【完結】灰色の天使、金の魔法使いを婿に迎える

ジュレヌク

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第八話ブラックアウト(ざまぁ②)

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『あぁ、腹が立つぅーーーーー!』

 ルビナは、腹立ち紛れに部屋の物を壊しまくったが、悶々とする気持は一向に気持は晴れなかった。

『私は、マックスから愛されているのよ!だって、どんな我儘も、最後には聞いてくれたじゃない。愛でなくて、なんなだっていうの?』

 相手の愛情を『我儘を聞いてくれるかどうか』で測ることしかしてこなかった彼女に、いくら説いてもマックスの気持は理解は出来ないだろう。

 以前、ラビナがブリリアント男爵家に訪れた際に、貴族令嬢の悪口を大声で喚き散らしたせいで、現在彼女は出禁にされている。
 罰せられなかっただけでも有り難いと思わなければならないのに、

『どうせ、ブサイクのくせに!』

と会ったことすらやいシャーリーに対して、逆恨みを止めない。元々、男爵の家に平民の少女が勝手に出入りできた状況でしたおかしいのだ。

 しかも、借金は多額の利息付きで全額返済されており、既に終わった話だ。これに文句を言うことは、国の方針に刃向かうことにもなる。

 しかし、どうしても我慢できなくなったラビナは、部屋を抜け出しブリリアント男爵家に向かう。

『マックスに会えば、きっと、また元に戻れるわ』

 なんの根拠もない自信を胸に屋敷の前まで来たが、以前は、自由気ままにくぐっていた門が固く閉ざされていた。

「ちょっと、私は、ラビナよ!」
「存じ上げております」
「今までは、すぐに、通してくれたじゃない!」

 居ることすら知らなかった門番の男が、門を堅く閉めてラビナの侵入を阻んでいる。

「シャルト坊ちゃまより、今後は、ご予約のある方のみ通すようにと申しつかっております」
「また、アイツなの!」

 ラビナは、ブリリアント男爵家の長男シャルトが大の苦手だ。丁寧な態度なのに馬鹿にされている気がする。しかも、ラビナの要望が過激になり過ぎると、必ず何処かから現れ、言葉巧みに煙に巻いて彼女を家に帰すのだ。

「もう!もう!もう!」

 地団駄を踏んでもピクリとも動かない大男に、ルビナは、しびれを切らして踵を返した。

『こうなったら、抜け道から入ってやる。』

 まだ、本当に小さかったころ、この抜け穴を偶然くぐったことで、ブリリアント男爵家の庭に迷い込んだ。そこで、女の子に飢えていたルビーと出会い、可愛がってもらえる幸運に恵まれたのだ。

 ただ、その穴というのもおこがましい、地面と垣根の間に出来た平べったい隙間を、今のラビナが通れるかと言われれば些か疑問が残る。

「……アレ?」

 記憶とは、往々にして都合よく書換えられるものだ。彼女の想像より遥かに小さい穴に、

「もっと、大きかったはずなのに。きっと、あの女が埋めさせたのね!」

と怒りをあらわにする。逆恨みも、ここまで来るとアッパレと言えた。

「こんな嫌がらせに、負けないんだから!」

 屋敷への侵入が目的だったはずなのに、ルビナのお花畑が咲き誇る頭の中は、意地悪な貴族令嬢に虐められる健気な平民の女の子という対立構造に変わっていた。

 恋人同士を阻むリアルな障害に、俄然やる気が湧いてくる。

「よーし、通ってやろーじゃないの!


