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(34)スーレシアの行動と……(4)
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その後二人は肩を落としてシンロイ商会を出るのだが、相当足取りは重い。
このアザヨ町に移動中、半ば押し売りのような形で癒しを行って巻き上げた金銭も無限にある訳ではないので、収入を得なければならない。
本来の立場であれば素直に教会に向かって人々に癒しを与え、そのお礼を兼ねた善意から生活する事が出来るのだが、あくまで最低限の生活が出来る事が一般的なので、そのような生活に戻る事は絶対に認める訳にはいかない。
再び宿に戻り、暗い雰囲気の中ボソボソ話し始める。
「ごめんなさい、スーレシア。私って随分と的外れな事を言っていたわね。こうなったらやっぱりロマニューレ聖主に連絡してあの店を潰し、その後の活動を行う方向の方が良いのではないかしら?」
「でも、その間に相当な被害が出るわよ?距離があるとはいえ、この町、この宿も無事では済まない可能性が高いから、結局一度はどこかに避難しなくてはいけない事になるわよ。そんなお金、もうないわよね」
普通に働くと言う言葉は絶対に出てこないので、できる事と言えば強制的に癒しを与えて暴利を貪る事だけなのだが、この町の町民を見る限りでは誰一人として癒しを求めるような状況にはなっていない。
「でも、その方が聖主の手の者が去った後に癒しを求める人が増加すると言う事でしょう?」
町を破壊するほどの暴れ方をしてシンロイ商会を潰してくれれば、その後薬草に頼れないので自分達の様な光魔法を使用できる人物に縋るほかない状況になるので、儲かる可能性が高いとテルミッタは考えているのだが……
「そんな状況になって、払えるお金があると思う?」
あっさりとスーレシアの一言で轟沈する。
「ままならないわね……そうだわ!あの店、町民の話によれば本当に昨日今日、突然出来たらしいじゃない?となれば、あれ程の高級品を仕入れている以上、その入手先を突き止めてそこだけをババァに報告すればよいのよ!」
聖主側にその供給源を与える事で攻撃先を逸らし、アザヨ町のシンロイ商会は品が無くなるので立ち行かなくなるはずで、こうなればいつかは誰かが必ず癒しを必要とし始める。
「それは素晴らしい案ね、スーレシア。でも、その間の生活はどうなるの?」
「グッ……し、仕方がないわね。その間は我慢して教会に身を寄せましょう」
強欲ババァである聖主ロマニューレであれば、この情報を掴めば即行動に移す事は明らかなので、恐らく彼女の力を考えると長くても数週間の我慢だと割り切って、その間は教会で貧相な生活と無駄な労働を受け入れる事にした二人なのだが、基本的に寂れまくっていたこの町にいたシスターは清貧を是とする人物しかいないので、拷問に感じるような生活を送る事になるのを知らない。
「そうと決まれば、教会に行きましょう。まだどこにあるのかすら知らないのだから」
希望を胸に、野望を新たに、教会を探し出した二人だが、シンロイ商会周辺の集落にある様なボロボロの建屋であった事で、初手から想像を大きく外していると感じているのだが、もう後には引けない。
教会に入ってその場にいるシスターに対して自分の身分、同じ聖国ロナに所属する癒しの力を持つシスターであると説明した上で、通信魔道具の使用を願い出る。
アザヨ町のシスターは、残念ながら本当にかすり傷程度しか治す事が出来ない力しか持っていない人々の集まりではあるのだが、その人柄からしっかりと町民に対して安心感を与え続けていたありがたい存在である為に、町が寂れて行方不明が出ていた状況でも善意の寄付…全てが食料等の現物ではあったが、生活する事が出来ていた。
本当に心が綺麗な人物達なので、薄汚れた考えを持っているスーレシア達の事を疑う事もせずに、各教会に配置されている本国への通信用の魔道具の使用を許可する。
これは表向き、シスターが不足した時などに緊急的に本国から助力を得る為に使用する、所謂各教会を安定的に運営するためのツールと言われているのだが、一部の者、聖主にとってみれば、金の匂いがする情報を得るためのツールでもあったりする。
やがて魔道具が起動すると呼応するように聖国ロナ側の魔道具も反応したようで、朧気に映っていた人影が徐々に明瞭になって行くのだが、この時点で互いの通信はできる状態なので、相手が誰なのか確認できないながらも、即座にスーレシアは聖主に報告があると告げる。
完全に魔道具が起動して映像が明確になった頃には、通信魔道具の前にはアザヨ町のスーレシアとテルミッタ、聖国ロナ側には聖主ロマニューレだけがいる。
ロマニューレはその立場から嫌でもスーレシアの性格、行動は把握できているので、自分と同じ感性を持つ者からの緊急連絡であれば、当然癒しとはかけ離れた話になるだろうと考えて個人で話を聞く事にしていた。
「久しぶりですね、スーレシア……とテルミッタ」
「お元気そうで何よりです、バ…ロマニューレ様」
いつも通りにババァと言いそうになって取り繕うのだが、どうせ自分がロマニューレに対して良い感情を持っていない程度は把握されているのだろうと知っているスーレシアは焦る様子もないし、言われたロマニューレの表情も一切変わらない。
「実は、今私達はアザヨ町にいるのです」
「あら?貴方達はジンタ町の教会で活動しているはずではないですか?」
「チッ……そうでしたが、あの場所では癒しを求める人がいなくなりましたので、教会の存在意義が見いだせずに移動しました」
思わず舌打ちをしてしまうスーレシアだが、これも無かったかのように互いが話を続ける。
