全員で連携して一気に仕留めるぞ!」



 防戦一方のSランク冒険者達が反撃を始めるために、連携を取ることにしたようだ。

 初めからしておけ!!



 だが、所詮はあの国の第三防壁内部の住人だ。

 権力に溺れた奴らが連携などとは笑わせてくれる。



 予想通り、お互いを一切意識しないで勝手に攻撃をしている始末だ。



「おいおい、これが連携なのか?ただ闇雲に攻撃をしているだけじゃねーか。プッ、あいつ、味方の攻撃食らって怪我してんぞ!」



 そんな状態なので、魔族以外にも攻撃が当たっている始末で、彼らが一体何と戦っているのかわからない状態になっている。



 そして、一人、また一人と魔族の容赦ない攻撃にさらされて命を散らしているSランク冒険者達。



 早くも残りは三人になった。



「おい!お前本調子なら魔族なんてイチコロなんだろ?俺の残りの魔力を全て渡すから、全てを出して攻撃しろ!俺はこの魔族との相性が悪い」



 そう言われているのは、第三防壁に移動する最中に自分の力を誇示していた冒険者だ。



 こんな状況になると、奴らに聞こえはしないが、当然ヘイロンの野次が飛ぶ。



「おう!そうだ!!こいつは魔族が脅威でも何でもないと言い放った強者だ!!だが、お前も相性なんて下らねー嘘吐いてんじゃねーぞ!」



 一方、全ての魔力を譲渡すると言われた冒険者の顔は引きつっている。



「な、何を言っているんだ!?そんな事をするとお前は一切戦えないではないか?」

「そんな事を言っている場合か!このままでは確実に全滅だ」

「俺もお前に全てを託す」



 そう言って、了解を得ないまま二人の冒険者は本当に全魔力を一人に譲渡した。



 魔族は余裕からか、その行為を一切邪魔することなく観察している。



「ギャハハハ、こいつらバカかよ!!本当に魔力を全て渡しやがった。ハハハ見ろ!渡された方!!ワナワナしてるじゃねーか!ブハハハ、それに渡した二人の”頼んだ”みたいな表情!!こいつが魔族なんて脅威じゃないと言ったことを本当に信じちゃってるよ!!」



 魔力を全て渡してしまった冒険者二人は、大汗を掻きながら魔族との距離を開ける。

 さすがにあの状態ではまともに動くこともできないだろう。



 戦闘の矢面に立たされた冒険者が最初にとった行動は・・・

 自らの体に魔力を漂わせることだった。



「おい、お前だけ逃げようとしやがったのか!」

「俺達の全魔力を渡したんだ。逃げるなど許さんぞ!!」



 そう、自分だけ魔道具による避難を行おうとしていたのだ。

 魔力が通常よりも遥かに高い状態になっているので、魔道具が起動するかもしれないと思ったのかもしれない。



 だが、本当は魔力を体に漂わせただけの状態で転移魔道具による避難を行おうとしたと非難されるのはおかしい。

 魔力を体表に漂わせて防御力を上げると言う戦い方もあるからだ。



 しかし、クズ共はクズの考えや行動などお見通しなので、確認することなく非難した。

 つまり、逆の立場であれば自分もそうしたであろう行動を取られたことで、即座に反応できたのだ。



「いや~、見事なクズ連中だな。呆れて何も言えねーぜ!」

「でも、なんだか無駄に情けない方向での連携はすごくないですか?」



「そう言やそうだな。成程、そんな考えもあるのか。流石若いだけあって柔軟じゃねーかスミカ」

「えへへ、それほどでもないですよ」



 アルフォナは最早諦めの表情を浮かべながら映像を食い入るように見ている。



 全ての魔力を渡されて、魔族と一対一を行う羽目になった冒険者。

 逃げることもかなわずに呪文を唱え始める。



 攻撃をする他には一切手がないと、ようやく悟ったらしい。



「全ての大地に眠る炎達よ、我は炎を従える者なり。今こそその力を我に示し、主君たる我のためにその力を使え。我が怨敵を滅せよ!メガフレイム!!」



 こんな攻撃もできたのか!と言う程の豪炎が魔族を襲っている。

 油断していた魔族はこの攻撃をまともにくらってしまい、初めてと言っていい程の大ダメージを受けているように見える。



 この攻撃をした冒険者は、両手両膝を地面につき、精魂尽き果てたような状態になっている。



「流石だ!本調子であれば魔族を討伐できると言ったことは嘘ではなかったようだな」

「我らが譲渡した全魔力を使った攻撃、実に見事だ」



 普段では決して使う事の出来ない魔法を、二人の冒険者から魔力を譲渡される事でうまく使いこなして魔族に大ダメージを与えている。

 魔力を譲渡した二人も絶賛している。



「ヘイロン殿、こやつが今唱えた呪文は基礎属性<炎>の最上級魔法と言われている物です。ですが、この程度の魔法であれば無詠唱で即座に発動できなければなりません」

「あ、あぁ良く理解しているよテスラムさん。あの地獄の特訓でイヤと言う程理解したさ」



 やはり<六剣>所持者ともなれば、冒険者達が最上級魔法と呼んでいる魔法すら初歩の技術になってしまうらしい。
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