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余裕の幸次
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普段から上の立ち位置を維持し続けていたので、相変わらず煽り耐性が全くない石崎はプルプル震えて幸次を睨みつけているのだが、間近で権力を持っている存在に露骨に睨まれている幸次は全く意に介す様子を見せない。
「先生、そろそろ時間が無駄なので早くしてもらえないか?」
挙句は石崎をどう庇おうか考えている篠原に向かっても突っかかっているのだ。
「こ、幸次君……大丈夫かな……」
吉田が本当に心配そうにしているのだが、横にいる伍葉の表情は少し前と違って落ち着き払っている。
「吉田さん、大丈夫よ。私はこれでも立場上・経験上、人を見る目があるの。幸次君は虚勢でも何でもなく、本心から言っているように見えるわ。それに、思い出したけれど彼、凄い体力よ。私が荷物を盗まれた時、自転車でバイクにあっという間に追いついちゃったのよ!だから、大丈夫。心配しないで」
生徒達はスタート地点に移動しており、伍葉から優しい言葉をかけられた吉田が笑顔で頷いて急いでスタート地点に向かう。
「良し、女子は一周、男子は十周。ビリはどうなるかは、説明した通りだ。では行くぞ、はじめ!」
一斉に走り出す生徒達の中で飛び出したのは、以外にも石崎とそのお付きの者達の運動が得意な面々。
彼らが五位までの好タイムを独占すれば、ビリの幸次は永遠に課題をクリアできずに走り続ける事になると思っているので、本気で取り組んでいる。
その直後を、必死な表情の先頭集団の中でただ一人余裕そうな表情で付いて行く幸次。
「う、おい、石崎!三島が付いてきているぜ?」
誰かの一言で先頭集団の石崎グループは背後に悠々とついてきている幸次に気が付くと、全員一気にペースを上げる。
幸次としてはトラックの説明を聞いてはいたのだが、若干不安が残るので手本となる人物の後を付いて行っているだけだ。
「この程度であれば強化する必要もないな。全く、自信満々なので少しは期待したのだが……エラ呼吸の下民程度ではこれが精一杯か?まぁ、水が無い状態だからエラ呼吸には厳しい条件ではあるがな」
本当に何の気なしに思った事を呟いたのだが、これが自らの背後を悠々と走っている幸次の声であると認識してしまった石崎達はもうペース配分もなにも無く、唯差を広げるためだけにまるで短距離走のような勢いになる。
「幸次君、頑張って!」
二周目を終えた頃には、吉田も一周走り終わったようで伍葉の隣で幸次を全力で応援している。
「ありがとう、吉田殿!正直余裕過ぎて欠伸が出そうだが、折角の応援だ。少し頑張ってみるか?」
返事をしたつもりが再び前方を真っ赤な顔をして走っている石崎達に聞かれ、本当に最後の力を振り絞って石崎達は少しだけスピードを上げるのだが……顎は上がり、口は開き、目には涙が浮かび始める。
「おぉ~、やはりエラ呼吸の下民にとって水の無い地上は厳しい環境のようだな。自信満々な態度のくせにこの程度だったから本気でがっかりしていたが、エラを使えない条件だと考えると意外と良くやったのかもしれんな」
石崎達の真横を……顎に手を置き悠々と観察しながら走りつつ感想を述べている幸次だが、もう石崎達には反撃する体力が残っていないので、一人、また一人と地面に倒れ込む。
「む?エラが使えないので酸素不足……か?水が必要ではなさそうだな。そうであれば伍葉先生が対応するはずだが、微動だにしていないからな」
もう篠原の信頼は地に落ちてめり込んでいるので全ての基準は教育実習生である伍葉になっている幸次は、その伍葉がこの現実が見えているのに動きを見せない事から問題ないものだと理解して、少しペースを上げて走る。
異世界の命のやり取りが行われている中で鍛え上げられた力は身体強化を使わず共別格であり、悠々と複数周回遅れを作った状態でゴールする。
「これで余がトップだな?」
弱者は後々言いがかりをつけてくる事が常であると知っているので、伍葉にも聞こえるように篠原に確認する幸次。
「う……そ、そうだ」
本当は十周には足りないと言ってやろうと考えていた篠原なのだが、何故か幸次は十周を過ぎてもペースを落とさずに走り続け、外部から見ている第三者、伍葉からとっくに十周を過ぎていると言う掛け声をもって走るのを止めたのだ。
その状態でも複数周回遅れを作った状態でゴールしてしまった以上、篠原は幸次の一位通過を認めるほかなかった。
「幸次君!ちょっと!!凄いわよ、凄すぎ!!陸上でもやっていたのかしら?」
立場上ありとあらゆる知識と数多くの技術を持っている伍葉紀子は、目の前の幸次が間違いなく世界レベルでは収まらない実力を示した事を理解しており、倒れ込んでいる石崎、教師の篠原など眼中にないとばかりに吉田を巻き込んで幸次とワイワイ話している。
「陸上とは何の事かはわからないが、余は日々命を懸けてこの体を鍛えていたぞ!」
比喩でも何でもなく命がけなのだが、日本で生活している伍葉や吉田にとってみればそれ位必死で鍛えたのだとの理解になっており、暫くこの話題で盛り上がっていたのだが、やがて一時間目の授業終了のチャイムが鳴り響く。
