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王族最後を決断する

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 この国王の私室は、諦め、絶望、憤怒と言った悪感情に支配されており、まるでどす黒い霧に覆われているようだ。



 国王から厳しい現実を突きつけられて、誰一人として解決策を思いつくわけでもないこの状況・・・こんな雰囲気になるのは必然だ。



 そこで口を開いたのは、やはり空気を読む力がない豚一行の一匹だ。



「それでは、ロイドはこの場所から安全に避難できる力を持っていると言う事ですね?であれば、何とかロイドに我らも救ってもらっては?」



 恥も外見も一切なく、相手・・・つまり俺の感情など考えない自分勝手な意見。こいつらはこんな意見が本当に通ると思っているから質が悪い。

 自分がどのような事をしていたか理解できていない。

 いや、理解していても悪い事だとは思っていないんだ。



 俺が粗末な扱いを受けたのは基礎属性がなく、王族を追放された身分だから当たり前!

 母さんが死亡したのは平民だから王族・国家の為であり当たり前。



 あまりに気持ちが高ぶってしまい、殺気が洩れそうになったので深く深呼吸をして気持ちを落ち着ける。



『ロイド様、お気持ちは理解できますが・・・抑えてください』

『大丈夫だよテスラムさん。ふ~』



 気持ちを落ち着けている最中にも、豚の討論は続く。



「ロイドは王族を追放された。だが、今回、次代を担う我らを救出する栄誉を与えれば、泣いて喜ぶに違いない」

「そうだ。場合によっては王族に戻すことを褒章としてやれば、飛びついてくるだろう」

「それが良いでしょう。ですが、頼むときは殊勝な態度で頼むのですよ?万が一にも断られてしまっては厄介ですからね」

「あんなクズに頭を下げないといけないとは癪だが、命には代えられないな。だが、この窮地を脱したら用無しじゃないか?」

「<無剣>所持者なんだぞ!王族に復帰させてその力を取り込んだ方が良いに決まっているだろうが!」



 言いたい放題だ。

 こいつらは、俺が王族という地位に未練があることを前提としている。

 そもそも、俺はこのフロキル王国を滅亡させようとしているのに滑稽この上ない。



 そんな豚共の討論を聞いた国王が、力なく答える。



「もう既にロイドには断られている。むしろあいつはこの王国は滅びるべきだと考えているのだ。王族復帰等を餌にしても何の意味もない」



「・・・・・・」



 静寂が国王の私室を包む。



「それでは、本当に我らには助かる術がない・・・と?このまま飢えるか・・・万が一魔獣共が第一防壁を超えてきたら蹂躙されるか・・・の未来しかないと??」



 豚の悲痛なセリフに、国王は無情にも更なる現実を突きつける。



「いや、もう一つある。ギルドマスターも理解しているだろう?」



 ガタガタ震えだすギルドマスター。



「王城には、魔族討伐を成し遂げたSランク冒険者が三人いる。こやつらもやがては食料を要求してくるだろう。だが、現実問題食料はない。となるとどうなるか・・・我らが食料になる可能性があるのだ」

