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英単語
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突然目の前に来ている教育実習生である伍葉紀子に話しかけられた幸次だが、流石は元王族であり、一切動じる事は無い。
「あぁ、あのバックの方か。あの時も伝えたと思うが、大した事はしていないので気にしないでくれ。余としては当然の事をしただけだからな」
機嫌の良かった石崎は、何故か自分を放置して幸次に楽しそうに話しかける実習生が気に入らなく、再び機嫌が悪化する。
そもそも自分は名字で呼ばれ、三島は突然名前呼びされているのだから……
実はこの紀子は日本で有数の財閥である伍葉財閥一族の者で恩人の情報は入手済みであり、石崎に虐められている事、普段大人しく非常に優しい人物であると報告を受けており、自分が出会った三島幸次とは少々乖離している事に驚いていたのだが、正義感が強いとの報告も受けた事からやはり調査結果に大きな祖語はないと確信していた。
同時に、名字で呼ばれると時折反応しない事があるというわずか一日前の情報も仕入れているので、敢えて名前で呼んだのだ。
もちろん家族についての情報も得ており、昨日の夜に行動して今朝本人に伝えられた両親の件も知っているので、まさかそこまでと思いつつ教室に向かっていた所に石崎の言葉が聞こえて非常に嫌な気分でいた。
恐るべき、巨大財閥の力だ。
担任の篠原(34歳:独身)としても、非常に綺麗で上品な副担任の立ち位置の若い女性が来たので鼻の下が伸びているのだが、石崎と同じように幸次との想定以上の対応を見せつけられて機嫌が悪い。
「紹介は以上だ。伍葉先生は理事長と同じ苗字だが、親子ではないと言う事だ。非常に珍しい苗字ではあるが、誤解のないようにそれだけは伝えるようにと理事長から指示を受けているから紹介しておく」
これ以上幸次との会話を続けさせないように、本当に理事長から指示を受けていた内容を生徒達に話す。
事実紀子と理事長である伍葉 譲は親子ではないのだが、叔父と姪と言う関係ではある。
資産がある家系にはありがちで、紀子は本家で理事長の譲は分家の立ち位置であり、譲が紀子を一方的に嫌悪している状況になっているのだが、教育実習を断るような事をすれば本家からの圧力で理事長を解任されかねないと思い受け入れている。
理事長の譲はこのような性格の為に石崎のいじめ問題には一切取り合わず、幸次の両親の訴えものらりくらりと躱すだけだった。
二人が親戚関係になると言う事実までは伝えられていない篠原は全く血縁関係が無いと言いたいのだろうと判断して、それならばこれからどのように紀子を誘い出すかを考えていたりする。
その後朝のホームルームは一日の連絡事項で即終了し、早速一時間目の英語の授業が実施される事になったのだが、何故か体育教師の篠原が最後方に陣取り、実習生である伍葉紀子の様子を隈なく観察している。
「はいっ、では授業を始めますね。今日は英単語を覚える際に少しだけ覚えやすい方法を紹介したいと思います。テキストの12ページに書いてあるこの部分、日本語に訳すと“ため息”ですが、これは“サイ”と発音します。ため息と言う単語と動物のサイを思い浮かべると、なんだか少し疲れた表情をしているように思えませんか?それで動物の名前と絡めて覚える方法もありますね!」
気持ち悪い位に見つめられている紀子以外は背後からの篠原の視線に気が付けないのだが、流石は財閥令嬢だけあって落ち着いて授業を行えている。
転移時の恩恵によって日本語は完全に理解している幸次だが、英語となれば全く別の話であり、中学校どころか小学生の知識もない幸次は身体能力の力を全て頭脳に割り振り予習をしていたおかげで、高校一年生のレベルにまでは僅か数時間で到達している。
しかし力技で勉強をしただけなので、紀子の言っている覚え方も面倒ではあるが面白い方法だと感心して、家に帰った際には妹にも紹介してみようと記憶する。
一時限目は終了し……その日は朝一番の不思議な絡み以外は何事も無く終了したので、早速自宅に帰って妹に英単語の覚え方を紹介してやろうと意気込む幸次。
「ただいま!」
「お帰り、お兄ちゃん。今日も……大丈夫そうだね。フフフ、今日は昨日のカレーが残っているから、食べちゃおう!」
共に食事をしている二人、特に幸次はカレーの美味しさにやられていたのだが、お腹が膨れた時に漸く英語について思い出す事が出来た。
「そう言えば朱莉、今日から来てくれた教育実習の先生が英語を教えてくれたのだが、余も感心したところがあったので紹介したい」
「え?何?誰でも英語を聞き取れる方法かな?」
「いや、そうではなくて単語の覚え方の紹介だ。例えば……確か、ため息、そう!ため息だ。ため息と言う英単語を覚える際に、動物と絡めて覚える方法があると紹介してくれたのだ。何とも面白い覚え方で、余も感心したのだ」
「そうなんだ。私はまだそんな単語までは習っていないから、正解はわからないな~。覚え方と正解を教えてくれる?お兄ちゃん」
「フフフ、聞いて驚け!なんと英語で“ため息”を表す言葉は、とある動物の名前と同じだったのだ!」
「そ、そうなの?凄ーい、何かな?」
「フフフそれはな、それは……牛ではなく……」
授業中は身体強化を使っていないので、正解を忘れてしまった幸次は必死で記憶を手繰り寄せるが一文字目までしか思い出せない。
