悲劇なのか喜劇なのか どう思う? 探偵(?)

ゆらぎなぎ

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「あお邪魔いたします。石塚茉里絵と申します」

 言いながら、深々~とお辞儀をする。と。ととっ。私にかっ。

「ど。どうぞ、座ってください。すぐ、来ますから」

 かなりあわてて私は言って、ソファを手で示しながら、もう少し待っていただいて、カーペットに掃除機をかければ良かったと大後悔。あぁ……。プリングルスの食べこぼし……。ちょうど、石塚さんのスリッパの真横に大きなかけらが。

 私も気付かなければ幸せだったのに。

 部屋の隅へととんで移動し、ポットの再沸騰ボタンを押す。紅茶、紅茶でいいだろうか、ホットだろうかアイスだろうか。

 十月にもなろうというのに夏は名残って半端な季節、人は何を求めるのだろう? 一日中ここで過ごしていたせいで、暑いのか寒いのか外の気候がわからない上に、石塚さんはノースリーブのセーター姿なのだ。そんな袖の服を着るほどに暑いのか、けれどアイスを出したら、寒くなってしまうかも、と判断するのに苦戦してしまう。

 ドアが開く音に振り返ると、修平の真っ当な服装での登場だった。
 真っ当。良かったじゃないか。キャリオカの男S風のスーツで現れたら、マジでこの場を逃げ出していた。

「お待たせいたしました。西野です」

 軽く、少しだけ頭を下げる。
 絶対、石塚さんの美人度に驚いたはずなのに、重ねた年の功なのか、驚愕は見事に隠されていた。久々に尊敬の念が湧いたかもしれない。何年ぶりだ、こんなの。そう思う気持ちが情けない。

 そんなことでなぜだか私は落ち着いていた。おたおたすることに意味がないことに、ふいに気付いたのだ、良かったけれど。

 石塚さんが会いに来たのは、修平であるわけだし、修平が普通ではないからと言って、私がカバーだのフォローだのする必要はない。思うがままに生きている先生は、私のそんなモノは必要としていないわけですからして。

 お茶もホットに、簡単に決まる。何を浮き足立っていたんだか。ホットだったら、熱い場合は冷ませばよろしい。

 石塚さんは小さなハンドバックを膝の上からソファへと移して、さっき私相手にご丁寧だったのと同じように、とても丁寧に頭を下げた。姿勢が美しい。見習いなさい、という感じ。

「お忙しいところに突然お邪魔しまして、申しわけありませんでした。お話を聞いていただけるでしょうか。西野先生」
「ちょうど時間が空いたところでしたよ」

 嘘っぽいけど本当。傍観者、口の中でつぶやく。

「私、石塚茉里絵と申します。帝北大学の四年生で、今は教育実習生として、廣川中学で勉強させていただいています」

 ほうほう。
 当然の秘書の義務として、話もしっかり聞きながらお茶を出した私は、石塚さんにほほえまれて、再び足を浮かせていた。
 すごいいいです、美人のほほえみ。

 私の秘書についての発想は、最近気に入ってるペリィ・メイスンシリーズの『美人』秘書、デラ・ストリートから来ているのだけれど、転倒しているのを承知で言うと、石塚さんはそんな整った美しい人なのだった。
 性格的にはあんな切れ味はないとは思う。だけど、なんて言うのかこう、絵になる感じなのだ。トータルで仕上がっている、と言うと近いかもしれない。欠けていないと、言ってもいい。

 うーむ。世の中には、こんな人がいるのだなぁ。と、ふしぎな感慨。

 中学で教育実習――お盆を抱えて、持ち場に戻りながら考える――ということは、学校の先生になる可能性が未来にある、ということだ。
 うわ。すごい美人。美人先生だわ。人気者~。

「お約束もとらずにお伺いして申しわけありませんでした。困ったことが起きまして考えているうちに、以前に聞いた先生のお名前を思い出しまして、そうしたらもう座ってはいられなくなってしまって訪ねてきてしまいました」

 私のおちゃらけた発想がばかげて思えるほどしとやかに、石塚さんは話を続けた。さらに重ねて『男子校に行くべきじゃない?』なんちゃってことを考えつつ、私は自分のための紅茶を用意にかかる。秘書にあるまじき、ですけど、まぁそれはそれ。

 部屋の隅に設えられたバーカウンター(本当。映画に現れるハリウッドスターとかが持ってるやつ。道楽作家だから)の内側からは、修平の顔も依頼人の(と言うより、お客様でしょ)顔も、程よい角度からうかがえる。ティーパックの封を切りながら、考えること。
 ただ今までの短い時間、修平は『小五郎度明智寄り』に、成功している。
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