【完結】灰色の天使、金の魔法使いを婿に迎える

ジュレヌク

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第四十話バージンロード

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 教会に続く真っ直ぐな道の両側に、馬車で移動する新郎新婦を見ようと、人々が並んでいる。

「「シャーリーしゃま、シャーリーしゃまー」」

 マリアもサラも、孤児院の皆と一緒に、手を振りながら挨拶をするシャーリーを見守っていた。

 小さな教会のため、全員が中に入ることはできない。
 しかも、第三王子とジポーノ国のお姫様も参列するとあって、警備が厳重にされていた。

 折角頑張ってベールを縫ったのに、近くで見ることができず、ガッカリするサラ達に、クイーンがこの後行われる披露宴は、街の皆のものだと教えてくれた。

「「ほんとー?」」
「アタシは、嘘はつかないよ。マリアもサラも、シャーリー様のすぐ近くの席だからね」

 貴族を呼んだ正式な披露宴は、シャーリーの卒業後に手順を踏んで行われることになった。

 元々、街の劇場に、女学園に通う貴族令嬢達を招待するなど不可能な事なのだ。

「たのしみねぇ、シャラ」
「たのしみねぇ、マリャ」

 すぐ側で、自分達が縫ったベールを被るシャーリーが見られるとあって、ニヨニヨと笑いながら抱きしめ合った。

 両親を辻馬車の事故で亡くした時は、表情が抜け落ち、何にも反応を示さなくなっていた二人。

 その時の事を知る街の者達は、元気を取り戻した子供達を見て、こっそり涙を拭った。

「アンタ達も、シャーリー様みたいに、幸せになんないとねぇ」

 目が真っ赤なのに、あえて明るくクイーンが言うと、二人は、嬉しそうに笑って手を挙げた。

「「あい!では、れっちゅごーれしゅ!(レッツゴーです)」」

 元気よく返事をしたマリアとサラは、手を繋いで、披露宴会場となっている劇場に向かって進み出した。

「「チュンタカターン、チュンタカターン」」

 変なリズムを取りながら、体を揺らして踊るようにスキップ。

 彼女達の本番は、これからなのだ。



「ミケーネ婆ちゃん、シャーリー様、見える?」
「ラグドール、静かにおし。わたしゃ、耳も目も、老いさらばえてないよ」

 ムスッとしても恐くはないけど、教会には不釣り合いな強面だ。

 しかし、シャーリーが側を通ると、フワッと表情が柔らかくなった。

『あぁ、こう言うの、初めてだ。』

 幸せに微笑む彼女に、ラグドールは、涙を浮かべる。若くして当主として立たなければいけなくなった彼を心配して、時に支え、時に叱咤激励し続けてくれたミケーネ。

 しかし、玄孫が五人も生まれたのに、一緒に過ごさせてあげられなかった。

「ねぇ、ミケーネ婆ちゃん」
「なんだい?」
「そろそろ、王都で住もう。領地は、私とシャルトの二人で何とかなる。きっと、シャーリー様とマックスの間には、可愛い子が生まれるよ。側で見守ってみたくない?」

 ミケーネの意志の強い目の奥に、揺らぎが見えた。

「良いのかい?」
「もう、百五歳だろう?十分働いてきたって。甘え過ぎた私を、許してくれる?」
「ったく、あたしが下手に出られたら断らないのを知っててやってるね?タチの悪い子だ」
「ミケーネ婆ちゃんの曾孫だからね」

 笑い合った二人は、一緒に視線をバージンロードへ移した。

 エンジェル伯爵に付き添われ、シャーリーがゆっくりと歩いて行く。
娘のいないラグドールにとって、恥ずかしげに俯く新婦と号泣する父と言うのは、なかなか面白い光景だった。



一歩、一歩、シャーリーがマックスに近づいてくる。夢にまで見た光景が、今、目の前にある。

 思わず駆け出しそうになるのをグッと我慢して、マックスは、カーター神父と一緒に祭壇の前で待った。

 しかし、

「・・・カーターさん・・・アレ、遅くないですか?」
「うん。まるでカタツムリか、牛みたいだね」

少しでも娘を手渡すのを遅らせようと、ジョンが、これ以上ないくらいノロノロと進む。

 その光景が余程面白いのか、ルビーが、笑うのを堪えて肩が揺れまくっている。

『ヤバい。このままじゃ、母さん、いつ大爆笑するか分からない。』

 少々空気が読めない元王女のルビーは、かなりの笑い上戸だ。神聖な空気あふれる教会でも、普段と変わらず声を上げて馬鹿笑いするだろ。

「迎えに行って良いですか?」
「マックス、父親というものは、あぁ言う生き物なんだよ。もう少し、待ってあげなさい」
「しかし、時間が」

 そろそろジポーノ国の船が着岸する頃だろう。こちらは馬車を想定しているが、もしかしたら、単騎で駆けてくる可能性もある。その場合、到着時刻は3時ごろ。披露宴の真っ最中もあり得る。

「む、無理だ」

 思わず俺は、一歩踏み出した。

 と同時に、シャーリーがジョンを引っ張って二歩踏み出した。

プッ

マックスは、思わず笑ってしまった。

視線の合ったシャーリーも、笑っている。

「さぁ、シャーリー、おいで!」

 マックスが叫ぶと、ジョンがシャーリーから手を離し、背中を押した。

「行っておいで、私の大切な娘」
「はい!お父様」

 シャーリーは、スカートを少し持ち上げると、マックスに向かって走り出した。

「マックス様!」
「シャーリー!」

 飛び込んできたシャーリーを受け止めると、力を逃す為に、一回だけクルッと回った。

 彼女のウェディングドレスの裾が広がり、まるで花が咲いたような美しさだ。

「では、難しいことはさて置いて、二人に神の祝福があらんことを」

 長い説法を省きまくったカーター神父の祝福に、教会の中は、一斉に拍手と笑いに溢れた。
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