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未来へ(3)

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「それで、今代<無剣>殿は?」

「あの子は世界を見て来ると言い、旅に出ていますよ。フフフ、テスラムさんもスライムで把握しているでしょう?」



 もう良い大人になっている今代<無剣>所持者。

 今は自由な旅にその身を置いている。



「まったく、こんな日は前もって教えておいてくださいよ、お父さん、お母さん」



 突然声が聞こえて振り向くアミストナとテスラム。



 そこには今代<無剣>所持者である青年が呆れたように立っていた。



 実際に血の繋がった先代<無剣>所持者の父とその妻である母は他にいるのだが、<無剣>の力を完全に使いこなすために、慣習としてアミストナとテスラムの元に修行に出すのが決まっている<無剣>の一族。



 もちろん今までの関係も全て教え込まれた上で……になる為、ロイドの息子以降の歴代<無剣>所持者は、全員が二人を第二の両親として接しているのだ。



「流石ですな。私達に悟られずにここまで近接できるとは」

「フフ、嬉しい成長ですね」



 二人に褒められた今代<無剣>所持者は、照れながらもこう返す。



「嬉しいけど、はっきり言って二人は一切警戒していないでしょ?今の状態なら、誰でも同じ事が出来ますよ。って、こんな事を言いたいのではないですよ!なんで俺が今日と言う日を思い出せたかを聞いてほしいのです!」



 少し興奮するように話すので、二人も珍しい事もあるものだと思い、真剣に話を聞く体制になる。



 そう、今日と言う日は<六剣>と<無剣>の中で、人族として最後まで仲間を看取り逝った<水剣>スミカが亡くなった日。



 生前<六剣>達は、長命であるテスラムにこう告げていた。



 自分達はテスラムよりも早く死ぬのは避けられない。最終的には一人残す事になって申し訳ないが、それぞれの命日に会いに来てもらうのも大変だろう。

 最後に逝った人物の命日に、纏めて来てくれればそれで良い……と。



 そして、その日が今日なのだ。



 これが、テスラムがアミストナの元に毎年訪れる恒例の行事であり、二人にとって最も重要な行事。



 正直アミストナは未だ国王として精力的に活動しており、多忙によって時折この日を忘れてしまう事があるのだが、テスラムのフォローにより必ずこの日に仲間と逢いに行っている。



「お父さん、お母さん。良く聞いてください。俺、昨日の夜、海辺の町の砂浜で寝ていたのですが、伝承で聞いている神が夢に出てきたのです。ある程度力が溜まったので、<六剣>達に迷惑をかけたお詫びができるようになった……と」



 どこで寝ているんだ?と思わなくもなかった二人だが、内容が重要な事であると理解できたので、黙って続きを促す。



 もちろん二人は、目の前の人物が嘘を言うような子ではない事は良く知っている。



「二つの選択肢を提示していました。あの伝説の人達を再びこの世界に顕現させるか、お父さんとお母さんが向こうの世界に行った時、共に過ごせるようにするか……だそうです」



 実際に神をその目で見ている<風剣>テスラム。



 そして、神が恩を返すと言っていた事も覚えているので、目の前の息子のように思っている子が夢の中で言われた事は事実なのだろうと判断する。



「テスラムさんの良いように」



 アミストナは、選択はテスラムに一任する様だ。

 その言葉に対して、テスラムは一切迷う様子もないままこう告げる。



「では、私達が向こうに言った時、共に楽しく過ごさせて頂くとしましょう。少し待たせてしまうかもしれませんが、その間に修行でもして頂いていれば良いかと思います」



 テスラムとしては、この世界に顕現してもらう事も嬉しいのだが、以前と同じ環境には戻れない。

 時代の変化と共に、この世界・大陸の環境も大きく変わっているのだ。



 再びこの世界で共に生活したとしても、やはり寿命の違いによって別れが来る事も事実。



 であれば、向こうの世界で同じように楽しく過ごした方がお互いに楽しめると思ったので、一切迷う事は無かった。



 その返事であるかのように、何故か部屋の中に突然暖かく優しい風が吹き付け、そして消えていった。



「そろそろ向かいましょうか、アミストナ殿」

「そうですね。毎年態々お越しいただいて申し訳ありません。フロキル王国の方が近いのに、ここまで来ていただいて……」

「俺も行きますよ、お父さん、お母さん!」



 こうして三人が向かった先は、フロキル王国近くの有名な観光地となっている封印の洞窟。



 中央の洞窟を囲うようにして六つの洞窟が近接しており、その中には夫々大きな岩が存在している。



 その岩には剣が差し込まれていた溝があり、実際にいくつかの洞窟には剣が刺さった状態になっている。



 その洞窟は少々拡張されており、その奥に、各剣の所持者関係者一族が眠っているのだ。



 既に抜かれている剣は<無剣>、<闇剣>、<風剣>の三本だけであり、アミストナの見立てでは、間もなくアルフォナの子孫によって<土剣>が抜剣されるのではないかとの事だ。

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