幸次とコージ

焼納豆

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実習生

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「これであのムカつく三島幸次も顔色変えて謝罪してくるだろうよ」

 豪華な部屋の椅子に座っていやらしい笑みを浮かべているのは、幸次のクラスメイトであり虐めの主犯格の一人でもある石崎。

 この言葉からわかる通り、有る事ない事父に伝えて幸次の両親の立場を悪くして最悪職を失うように仕向けたのだ。

 通常であれば考えられない行動だが、散々甘やかされ、何かあれば権力を使ってもみ消してきた現実が極端に偏った人格を形成してしまっていた。

 いくら国会議員とは言え直接的に個人に対応する事は中々できない以上、過酷な災害地域派遣期間を強制的に伸ばす方向で処理をしていた。

 その理由としては、幸次の両親が非常に有用な人材である為にもっと頑張れるはずであり、更には地元の期待も大きくなっていると持ち上げる方向で動いている為、今回の役所に対する提言指示に関する情報が漏れたとしてもいくらでも言い訳ができる状況を作り出している。

 流石は長きにわたって権力の椅子に座っているだけあり、外に対する対応も完全なまま大きく状況を変化させるに至っていた。

 当人、幸次と朱莉の両親にも翌朝には派遣延長……と言うよりも、派遣期限が無くなった旨の連絡が翌朝に届き、驚きと落胆が隠せずにいた。

 今回の現場は地震による町の被害対策であり、仕事はがれきやゴミの対応や市民のケア、生活用品を始め、食料配布、手配等多岐にわたり、当然被災地にいるので碌な宿泊場所がある訳もない過酷な状況での作業の為に一週間少々での持ち回りになるはずだったのだが、突然無期限、つまりは復興完了までの派遣が言い渡されたのだから落胆するのも仕方がない。

 一応その情報を聞いて、本来の職場の上長に文句を言ったのだが……返って来たのはそっけない返事で、嫌なら退職しろと言う言葉だけだったのだ。

「そんな事ってある?」

「だけど、これは現実だよ。仕方がない、週末に家に帰るような生活をしようか。何故か自腹になるのが悔しいけれど、幸次や朱莉が心配だ」

「そうよね。二人をこっちに呼び寄せられる状況ではないし、それしかないわね。でも、なんで突然」

 幸次と朱莉の父である公男と母である美幸はこのような会話をしており、今回の原因には思い当たる節が少しあるのだが確定ではないのでその事は口に出さずにいた。

 それは、もちろん石崎の事で……学園で息子が虐めを受けており、その元凶が国会議員の息子である石崎ともなれば、その余波を受けてそこから手を回された可能性がある事は理解しているのだが、まさかそこまで……と言う普通の人なら超えられない壁があるはずだと言う期待から口にはしなかった。

 石崎親子にとってその程度の壁を超える事など容易い事実を知らないが故の、致命的な判断ミスだ。

「おはよう、幸次君!」

「おはよう、吉田殿!」

 翌日は何事も無く教室に辿り着く事が出来た幸次は、再び学びに意識が向いて気合が入るのだが、背後から昨日も散々聞いていた嫌な声が聞こえてきた。

「おい、テ……三島幸次!お前の両親は公務員で、被災地に復興に行っているんだってな?予定では週末に戻るらしいが、戻れると良いな?ハハハハハ」

 これだけ言うと、さっさと自席に戻って行く石崎。

「何が言いたいんだ?」

 不思議そうな表情の幸次と、絶対に両親に何かをしたはずだと嫌な気持ちになっている吉田の表情が対照的だ。

「お前等、煩いぞ!」

 うるさくしていたのは石崎だけだが、何故か幸次を見ながら教室に入ってくる篠原の後ろには、綺麗な女性が付いてきていた。

 今の篠原の言葉からこの二人には今のやり取りは聞かれていたなと判断している幸次は、篠原だけではなくこの女性、ある意味第三者である女性が聞いている状態であればこれ以上この件で絡まれる事は無いだろうと安堵する。

 朝から面倒くさい事に労力を使いたくなかったのだ。

「良し、昨日も伝えた通りに副担任の位置付けで英語も教えてくれる教育実習生を紹介する」

 篠原の言葉が終わると、実習生が半歩前に出て微笑みながら自己紹介を始めた。

「紹介頂きました、教育実習生の伍葉 紀子です」

「先生!お幾つですか?」

 後方から聞いた事のない様な言葉遣いで石崎が叫んでおり、周囲の男子生徒も伍葉 紀子と名乗った女性の美貌に見とれていた……幸次を除いてだが……

「フフ、21歳ですよ、石崎君」

 自己紹介をしていないのに自分の名前を知っているのは、自分……ではなく父親に権力がある事を認識しているのだろうと判断した石崎の機嫌は非常に良いのだが、実際は問題児として認識しているだけだったりする。

「ところで、昨日はありがとうございました。碌にお礼が出来なくて申し訳ありませんでした、幸次君」

 幸次だけはこの女性紀子をどこかで見た事があると思っていたので、突然目の前で話しかけられて漸く思い出した。
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