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未来へ(1)
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ここは魔国アミストナ。
「テスラムさん、久しぶりですね。もうそんな季節ですか。時間が経つのは早いものです。フロキル王国は変わりなさそうですが、テスラムさんから見てどうですか?」
「ええ、いつも通りに平和な日常が続いております。それも、この日常の礎を築いたロイド様を始め、本当に気の良い<六剣>の仲間達のおかげです」
普段はフロキル王国に住んでおり、めったに出国する事の無い、ある意味フロキル王国の守り神的な存在となっている<風剣>テスラムが、アミストナと共にロイド達の時代の思い出話をしている。
ロイド達と共に行動していた時代から相当時間が経過しており、すっかりアミストナも大人びて、雰囲気も大きく変わっていたのだが、テスラムは当時からあまり変わった様子はない。
この二人、魔族であるが故に人族とは大きく寿命が異なり、初代<無剣>の時代から今尚生存している。
既に二人の間の子供も自立しており、この魔国アミストナの次期国王になるべく研鑽している。
この二人、人族もそうだが、魔族も年齢を重ねると昔話が好きになるようで、話に花を咲かせている。
テスラムも、同族であり当時の状況を知るアミストナと年に一回行っている行事のためにこの場に来ているのだが、やはり話に夢中になる。
テスラムの雰囲気から、何か重大な事が有る訳ではなく、単純に例年通りの行事を行うためだけに顔を出したと理解したアミストナも肩の力を抜く。
「あの当時は色々ありましたが、本当に楽しかったですね」
「仰る通りです。フフフ、思い出しますな。修行嫌いと言いつつ逃げ回るものの、仲間のために裏で必死に努力し、いざと言う時には最も頼れる男、ヘイロン殿」
<炎剣>ヘイロン。
<六剣>最強の攻撃力を誇ると言われる<炎剣>所持者であったヘイロン。
言葉はがさつで態度も荒いが、人情味に溢れ、目立たないようにこっそりと裏で努力する男だった。
誰よりも仲間を思い、そのために自分が犠牲になる事は厭わないが、表立った修行だけは最後まで進んで行う事は無かった。
そこも敢えてそうする事で、場の雰囲気を良くしていたのかもしれない……と今なら思えるテスラムだ。
そんな<炎剣>ヘイロンは、市井の者達にはその高い攻撃力ではなく、ぶっきらぼうながらも非常に優しい男であると広く知られていた。
「ですが、逃げ回るヘイロンさんを上手く導いて、良く調整して下さったのがスミカさんでしたね」
「調整……していましたでしょうか?あの方も、ヘイロン殿に引っ張られて修行を嫌そうにしていましたが、やはり常に共に行動していたヘイロン殿の影響を大きく受けたのでしょう。裏で必死に修行をしておりましたよ。何せスミカ殿の力、<回復>がなければ一大事になるのですから、あのホンワカとした雰囲気からは想像できない程の責任感と集中力で修行をされていました」
テスラムは、ヘイロンが亡くなった時を思い出していた。
怪我や病気は幾らでも対応できるのだが、いくら<六剣>の力を持ってしても寿命には抗えない。
年を重ねる毎に相応に衰え、やがてその時を迎える。
その時点で、スミカが慈しむようにヘイロンの手を優しく握り続けていたのが印象に残っている。
<水剣>スミカ。
「あの方は、本当に殺伐とするような雰囲気を変える事が得意でした。<水剣>の特化能力、<回復>に相応しく、心から優しい方でもありましたな」
「ですが、最後まで食いしん坊なのは治りませんでしたね。あれでいて太らなかったのですから、ズルいです」
テスラムの言う通りに基本的に争いごとを好まない優しい性格のスミカは、その温かな心が態度にも出ており、周囲を常に和やかにしていた。
亡くなって相当な年数がたった今尚、思い出話の中で出て来るだけで、話している方が笑顔になれる存在だったのだ。
一方で、ヘイロンと同じ様に<六剣>達のために必死で力をつけるべく、人知れず修行して怪我を癒せるように努力していた事もまた事実。
