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悲惨な現場
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「はじめ!」
伍葉の良く通る声で両者が手を前に掲げる。
篠原は対格差から余裕で自分の組手を作れると思っており、どうすれば伍葉がいるこの前で長く幸次を痛めつけられるかを考えているので直ぐに動く事は無く、一方の幸次もどの技から順番に試してやろうかと言うワクワクした思いがあるので未だに動かない。
特に両者とも一本を取ってしまえばそこで試合が終わってしまうと知っているので、片や強制的に痛めつけるため、片や如何に長く自分の技を試す為に対戦時間を長くできるかに意識を持っていく。
周囲の生徒達は固唾をのんで二人を見ており、やがて篠原が対格差を生かして幸次の奥襟と掴もうと動く。
組手が有利であれば戦いも有利に進められると教わっている幸次だが、柔道を教えてくれた日本出身の幸次も所詮は白帯の一生徒であった事からあっさりと奥襟を掴まれ、篠原に有利な組手が出来上がる。
この状態であれば二人は近接しているので、篠原は審判をしている伍葉に聞こえないように小声で幸次にこう告げた。
「散々生意気な態度をとった躾をしてやる。気絶しようが、骨折しようが終わる事のない躾だ!覚悟しろ!」
その直後に腰に幸次を乗せて畳に叩きつけるついでに、自分の肘を鳩尾に入れてやろうと体を回転させる。
―――ドドン―――
「一本!」
確かに篠原は幸次を自分の背中に乗せて後は多少力任せに投げ飛ばすだけだったはずなのだが、その状態でバックドロップ宜しく幸次にブッこ抜かれて、所謂裏投げと言う状態で後頭部を激しく畳に打ち付けたのだが、流石は黒帯であり無意識下で受け身が取れているので怪我はしていない。
しかし瞬殺と言う事実が受け入れられずに立ち上がれないでいると、頭上から幸次の声が聞こえてきた。
「伍葉先生!今の無し!こんなに早く終わるなんて期待外れもいい所だ!是非余の希望を叶えて頂きたい!篠原もこれでは消化不良のはず!それに、この程度が本気であるはずがないのだ!何卒!!」
流石の篠原も、この状況を打破する事が出来るとすぐさま立ち上がる。
「いや、怪我をさせてはいけないと思い手を抜いていたが、そこそこの実力はありそうだ。ならば次は本気で行っても大丈夫そうだな」
瞬殺は敢えて手を抜いていたと宣言して再戦する事で必要以上にボコボコにして名誉挽回しようと企むが、その程度は伍葉にはお見通しであり、今の一戦も決して手を抜いているわけではなく、寧ろ余計な怪我をさせるように投げを打っていた事も理解している。
まさかの教師の暴走に再戦を留まらせようかとの思いが一瞬頭をよぎったが、相変らず自信満々の幸次を見て再戦を許可する事にした。
「わかりました。双方試合続行の意思ありと判断します」
「流石は伍葉先生だ。余の希望を叶えてくれて礼を言う!所で篠原。次も不甲斐ない試合であれば余も興ざめも良い所だ。そこで提案がある。余が一本をとっても試合は続行。篠原が一本取ればそこで試合終了と言うのはどうだ?」
「バカにしているのか?ふざけるな!両者ともに戦闘不能になるまで試合継続だ!」
流石の伍葉もこれ程の怒りをあらわにした体育教師を前に体を張って止める事は出来ず、なし崩し的に試合とは言えない状態の試合が開始される。
まさかの裏投げを食らった篠原は、幸次が見た目以上に力があると意識を切り替えて技術を織り交ぜた戦略をとり始める。
最も重要な組手は簡単に取れるので、その後はしっかりと幸次の体勢を崩して技をかける、正に柔道の基本とも言える動きを行う事にした。
相変わらず易々と組手を譲ってしまう幸次の動きに呆れつつ、慎重に寝技に持ち込もうと考えている。
これだけの体格差があれば一旦寝技に持ち込めば相当体力を奪えるし、見え辛い箇所で関節を決める事もできるのだが……幸次は自身の右袖を持っている篠原の左手を強引に叩き落すと、未だに左襟を掴んでいる篠原の右手を軸にジャンプして回転し、その勢いのまま左足で篠原の下あごをかち上げるように巻き込んで後方に倒しつつ十字固めに移行する。
日本で生まれ育った幸次は、日々の虐めの鬱憤を晴らす為に想像の中で敵を倒す事を考え続けており、その時に思っていたのが流れるように右手に飛びついて相手を倒してそのまま関節技を決めたとある柔術家の技であり、これを柔道の話の中で異世界の王子である幸次に伝えていたのだ。
幸次としても相当格好良い技だと思っており、何としてもこの技を試したかったところ篠原を予定外に瞬殺してしまった為に試合が止められそうになったので、再選を熱望していた。
その結果……
「い、痛い!痛い!!やめろ、止めてくれ!」
タップしても未だに技を解かない幸次に対して、情けない声を柔道場に響かせている篠原の声だけが聞こえる事になったのだが、流石に涙目で本気で痛がっている篠原を前にしては止めざるを得ない伍葉は幸次に止めるように促す。
「幸次君。一本です。技を外してください」
「うむ。わかった。おい篠原、直ぐに再戦だ。まだまだ準備運動にもなっていないからな。試したい技はまだまだある。フフフ、楽しみだ」
