悲劇なのか喜劇なのか どう思う? 探偵(?)

ゆらぎなぎ

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 修平の原稿は完成していた。あとは私の清書仕事が残るのみである。

 ここで驚いているあなたは、もうすでに馴染みの客なのでしょう。良かったね、静佳しずかちゃん。そんな声をかけてくれたら嬉しいです。ありがとう。

 疑り深いあなたのために説明を付け加えると、もちろん(笑)〆切は過ぎている。
 けれどもすでに朦朧としているものの、その辺りの日付の騒動のことを考えると、今こうして仕上がっているのが奇跡のようなので、そんなものを破ったことなどささやかな罪に思えていたりして。

 軽やかにキーボードを滑らせつつも、なんだかほんわりとしてしまう。脳内麻薬がにじんであふれているのかもしれない。
 まぁ、もう、なんでもいいや。よくできました! 修平ちゃん。てなもんである、現在の心境。

「静佳ちゃん、ちょっとちょっと」
「うん」

 最後のまるをうった時、修平・母の祝子よしこさんが、息子の部屋のドアを少しだけ開いて、囁くような声で私を呼んだ。タイミングよろしく。
 なんだか逼迫しているよーに聞こえる声に、私は三歩だけだけど走るようにして、近付いてみる。

「どしたの? おばさん」
「修平、どう? 終わりそう? あれ、どんな状態?」

 あれ。振り返ると、この位置からはソファからはみ出した頭しか見えない。

「終わって怠けてる状態。めでたいよー、終わったよー。どうしたの?」
「お客様お客様。女の子でね、知り合いじゃないみたいなのよ」

「女の子。――美人?」
「特上」

「取り次がなきゃ、殺されるよね」

「でもなにか裏があるかもよ。お恨み晴らさせてもらいますッとか言ってぐさっと刺されたりして。あんな美人が修平を訪ねてくるなんて、おかしいわよ」

 そんなに美人?

「なんか思い詰めてるみたいな様子もあるしねぇ。大丈夫かな」

 と、階段方向を窺い見ると、ひそひそと。

「逃げ出す? 静佳ちゃん、私たち」

 この発言の冗談具合はどの程度なんだろう? おばさん……。

「修平」

 ちょっと同情な気持ちがすぐにふっとんだのは、私の声を抹殺したからだ。オイ、呼びかけには応えなさいってば。私は次には三段階ほど、トーンを上げた。

「修平!」
「へーい?」

 ソファの背もたれから、呆けた声がこぼれ出た。こんな大声でも、やっと聞こえたといった調子だ。耳もすっかり、ホリディモード。

「お客人だけど、どうする?」
「だーれだー? なんか約束してたっけか?」

「約束とかしてないし初対面みたい。女の人だよ」
「女。――美人?」

 うなずくと、修平は起き上がった。ビデオのリモコンに手を伸ばし、もちろん押したのはストップボタン。返事を聞くまでもない。

「ここに呼ぶよ」
「よろしく頼む」

 だんだん、毛利小五郎じみてきたと思う。ドアを閉めながら振り向いたときには、もう姿が消えていた。お衣裳部屋へととび込んだのだ、もちろんお召し替えのために。
 バカな格好で現れたら、その時こそはこの場から逃げ出そうっと。

 階段の上から身を乗り出して、見上げてるおばさんと目を合わせる。後ろに窓があるために、きっと私の表情が見えないだろうから、左手を派手に動かして、了解の合図を送る。

 ここからでは美人さんの姿は見えない。相手が見える位置にくれば、私も相手から見えてしまうといった家の構造。
 拝見はこの部屋で、ということにするしかなさそう。私は階段から身を引き上げた。

「上がってください、どうぞ、スリッパ」

 おばさんの声はまだ続く。

「開いているドアを開けてね」
「はい」

 返事の細い声を聞きながら、私はドアを開いたままにして室内に戻った。

 美人、さんをお迎えするのに、私だって着替えたいかも。そんなことを思いついてしまい、修平がせっせと衣装を替えている部屋のドアを、恨めしい思いで見てしまう。

 第一印象として、私の格好はよろしいとは言い難い。いや、正しい女子高生かもしれないですが。

 てれてれのポロシャツに、そろそろ捨てようと思っている綿のスカート。
いつもいつもこんな調子で、……私だってたまには、自信を持ってみなさんに私の服たちを紹介してみたいですよ……。

 開いたままのドアだけれど、きちんとノックはされたのだった。こんこん、と二回。

 まず見えたのは、長い髪の毛。ゆるくウェーブのかかった髪は、少々、茶色く目に映る。茶髪というイメージではない。そう思ってしまったのは、続いておずおずと見え始めた、お顔の印象のせいかもしれない。

 顔が。
 うわぁ。
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