ある程度の力を得ていた頃の<六剣>達にはその修行はバレバレだったが、誰も指摘をする事は無く、スミカの頑張りをこっそりと応援していた。
「フフフ、そうですね。ですが元来の性格か、本当に万人に対して優しい方でした。今でもスミカ殿に心配して頂いている夢を見る時がありますよ」
正にテスラムのこの一言に尽きる人物が、<水剣>スミカだったのだ。
そのスミカが亡くなったとフロキル王国から発表された時、この世界の全員が深い悲しみを感じつつも、安らかな眠りを心から望んでいた。
自らの力を認識していたスミカは、魔族であるテスラムを除いて<六剣>の誰よりも長く生存できるように常に気を配っていたのだ。
病や怪我が原因で、心から信頼できる仲間たちが苦しんで亡くなる事が無いように……
その気力で、事実テスラムを除く<六剣>とロイド、仲間全員を看取った上で亡くなった。
ヘイロンとの間にできた娘リサにも惜しみない愛情を注いだが、ヘイロンとスミカの総意で、何れの<六剣>も継がせる事は無かった。
これだけ平和な世界になった今、魔獣対策も練度の上がった騎士、意識の高い冒険者で対応できるようになっており、スミカとヘイロンはどうしても血なまぐさい環境に向かいがちな力を与える事に抵抗があったのだ。
<水剣>は回復を最も得意としているが、普通の回復術であれば<水剣>がなくとも<水>の基礎属性があれば行使できる。
二人の娘は<六剣>の影響もあったのか、稀に現れる<炎>と<水>と言う二つの基礎属性を持った“ダブル”と言われる希少な人材だった。
ここに<六剣>を持たせては、スミカに似て本当に優しい娘は幸せになれないのではないかと考えたのだ。
当然他の<六剣>やロイドにもその旨を伝えており、誰一人として異を唱えずに二人の意思を尊重した結果だ。
<炎剣>ヘイロンと<水剣>スミカが、自らが持っている<六剣>の次代所持者になるために設定した条件、互いに本当に信頼できる人物と共に所持者になる……と言う条件を満たす事が出来たのは、かなり時が経った後の双子・・の子孫になるのだが、それはまた別の話。
「テスラムさん、久しぶりですね。もうそんな季節ですか。時間が経つのは早いものです。フロキル王国は変わりなさそうですが、テスラムさんから見てどうですか?」
「ええ、いつも通りに平和な日常が続いております。それも、この日常の礎を築いたロイド様を始め、本当に気の良い<六剣>の仲間達のおかげです」
普段はフロキル王国に住んでおり、めったに出国する事の無い、ある意味フロキル王国の守り神的な存在となっている<風剣>テスラムが、アミストナと共にロイド達の時代の思い出話をしている。
ロイド達と共に行動していた時代から相当時間が経過しており、すっかりアミストナも大人びて、雰囲気も大きく変わっていたのだが、テスラムは当時からあまり変わった様子はない。
この二人、魔族であるが故に人族とは大きく寿命が異なり、初代<無剣>の時代から今尚生存している。
既に二人の間の子供も自立しており、この魔国アミストナの次期国王になるべく研鑽している。
この二人、人族もそうだが、魔族も年齢を重ねると昔話が好きになるようで、話に花を咲かせている。
テスラムも、同族であり当時の状況を知るアミストナと年に一回行っている行事のためにこの場に来ているのだが、やはり話に夢中になる。
テスラムの雰囲気から、何か重大な事が有る訳ではなく、単純に例年通りの行事を行うためだけに顔を出したと理解したアミストナも肩の力を抜く。
「あの当時は色々ありましたが、本当に楽しかったですね」
「仰る通りです。フフフ、思い出しますな。修行嫌いと言いつつ逃げ回るものの、仲間のために裏で必死に努力し、いざと言う時には最も頼れる男、ヘイロン殿」
<炎剣>ヘイロン。
<六剣>最強の攻撃力を誇ると言われる<炎剣>所持者であったヘイロン。
言葉はがさつで態度も荒いが、人情味に溢れ、目立たないようにこっそりと裏で努力する男だった。
誰よりも仲間を思い、そのために自分が犠牲になる事は厭わないが、表立った修行だけは最後まで進んで行う事は無かった。
