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(35)スーレシアの行動と……(5)

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 聖主ロマニューレはスーレシアを信頼しているのではなく、強欲なスーレシアがジンタ町を離れるのであれば、今映像に映っているスーレシアやテルミッタの様子から非常事態が起きたようには見えないので、実際に癒しを行う必要が無い……多少はあっても儲けにならない状態になった事は間違いないだろうと思っている。

「それならば、今あの町の教会は無人なのですか?」

「そ、それは・・・申し訳ありませんがその通りです。ですが、申しあげたとおりにあの場所では癒しを必要とされていないので、今から後任を派遣しても無駄になりますよ?」

 ここだけは真実なので表情にも自身が満ち溢れているスーレシアと、立場上教会に所属するシスターが不在であっても問題がないのかを調べる必要があるロマニューレ。

「わかりました。今日の通信は急ぎでなければ、ジンタ町の調査をした後にこちらから連絡します。調査自体は今日中に終わるでしょうからそう待たせる事はありません。それでも大丈夫ですか?」

 強欲とは言え、教会を統べる立場である以上は体裁を保つ必要もある。

 スーレシアとしても、ジンタ町の現状を理解してくれれば自分の話に嘘偽りがない事の証明にもなるので、次に話すアザヨ町の店の話もし易いと言う思いからその申し出を受ける。

 どの道あの強欲で性格の悪いババァであれば、今自分達がいるアザヨ町の調査もこの時間内で同時に行うはずなので、自分の訴えが正しいとロマニューレ自身が証明する事になると考えている。

「わかりました。では、聖主様からの連絡をお待ちしております」

 その日の昼過ぎ……

「スーレシアの言う通り、確かにジンタ町では癒しを求める人物がいない事が確認されました。何やらシンロイ商会と言う店があり、そこで相当効果のあるポーションが格安で販売されているようですね。その上、聖魔法を行使できる人材まで抱えていると言う話でした。まさか私でさえ行使できない聖魔法を使える人材がいる等とは俄かには信じられませんが……残念ながら、少なくとも教会の存在意義が無くなっている事だけは疑いようのない事実ですね」

 自分達が追い出されるきっかけになったのが、全力で癒しを行っても完治させる事が出来なかった者達を一瞬で完全に治して見せた、顔は思い出せないが異常に均整の取れた瓜二つの人物二人の魔法であった事を思い出したスーレシア。

 冷静に考えればアレは聖魔法で間違いないのだろうと思ったのだ、ここでは余計な事は言わずに黙って聖主ロマニューレの内心興奮している様な声を聞いている。

『あの町にもシンロイ商会が出来たのですか。だとすれば、ババァもあの店についてより詳細の調査を入れているはず。場合によっては入手先をもう掴んでいるのかもしれないですね。声から抑えきれない欲が見えるわよ、ババァ』

 こんな事を思いながら、自分はどのように話すべきかを慎重に検討しているスーレシアと、表面上は平静を装いながらもシンロイ商会の商品について話しているロマニューレ。

「……と言う事で、確かにジンタ町では教会の存在意義が無くなった事は認めます」

「ご理解いただけて何よりですが、ロマニューレ様。そこでお話があります。実は、今のお話の中で出てきたシンロイ商会ですが、今私達がいるこのアザヨ町にもあるのです。町民の話によれば突如としてできたらしいのですが、できた場所が町から少々離れていた場所なので人目につかなかった事もあり、突如としてできたと言うのには語弊があるのかもしれませんが……」

 真実を話す事で慎重にロマニューレの表情を伺い、間違いなく事前調査をしたうえでこの話を聞いているのだと判断したので話し易くなったと安堵する一方、どこまで情報を掴んでいるのか気になる。

「こちらの商会でも相当な品質レベルの物を、相当な数量取り揃え、有り得ない程の安価で町民に卸していました」

「それを大量に購入して転売する方法もありますね」

 思わず心の声が漏れたロマニューレ。

ある程度互いの性格は知っている前提になっているのでスーレシアは突っ込む事はしないのだが、この一言でロマニューレが持っている情報の精度についてある程度理解する事が出来た。

 自分が経験した屈辱的な状況、店に入るのは問題ないが購入は一切できないと言った事態を把握しておらず、恐らくロマニューレが派遣した人材であれば自分と同様に購入する事は出来ないはずなのだが、そこを考慮する事なくこのような事を言っているのだから、仕入れ先までは情報を得ていないだろうと判断する。

「それで、ロマニューレ様にご相談なのですが、あのような訳の分からない商会が繁殖してしまうと、教会の、ひいては聖国の存続意義に直結してしまうのではないでしょうか?完全に排除するのは難しいのかもしれませんが、弱体化させておくことは必須、義務であると考えます」

「……確かに、言われてみれば尤もですね」

 ロマニューレはスーレシアの提言に多少納得できるところはあるのだが、本心としては仕入れ先を抑えて私腹を肥やしたいだけ。

「我が国の安定の為に、ここは私ロマニューレが一肌脱ぎましょう。こちらがシンロイ商会を調査の上で供給網を多少制御する事にします。全て潰しては、民の生活に支障が出てくる可能性が高いですからね」

 まるで配慮しているかのような言い分で、内容を冷静に考えれば強奪以外の何物でもないのだが、その言葉を受けて、この萎びた教会で暫く我慢すればやがて商品の入荷が難しくなり人々が癒しを求めて来る事は間違いないと安堵する。

「ロマニューレ様の御心のままに」

 自分の豪勢な生活が保障されるのは間違いないと確信したスーレシアは、心にもない言葉を口にして通信を終えると……隣で慎重に成り行きを見守っていたテルミッタとハイタッチをして喜ぶ。

「やったわね!これで少しの間我慢すれば、またあの生活に戻れるわ!」
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