「ば、そんな馬鹿な!我らは王族!王族なのですよ!!!」



「こんな緊急事態に身分もクソもないわ!!あるのは力のみだ!!!そう考えると、我らは魔獣の群れに放り込まれた赤子も同然だ!!」



『ほ~、中々状況把握はできてるじゃねーか豚の元締め。だがロイド見たか?近衛騎士隊長、一瞬武器に手をかけそうになってたぞ!』

『そうだな。だが・・・なんでだ?』

『ロイド様、おそらくこの場所で全員を切り倒してSランク冒険者に献上しようとしたのではないでしょうか?この場であれば、あのような未熟者でも最強ですからな』

『それが騎士のすることか!!』



 アルフォナの怒りの咆哮を流して、テスラムさんに質問した。



『それならなぜ止めたんだ?』

『おそらく、その場限りをしのいだとしても自分は助からないと思ったのでしょう。それならば、最後を共にする人がいる方がまし・・・と思ったのではないでしょうか』



 そんな中、豚からまさかの提案が出た。

 こいつらが何かを自発的に考える事などできないと思っていたのだから驚きだ。

 だが、この発言をしたのは第一王女だと確認した俺は納得した。

 俺の朧気ながらの記憶によれば、一番頭の回転が速かったような・・・

 とは言え、長い間の培養生活と言う洗脳によってその頭は腐っていると思うがな。



「父上、現状は理解いたしました。最早打つ手がない事、そして我ら自身も魔獣だけではなく味方かと思っていた者からも狙われる可能性が高い事。ですが、王族としてそのような惨めな最期を迎えるわけにはいきません」

「そんなことはわかっておる。だが手がないと言っているだろう!」



「そこで私から提案があります。あの宝物庫は第一防壁よりも堅牢に作られていたはずです。そして、解錠するには王族が共にいないとできない」



 いや、テスラムさんは簡単に解錠できたが?・・・実際俺が解錠しようとするのは無理で、あの扉を破壊することになっていただろうからその辺りは事実だな。



「それがどうしたのだ?あの場所は既に空になっているのだぞ!」



 国王も怪訝な表情だ。



「はい、我らの最後はあの場所にするべきと申しております。つまり、余計な外敵により最後を迎えるのではなく、あの場所に籠城して最後を迎えるのです」



 しばしの静寂の後、国王も決意したようだ。



「そうだな。それしか方法はないだろう。では、残り少ない食料を持って宝物庫に移動する。ついてまいれ」



 力なく立ち上がる国王と、悔しさをにじませている他の面々が国王と共に私室を出て行った。



 久しぶりに見る異母兄弟を目にしても何の感慨もなく、醜い姿に失望したが、最後の長女のセリフだけは王族らしい毅然としたものだった。この王女の脳は腐ってはいなかったらしい。



「ロイド様、あの王女、最後は本当の王族らしい振る舞いができていたかと思います。あのような姿勢を持って民と向かい合えていたらこのような最期を迎えることもなかったでしょう」

「ナユラの言う通りだな。だが、今回は全てが遅かった。それだけだ」



「それでは一旦帰還と致しましょうかロイド様。この国家に対する復讐はほぼ済みましたので、一旦休息とし、次は魔王ですな」

「ああ、次はこんなに簡単にはいかないだろう。向こうは<六剣>と戦った経験があるんだ。それなりの準備はしているだろうからな」



「それでは、我らはその難敵を倒すために騎士道精神を持って修行をするか!」

「ば、バカ!アルフォナ、余計な事を言うんじゃねー。テスラムさんは一旦休憩と言ってるんだ!」

「そうですよアルフォナさん!休憩も大切!!」



 アルフォナの気合に、いつもの通りヘイロンとスミカが慌てて待ったをかけている。



「スミカ殿の言う通り、休息も大切ですぞアルフォナ殿。ですが、日課の鍛錬は欠かさずに行うのは良いと思います」

「む、承知した」



 テスラムさんから、改めてはっきりと休息をとると聞いたスミカとヘイロンは大喜びだ。



「それでは帰還いたしましょう。ロイド様お願いいたします」



 この王城、そして異母兄弟、使用人、近衛騎士隊長、ギルドマスター、最後に赤の他人になり下がった国王ともお別れだ。二度と直接対面することは無いだろう。



 目を瞑れば、今までフロキル王国で受けた仕打ちが走馬灯のように蘇ってくる。



 だが、復讐はまだ残っている。いや、このフロキル王国での復讐も完遂したわけではなく、完遂できるのを待っている状況ではあるのだが、残りの半分・・・魔王関連は最大限の警戒と準備を行ってからでは返り討ちに会う可能性もあるので、慎重に行こう。



 決意を新たに、<六剣>所持者達と共にリスド王国に帰還した。



 もちろんフロキル王国の宝物庫にはスライムがいるので、結果の確認は怠るつもりはない。
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