石崎すら怯えていた篠原を彼の土俵とも言える柔道で瞬殺して見せた幸次を見て、この時からクラス中の幸次に対する意識が大きく変わったのだ。
伍葉の良く通る声で両者が手を前に掲げる。
篠原は対格差から余裕で自分の組手を作れると思っており、どうすれば伍葉がいるこの前で長く幸次を痛めつけられるかを考えているので直ぐに動く事は無く、一方の幸次もどの技から順番に試してやろうかと言うワクワクした思いがあるので未だに動かない。
特に両者とも一本を取ってしまえばそこで試合が終わってしまうと知っているので、片や強制的に痛めつけるため、片や如何に長く自分の技を試す為に対戦時間を長くできるかに意識を持っていく。
周囲の生徒達は固唾をのんで二人を見ており、やがて篠原が対格差を生かして幸次の奥襟と掴もうと動く。
組手が有利であれば戦いも有利に進められると教わっている幸次だが、柔道を教えてくれた日本出身の幸次も所詮は白帯の一生徒であった事からあっさりと奥襟を掴まれ、篠原に有利な組手が出来上がる。
この状態であれば二人は近接しているので、篠原は審判をしている伍葉に聞こえないように小声で幸次にこう告げた。
「散々生意気な態度をとった躾をしてやる。気絶しようが、骨折しようが終わる事のない躾だ!覚悟しろ!」
その直後に腰に幸次を乗せて畳に叩きつけるついでに、自分の肘を鳩尾に入れてやろうと体を回転させる。
―――ドドン―――
「一本!」
確かに篠原は幸次を自分の背中に乗せて後は多少力任せに投げ飛ばすだけだったはずなのだが、その状態でバックドロップ宜しく幸次にブッこ抜かれて、所謂裏投げと言う状態で後頭部を激しく畳に打ち付けたのだが、流石は黒帯であり無意識下で受け身が取れているので怪我はしていない。
しかし瞬殺と言う事実が受け入れられずに立ち上がれないでいると、頭上から幸次の声が聞こえてきた。
「伍葉先生!今の無し!こんなに早く終わるなんて期待外れもいい所だ!是非余の希望を叶えて頂きたい!篠原もこれでは消化不良のはず!それに、この程度が本気であるはずがないのだ!何卒!!」
流石の篠原も、この状況を打破する事が出来るとすぐさま立ち上がる。
「いや、怪我をさせてはいけないと思い手を抜いていたが、そこそこの実力はありそうだ。ならば次は本気で行っても大丈夫そうだな」
瞬殺は敢えて手を抜いていたと宣言して再戦する事で必要以上にボコボコにして名誉挽回しようと企むが、その程度は伍葉にはお見通しであり、今の一戦も決して手を抜いているわけではなく、寧ろ余計な怪我をさせるように投げを打っていた事も理解している。
まさかの教師の暴走に再戦を留まらせようかとの思いが一瞬頭をよぎったが、相変らず自信満々の幸次を見て再戦を許可する事にした。
「わかりました。双方試合続行の意思ありと判断します」
「流石は伍葉先生だ。余の希望を叶えてくれて礼を言う!所で篠原。次も不甲斐ない試合であれば余も興ざめも良い所だ。そこで提案がある。余が一本をとっても試合は続行。篠原が一本取ればそこで試合終了と言うのはどうだ?」
「バカにしているのか?ふざけるな!両者ともに戦闘不能になるまで試合継続だ!」
流石の伍葉もこれ程の怒りをあらわにした体育教師を前に体を張って止める事は出来ず、なし崩し的に試合とは言えない状態の試合が開始される。
まさかの裏投げを食らった篠原は、幸次が見た目以上に力があると意識を切り替えて技術を織り交ぜた戦略をとり始める。
最も重要な組手は簡単に取れるので、その後はしっかりと幸次の体勢を崩して技をかける、正に柔道の基本とも言える動きを行う事にした。
相変わらず易々と組手を譲ってしまう幸次の動きに呆れつつ、慎重に寝技に持ち込もうと考えている。
これだけの体格差があれば一旦寝技に持ち込めば相当体力を奪えるし、見え辛い箇所で関節を決める事もできるのだが……幸次は自身の右袖を持っている篠原の左手を強引に叩き落すと、未だに左襟を掴んでいる篠原の右手を軸にジャンプして回転し、その勢いのまま左足で篠原の下あごをかち上げるように巻き込んで後方に倒しつつ十字固めに移行する。
日本で生まれ育った幸次は、日々の虐めの鬱憤を晴らす為に想像の中で敵を倒す事を考え続けており、その時に思っていたのが流れるように右手に飛びついて相手を倒してそのまま関節技を決めたとある柔術家の技であり、これを柔道の話の中で異世界の王子である幸次に伝えていたのだ。
幸次としても相当格好良い技だと思っており、何としてもこの技を試したかったところ篠原を予定外に瞬殺してしまった為に試合が止められそうになったので、再選を熱望していた。
その結果……
「い、痛い!痛い!!やめろ、止めてくれ!」
タップしても未だに技を解かない幸次に対して、情けない声を柔道場に響かせている篠原の声だけが聞こえる事になったのだが、流石に涙目で本気で痛がっている篠原を前にしては止めざるを得ない伍葉は幸次に止めるように促す。
「幸次君。一本です。技を外してください」
「うむ。わかった。おい篠原、直ぐに再戦だ。まだまだ準備運動にもなっていないからな。試したい技はまだまだある。フフフ、楽しみだ」
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