「お!で、二時限目は何をするのだったかな?」
「えっと、確か柔道って言っていたね、幸次君。頑張ってね!」
「先生、そろそろ時間が無駄なので早くしてもらえないか?」
挙句は石崎をどう庇おうか考えている篠原に向かっても突っかかっているのだ。
「こ、幸次君……大丈夫かな……」
吉田が本当に心配そうにしているのだが、横にいる伍葉の表情は少し前と違って落ち着き払っている。
「吉田さん、大丈夫よ。私はこれでも立場上・経験上、人を見る目があるの。幸次君は虚勢でも何でもなく、本心から言っているように見えるわ。それに、思い出したけれど彼、凄い体力よ。私が荷物を盗まれた時、自転車でバイクにあっという間に追いついちゃったのよ!だから、大丈夫。心配しないで」
生徒達はスタート地点に移動しており、伍葉から優しい言葉をかけられた吉田が笑顔で頷いて急いでスタート地点に向かう。
「良し、女子は一周、男子は十周。ビリはどうなるかは、説明した通りだ。では行くぞ、はじめ!」
一斉に走り出す生徒達の中で飛び出したのは、以外にも石崎とそのお付きの者達の運動が得意な面々。
彼らが五位までの好タイムを独占すれば、ビリの幸次は永遠に課題をクリアできずに走り続ける事になると思っているので、本気で取り組んでいる。
その直後を、必死な表情の先頭集団の中でただ一人余裕そうな表情で付いて行く幸次。
「う、おい、石崎!三島が付いてきているぜ?」
誰かの一言で先頭集団の石崎グループは背後に悠々とついてきている幸次に気が付くと、全員一気にペースを上げる。
幸次としてはトラックの説明を聞いてはいたのだが、若干不安が残るので手本となる人物の後を付いて行っているだけだ。
「この程度であれば強化する必要もないな。全く、自信満々なので少しは期待したのだが……エラ呼吸の下民程度ではこれが精一杯か?まぁ、水が無い状態だからエラ呼吸には厳しい条件ではあるがな」
本当に何の気なしに思った事を呟いたのだが、これが自らの背後を悠々と走っている幸次の声であると認識してしまった石崎達はもうペース配分もなにも無く、唯差を広げるためだけにまるで短距離走のような勢いになる。
「幸次君、頑張って!」
二周目を終えた頃には、吉田も一周走り終わったようで伍葉の隣で幸次を全力で応援している。
「ありがとう、吉田殿!正直余裕過ぎて欠伸が出そうだが、折角の応援だ。少し頑張ってみるか?」
返事をしたつもりが再び前方を真っ赤な顔をして走っている石崎達に聞かれ、本当に最後の力を振り絞って石崎達は少しだけスピードを上げるのだが……顎は上がり、口は開き、目には涙が浮かび始める。
「おぉ~、やはりエラ呼吸の下民にとって水の無い地上は厳しい環境のようだな。自信満々な態度のくせにこの程度だったから本気でがっかりしていたが、エラを使えない条件だと考えると意外と良くやったのかもしれんな」
石崎達の真横を……顎に手を置き悠々と観察しながら走りつつ感想を述べている幸次だが、もう石崎達には反撃する体力が残っていないので、一人、また一人と地面に倒れ込む。
「む?エラが使えないので酸素不足……か?水が必要ではなさそうだな。そうであれば伍葉先生が対応するはずだが、微動だにしていないからな」
もう篠原の信頼は地に落ちてめり込んでいるので全ての基準は教育実習生である伍葉になっている幸次は、その伍葉がこの現実が見えているのに動きを見せない事から問題ないものだと理解して、少しペースを上げて走る。
異世界の命のやり取りが行われている中で鍛え上げられた力は身体強化を使わず共別格であり、悠々と複数周回遅れを作った状態でゴールする。
「これで余がトップだな?」
弱者は後々言いがかりをつけてくる事が常であると知っているので、伍葉にも聞こえるように篠原に確認する幸次。
「う……そ、そうだ」
本当は十周には足りないと言ってやろうと考えていた篠原なのだが、何故か幸次は十周を過ぎてもペースを落とさずに走り続け、外部から見ている第三者、伍葉からとっくに十周を過ぎていると言う掛け声をもって走るのを止めたのだ。
その状態でも複数周回遅れを作った状態でゴールしてしまった以上、篠原は幸次の一位通過を認めるほかなかった。
「幸次君!ちょっと!!凄いわよ、凄すぎ!!陸上でもやっていたのかしら?」
立場上ありとあらゆる知識と数多くの技術を持っている伍葉紀子は、目の前の幸次が間違いなく世界レベルでは収まらない実力を示した事を理解しており、倒れ込んでいる石崎、教師の篠原など眼中にないとばかりに吉田を巻き込んで幸次とワイワイ話している。
「陸上とは何の事かはわからないが、余は日々命を懸けてこの体を鍛えていたぞ!」
比喩でも何でもなく命がけなのだが、日本で生活している伍葉や吉田にとってみればそれ位必死で鍛えたのだとの理解になっており、暫くこの話題で盛り上がっていたのだが、やがて一時間目の授業終了のチャイムが鳴り響く。
「お!で、二時限目は何をするのだったかな?」
「えっと、確か柔道って言っていたね、幸次君。頑張ってね!」
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