「そ、そうだ、さ・さ・サル?」
「……お兄ちゃん、サルは私でもわかるよ。モンキーだよ?」
「あぁ、あのバックの方か。あの時も伝えたと思うが、大した事はしていないので気にしないでくれ。余としては当然の事をしただけだからな」
機嫌の良かった石崎は、何故か自分を放置して幸次に楽しそうに話しかける実習生が気に入らなく、再び機嫌が悪化する。
そもそも自分は名字で呼ばれ、三島は突然名前呼びされているのだから……
実はこの紀子は日本で有数の財閥である伍葉財閥一族の者で恩人の情報は入手済みであり、石崎に虐められている事、普段大人しく非常に優しい人物であると報告を受けており、自分が出会った三島幸次とは少々乖離している事に驚いていたのだが、正義感が強いとの報告も受けた事からやはり調査結果に大きな祖語はないと確信していた。
同時に、名字で呼ばれると時折反応しない事があるというわずか一日前の情報も仕入れているので、敢えて名前で呼んだのだ。
もちろん家族についての情報も得ており、昨日の夜に行動して今朝本人に伝えられた両親の件も知っているので、まさかそこまでと思いつつ教室に向かっていた所に石崎の言葉が聞こえて非常に嫌な気分でいた。
恐るべき、巨大財閥の力だ。
担任の篠原(34歳:独身)としても、非常に綺麗で上品な副担任の立ち位置の若い女性が来たので鼻の下が伸びているのだが、石崎と同じように幸次との想定以上の対応を見せつけられて機嫌が悪い。
「紹介は以上だ。伍葉先生は理事長と同じ苗字だが、親子ではないと言う事だ。非常に珍しい苗字ではあるが、誤解のないようにそれだけは伝えるようにと理事長から指示を受けているから紹介しておく」
これ以上幸次との会話を続けさせないように、本当に理事長から指示を受けていた内容を生徒達に話す。
事実紀子と理事長である伍葉 譲は親子ではないのだが、叔父と姪と言う関係ではある。
資産がある家系にはありがちで、紀子は本家で理事長の譲は分家の立ち位置であり、譲が紀子を一方的に嫌悪している状況になっているのだが、教育実習を断るような事をすれば本家からの圧力で理事長を解任されかねないと思い受け入れている。
理事長の譲はこのような性格の為に石崎のいじめ問題には一切取り合わず、幸次の両親の訴えものらりくらりと躱すだけだった。
二人が親戚関係になると言う事実までは伝えられていない篠原は全く血縁関係が無いと言いたいのだろうと判断して、それならばこれからどのように紀子を誘い出すかを考えていたりする。
その後朝のホームルームは一日の連絡事項で即終了し、早速一時間目の英語の授業が実施される事になったのだが、何故か体育教師の篠原が最後方に陣取り、実習生である伍葉紀子の様子を隈なく観察している。
「はいっ、では授業を始めますね。今日は英単語を覚える際に少しだけ覚えやすい方法を紹介したいと思います。テキストの12ページに書いてあるこの部分、日本語に訳すと“ため息”ですが、これは“サイ”と発音します。ため息と言う単語と動物のサイを思い浮かべると、なんだか少し疲れた表情をしているように思えませんか?それで動物の名前と絡めて覚える方法もありますね!」
気持ち悪い位に見つめられている紀子以外は背後からの篠原の視線に気が付けないのだが、流石は財閥令嬢だけあって落ち着いて授業を行えている。
転移時の恩恵によって日本語は完全に理解している幸次だが、英語となれば全く別の話であり、中学校どころか小学生の知識もない幸次は身体能力の力を全て頭脳に割り振り予習をしていたおかげで、高校一年生のレベルにまでは僅か数時間で到達している。
しかし力技で勉強をしただけなので、紀子の言っている覚え方も面倒ではあるが面白い方法だと感心して、家に帰った際には妹にも紹介してみようと記憶する。
一時限目は終了し……その日は朝一番の不思議な絡み以外は何事も無く終了したので、早速自宅に帰って妹に英単語の覚え方を紹介してやろうと意気込む幸次。
「ただいま!」
「お帰り、お兄ちゃん。今日も……大丈夫そうだね。フフフ、今日は昨日のカレーが残っているから、食べちゃおう!」
共に食事をしている二人、特に幸次はカレーの美味しさにやられていたのだが、お腹が膨れた時に漸く英語について思い出す事が出来た。
「そう言えば朱莉、今日から来てくれた教育実習の先生が英語を教えてくれたのだが、余も感心したところがあったので紹介したい」
「え?何?誰でも英語を聞き取れる方法かな?」
「いや、そうではなくて単語の覚え方の紹介だ。例えば……確か、ため息、そう!ため息だ。ため息と言う英単語を覚える際に、動物と絡めて覚える方法があると紹介してくれたのだ。何とも面白い覚え方で、余も感心したのだ」
「そうなんだ。私はまだそんな単語までは習っていないから、正解はわからないな~。覚え方と正解を教えてくれる?お兄ちゃん」
「フフフ、聞いて驚け!なんと英語で“ため息”を表す言葉は、とある動物の名前と同じだったのだ!」
「そ、そうなの?凄ーい、何かな?」
「フフフそれはな、それは……牛ではなく……」
授業中は身体強化を使っていないので、正解を忘れてしまった幸次は必死で記憶を手繰り寄せるが一文字目までしか思い出せない。
「そ、そうだ、さ・さ・サル?」
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