そこも敢えてそうする事で、場の雰囲気を良くしていたのかもしれない……と今なら思えるテスラムだ。
そんな<炎剣>ヘイロンは、市井の者達にはその高い攻撃力ではなく、ぶっきらぼうながらも非常に優しい男であると広く知られていた。
「ですが、逃げ回るヘイロンさんを上手く導いて、良く調整して下さったのがスミカさんでしたね」
「調整……していましたでしょうか?あの方も、ヘイロン殿に引っ張られて修行を嫌そうにしていましたが、やはり常に共に行動していたヘイロン殿の影響を大きく受けたのでしょう。裏で必死に修行をしておりましたよ。何せスミカ殿の力、<回復>がなければ一大事になるのですから、あのホンワカとした雰囲気からは想像できない程の責任感と集中力で修行をされていました」
テスラムは、ヘイロンが亡くなった時を思い出していた。
怪我や病気は幾らでも対応できるのだが、いくら<六剣>の力を持ってしても寿命には抗えない。
年を重ねる毎に相応に衰え、やがてその時を迎える。
その時点で、スミカが慈しむようにヘイロンの手を優しく握り続けていたのが印象に残っている。
<水剣>スミカ。
「あの方は、本当に殺伐とするような雰囲気を変える事が得意でした。<水剣>の特化能力、<回復>に相応しく、心から優しい方でもありましたな」
「ですが、最後まで食いしん坊なのは治りませんでしたね。あれでいて太らなかったのですから、ズルいです」
テスラムの言う通りに基本的に争いごとを好まない優しい性格のスミカは、その温かな心が態度にも出ており、周囲を常に和やかにしていた。
亡くなって相当な年数がたった今尚、思い出話の中で出て来るだけで、話している方が笑顔になれる存在だったのだ。
一方で、ヘイロンと同じ様に<六剣>達のために必死で力をつけるべく、人知れず修行して怪我を癒せるように努力していた事もまた事実。
ある程度の力を得ていた頃の<六剣>達にはその修行はバレバレだったが、誰も指摘をする事は無く、スミカの頑張りをこっそりと応援していた。
「フフフ、そうですね。ですが元来の性格か、本当に万人に対して優しい方でした。今でもスミカ殿に心配して頂いている夢を見る時がありますよ」
正にテスラムのこの一言に尽きる人物が、<水剣>スミカだったのだ。
そのスミカが亡くなったとフロキル王国から発表された時、この世界の全員が深い悲しみを感じつつも、安らかな眠りを心から望んでいた。
自らの力を認識していたスミカは、魔族であるテスラムを除いて<六剣>の誰よりも長く生存できるように常に気を配っていたのだ。
病や怪我が原因で、心から信頼できる仲間たちが苦しんで亡くなる事が無いように……
その気力で、事実テスラムを除く<六剣>とロイド、仲間全員を看取った上で亡くなった。
ヘイロンとの間にできた娘リサにも惜しみない愛情を注いだが、ヘイロンとスミカの総意で、何れの<六剣>も継がせる事は無かった。
これだけ平和な世界になった今、魔獣対策も練度の上がった騎士、意識の高い冒険者で対応できるようになっており、スミカとヘイロンはどうしても血なまぐさい環境に向かいがちな力を与える事に抵抗があったのだ。
<水剣>は回復を最も得意としているが、普通の回復術であれば<水剣>がなくとも<水>の基礎属性があれば行使できる。
二人の娘は<六剣>の影響もあったのか、稀に現れる<炎>と<水>と言う二つの基礎属性を持った“ダブル”と言われる希少な人材だった。
ここに<六剣>を持たせては、スミカに似て本当に優しい娘は幸せになれないのではないかと考えたのだ。
当然他の<六剣>やロイドにもその旨を伝えており、誰一人として異を唱えずに二人の意思を尊重した結果だ。
<炎剣>ヘイロンと<水剣>スミカが、自らが持っている<六剣>の次代所持者になるために設定した条件、互いに本当に信頼できる人物と共に所持者になる……と言う条件を満たす事が出来たのは、かなり時が経った後の双子・・の子孫になるのだが、それはまた別の話。
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