幸次とコージ

焼納豆

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襲来1

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 地球の大気中には魔力が存在しないので膨大な魔力を必要とする魔法の類いは一切使えないが、体内で生成される魔力で身体強化は使える上に、指輪に内包されている大量の魔力を使えば王族の身を守るための眷属を召喚する事が出来る。

 これこそが王族のみ使用できる指輪の真の意味であり、例えばどこかの異国に拉致されたとしても眷属を召喚する事でその身を守れるのだ。

 王族の安全を守るためなので常に召喚しておくべきと主張する者もいたのだが、やはり魔獣と呼ばれる獣の一種であるために相当の魔力を撒き散らすものが大半である事、中には主の命令のみを聞くために行動して周囲に被害を及ぼす可能性もある事から緊急時のみに召喚すると決定した経緯がある。

 この指輪の中には眷属が大量の魔力と共に封印されており、指輪の魔力は所持者である幸次の魔力を吸収して保管し続けている。

「日本に来て、体内の魔力が失われなかったのが最も助かった事だな。石崎程度であれば魔力による身体強化は一切必要ないが、余としても守らなくてはならない者がいる以上戦力は多いに越した事は無い」

 今後については、情報収集とこの世界の知識を習得してから動く以外には有り得ないので、そのまま眠りについて翌日の日曜日の朝……

「幸次、朱莉……今日は家族で過ごそうと思ったのだが、申し訳ない。急な呼び出しで直ぐに戻らなくてはならなくなった」

「ごめんなさいね。来週も戻ってくるから、その時には買い物でもしましょう!」

 二人の両親を見送った後に、再び二人きりになったリビングに戻って会話を続けている幸次と朱莉。

「お兄ちゃん。今迄は本当にたまに土曜日は出勤していたけど、日曜日にまで急に呼び出しって酷くない?今から向かっても今日できる事なんてたかが知れているのに」

 両親が働いている場所の距離感や仕事の内容が今一つわからないが、今までとは全く違う対応であると文句を言っている事だけは理解できた幸次がどうするべきかと頭を悩ませていると、来客を告げるインターホンが鳴る。

-ピンポン-

「誰だろう?」

 朱莉が機械を操作すると来客の映像が画面に映るので、楽しそうに覗き込む幸次だが……突然朱莉が画面を消した。

「あっ……この不思議な魔道、コホン。この映像をもう少し見ていたかったのだが」

 来客よりも映像について興味がある幸次が本音を漏らすのだが、朱莉の表情は非常に厳しながらも少々不安が混ざったものに変化しており、余計な事を言ってしまったのかと少々焦る幸次。

「何あの人!絶対に何か嫌な事を言いに来たに決まっているよ!無視しよう。ね?お兄ちゃん」

「ん?問題なければそれで良いが、どうした?」

「え?気が付かなかったの?今のって、あの石崎だよ!お兄ちゃんのクラスの石崎!」

 プンスカ怒っている朱莉によれば、どうやら今の来客は幸次のクラスメイトである石崎が来たらしく、まさしく自分のファンでありストーカーと呼ばれる者なのだろうと判断した幸次は、王族として民の期待……自分に一目会いたいと言う期待には応えなくてはならないと言う思いで席を立つ。

「ちょ、ちょっとお兄ちゃん!何をするの?」

「何って、休日なのに余に会いに来たいと行動した民に応えてやる義務があると思ってな。なに、余計な心配は無用だぞ。何なら共に行くか?」

「行く!だって心配だもん」

 朱莉も席を立ち、幸次の後に続いて玄関に向かう。

「この間にいなくなれば良いのに!」

 後ろにいる朱莉の声は聞こえているのだが、幸次は扉の向こう側にいる石崎の存在は身体強化によって掴んでいるので反応せずに扉を開ける。

「お、いたかテ……三島!折角両親が自腹でここまで遠路遥々帰って来たのに、仕事で呼び出されて碌に会話もできずに寂しくて泣いているかと思って来てやったぞ」

「最低!何コイツ!見た目通り軽薄そうだし、頭もスカスカ。どうせ親の力で何かしたに決まっているわよ!そうじゃないと、呼び出されたばかりの情報を一高校生が知っているわけないじゃない!アンタ何がしたいのよ!人の家族をもてあそんで、楽しいわけ?」

 石崎の蔑んだ言葉を聞いて朱莉が我慢できなくなり、瞬間で涙を流しながら攻撃するのだが、その言葉を聞いて石崎は反省するどころか勝ち誇った笑みを浮かべる。

「はっ、立場を弁えねーお前等が悪いんだろうが。ざまーねーな」

 幸次は涙を流して激しく抗議している朱莉を見て、この場に連れてきてしまった事を激しく後悔していると共に、守るべき大切な存在に攻撃された事に怒りを覚える。

「おい、下民。やはり貴様は脳の栄養が大きく不足しているようだな。その異常に横柄な態度、軽薄な見た目、バカ丸出しの口調、どこをとっても脳に障害があると言わざるを得ないが、だからと言って大切な妹を泣かせた罪は消えない。余としても態々休日に訪問してきたファンとは言え、大目に見てやれる範疇を大きく逸脱したと判断せざるを得ない。その程度は、養分不足の貴様でも理解できるな?」

 幸次は少々切れると長く話してしまう癖があり正に今その状況になっているのだが、朱莉としてはここまで天敵に対して一歩も引かない兄を見て感動からか涙は止まっていた。

「どこまでも小バカにしやがって。いいだろう。そこまで態度を改めねーなら、こっちにも考えがある」

「態度を改める必要があるのは貴様だろう?下民!余の温情を感じ取れぬとは、ほとほとあきれるばかりよ。貴様程度の考えなど取るに足らない事位理解できないとは、憐みすら覚えるな」
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