 よほど自分の体の薄さに自信があるのか、ラビナは、ルビーのご機嫌取りに持ってきた花束を脇に置くと、地面に這いつくばって、匍匐前進しだした。

 脳味噌のあまり入っていない小さな頭と薄っぺらい胸はなんとか通ったが、安産型の尻が引っかかる。

「うそ、やだ、もぉーーー」

 グリグリと腰をひねりながら前に進むと、スカートの装飾品が幾つか取れた。

ビリッ

 更に、繊細な絹で出来た衣装も、泥に汚れ、所々破れる。なんとか庭に出た頃には、目も当てられない状態になっていた。

「なんで、私が、こんな目に合わないといけないのよーー!」

 自業自得なのに、責任転嫁をしたラビナの恨みは、マックスの婚約者におさまった貴族令嬢に一点集中していった。

「ルビーおばさまに、言いつけてやるんだから!」

 穴から手を伸ばし、外に置いてきた花束を引っ張り込むと、大輪の薔薇が半分は花びらを落とした。それは、白いバラに、紫のインクを吸い上げさせた特別製で、ドワンゴ紹介の売れ筋一番だった。無惨な姿に、流石のラビナも肩を落とす。
 しかも、リボンが解けてバラバラになってしまった。それらをかき集めて、両手いっぱいに抱えると、ラビナは、屋敷の方へと駆け出した。

『こうなったら、ルビーおばさまに貢ぎまくって、私からのお願いを断れなくしてやる!お花が大好きなのは、知ってるわ!お庭に自分で花壇作るくらいだもん。こんな珍しい紫の薔薇、目を輝かせるに決まってる』

 ボロボロの姿になったラビナは、どうやってシャーリーの非道さを訴えてやろうか、ワクワクしながら、いつもルビーが日向ぼっこしてるガーデンチェアの所まで駆けた。
 しかし、マリャシャラコンビに刺繍を教えているルビーは、ここには居ない。

「えー、いつも、ここに座ってるのに………こうなったら、大声で呼ぼう!ルビーおば……」

「おい!ラビナ、何をやってる!!!」

 叫んだと同時に、後ろから、怒鳴り声が聞こえた。

「あら、スコット」
「母さんは、今、お客さん達と楽しんでる。邪魔しないでくれ」

 前々から、スコットとラビナの相性は悪い。同じ歳と言うこともあるが、可愛くおねだりしても、一向に言うことを聞いてくれないのだ。

『ちょっと、ラビナがルビーおばさまに可愛がられてるからって、コイツ、逆恨みし過ぎなのよ』

 お前が言うか?と言ってやりたい所だが、流石にラビナも心で思うだけで口にはしない。

『ほんと、コイツ、邪魔!何かって言うと、突っかかってくるわね』

 ラビナは、不満いっぱいの表情でスコットに向きな取ると、 

「ルビーおばさまは、私に会いたいと思うわ。案内しなさいよ」

と指図した。

「会いたいわけ、あるか!毎回、毎回、借金チラつかせて、うちに居座る厄介者!」
「厄介者ですって!」
「確かに、小さい頃は母さんも、お前を可愛がってたけど、どんどん増長する馬鹿女に、うちの家族全員ウンザリしてたんだよ!」
「何よ、スコットの分際で!アンタなんて、マックスの劣化版じゃない!」

 似ているのに少し違う。それが余計目につくことは多々ある。

 金髪の色も、マックスみたいに輝いてなくて、麦の穂みたいに少しくすんでいる。
 魔力もあるけど、首席にはなれそうにない。
 ない、ない尽くしで、ちっとも魅力がない。

 そうラビナは、スコットを評価していた。だから、侮っていたのだ。

「マックスより優れた所があるなら、言い返してみなさいよ!」

 その瞬間、凄い風が吹いた。ゴーゴーと音を立てたと思ったら、竜巻へと姿を変えた。流石のラビナも、異常な状況に顔色を真っ青に変えた。

「言ってないから知らないと思うけど、俺、マックス兄さんよりも、風魔法だけは強いんだよね」

 意地の悪い笑みを浮かべて、スコットが、ラビナを指差した。気づけば、あっという間に竜巻の中。

「く、苦しい」

 風が強すぎて、息ができなくなったラビナは、そのままブラックアウトした。
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