「それ程安定したとは……少々考え辛いですが、スーレシアが言うのであれば事実なのでしょうね。その実態、原因は調査済みなのでしょう?」
このアザヨ町に移動中、半ば押し売りのような形で癒しを行って巻き上げた金銭も無限にある訳ではないので、収入を得なければならない。
本来の立場であれば素直に教会に向かって人々に癒しを与え、そのお礼を兼ねた善意から生活する事が出来るのだが、あくまで最低限の生活が出来る事が一般的なので、そのような生活に戻る事は絶対に認める訳にはいかない。
再び宿に戻り、暗い雰囲気の中ボソボソ話し始める。
「ごめんなさい、スーレシア。私って随分と的外れな事を言っていたわね。こうなったらやっぱりロマニューレ聖主に連絡してあの店を潰し、その後の活動を行う方向の方が良いのではないかしら?」
「でも、その間に相当な被害が出るわよ?距離があるとはいえ、この町、この宿も無事では済まない可能性が高いから、結局一度はどこかに避難しなくてはいけない事になるわよ。そんなお金、もうないわよね」
普通に働くと言う言葉は絶対に出てこないので、できる事と言えば強制的に癒しを与えて暴利を貪る事だけなのだが、この町の町民を見る限りでは誰一人として癒しを求めるような状況にはなっていない。
「でも、その方が聖主の手の者が去った後に癒しを求める人が増加すると言う事でしょう?」
町を破壊するほどの暴れ方をしてシンロイ商会を潰してくれれば、その後薬草に頼れないので自分達の様な光魔法を使用できる人物に縋るほかない状況になるので、儲かる可能性が高いとテルミッタは考えているのだが……
「そんな状況になって、払えるお金があると思う?」
あっさりとスーレシアの一言で轟沈する。
「ままならないわね……そうだわ!あの店、町民の話によれば本当に昨日今日、突然出来たらしいじゃない?となれば、あれ程の高級品を仕入れている以上、その入手先を突き止めてそこだけをババァに報告すればよいのよ!」
聖主側にその供給源を与える事で攻撃先を逸らし、アザヨ町のシンロイ商会は品が無くなるので立ち行かなくなるはずで、こうなればいつかは誰かが必ず癒しを必要とし始める。
「それは素晴らしい案ね、スーレシア。でも、その間の生活はどうなるの?」
「グッ……し、仕方がないわね。その間は我慢して教会に身を寄せましょう」
強欲ババァである聖主ロマニューレであれば、この情報を掴めば即行動に移す事は明らかなので、恐らく彼女の力を考えると長くても数週間の我慢だと割り切って、その間は教会で貧相な生活と無駄な労働を受け入れる事にした二人なのだが、基本的に寂れまくっていたこの町にいたシスターは清貧を是とする人物しかいないので、拷問に感じるような生活を送る事になるのを知らない。
「そうと決まれば、教会に行きましょう。まだどこにあるのかすら知らないのだから」
希望を胸に、野望を新たに、教会を探し出した二人だが、シンロイ商会周辺の集落にある様なボロボロの建屋であった事で、初手から想像を大きく外していると感じているのだが、もう後には引けない。
教会に入ってその場にいるシスターに対して自分の身分、同じ聖国ロナに所属する癒しの力を持つシスターであると説明した上で、通信魔道具の使用を願い出る。
アザヨ町のシスターは、残念ながら本当にかすり傷程度しか治す事が出来ない力しか持っていない人々の集まりではあるのだが、その人柄からしっかりと町民に対して安心感を与え続けていたありがたい存在である為に、町が寂れて行方不明が出ていた状況でも善意の寄付…全てが食料等の現物ではあったが、生活する事が出来ていた。
本当に心が綺麗な人物達なので、薄汚れた考えを持っているスーレシア達の事を疑う事もせずに、各教会に配置されている本国への通信用の魔道具の使用を許可する。
これは表向き、シスターが不足した時などに緊急的に本国から助力を得る為に使用する、所謂各教会を安定的に運営するためのツールと言われているのだが、一部の者、聖主にとってみれば、金の匂いがする情報を得るためのツールでもあったりする。
やがて魔道具が起動すると呼応するように聖国ロナ側の魔道具も反応したようで、朧気に映っていた人影が徐々に明瞭になって行くのだが、この時点で互いの通信はできる状態なので、相手が誰なのか確認できないながらも、即座にスーレシアは聖主に報告があると告げる。
完全に魔道具が起動して映像が明確になった頃には、通信魔道具の前にはアザヨ町のスーレシアとテルミッタ、聖国ロナ側には聖主ロマニューレだけがいる。
ロマニューレはその立場から嫌でもスーレシアの性格、行動は把握できているので、自分と同じ感性を持つ者からの緊急連絡であれば、当然癒しとはかけ離れた話になるだろうと考えて個人で話を聞く事にしていた。
「久しぶりですね、スーレシア……とテルミッタ」
「お元気そうで何よりです、バ…ロマニューレ様」
いつも通りにババァと言いそうになって取り繕うのだが、どうせ自分がロマニューレに対して良い感情を持っていない程度は把握されているのだろうと知っているスーレシアは焦る様子もないし、言われたロマニューレの表情も一切変わらない。
「実は、今私達はアザヨ町にいるのです」
「あら?貴方達はジンタ町の教会で活動しているはずではないですか?」
「チッ……そうでしたが、あの場所では癒しを求める人がいなくなりましたので、教会の存在意義が見いだせずに移動しました」
思わず舌打ちをしてしまうスーレシアだが、これも無かったかのように互いが話を続ける。
「それ程安定したとは……少々考え辛いですが、スーレシアが言うのであれば事実なのでしょうね。その実態、原因は調査済みなのでしょう?」
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