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「それでそれで、恋文探しってなんなのよ」
やっとすべての準備が整って全員席に着いたところでおばさんが言った。うきうきと井戸端全開で身を乗り出している。
はー、と私はお箸をくわえながら思う。おばさんもいまいち、修平のストッパーにはならないんだよね。まぁつまりは育ての親なわけだから。いや産んでもいるけど、育てるって性質伝授ってそういう意味で。
もきゅもきゅごはんを食べながら、修平は事件(じゃないけど)のあらましを一通り語った。石塚さんが涙ながらに語ったことは、まとめてしまえば非常に簡潔。さらっとこんなで終わってしまう。
「手紙を書いて鞄に入れて出かけて、渡せなくて持ち歩いていたらいつしか姿を消していたんだと。心当たりは探しまくったけれど、どこにもない。ということはと考え続けて、出てきた可能性が盗まれた? だと言うんだな。鞄に入れたことは確かだから家中探してももちろんないし、学校中可能性のありそうなところをさまよってみても見つからない。鞄に入れたまま一度も出してないんだから落とすはずはないんだけどな。で、ま、盗まれたんじゃないかと思って、誰かに見られたときの事を考えて居ても立ってもいられず、脅迫者の影に脅えて、このダンディな二枚目探偵のところに助けを求めにきたわけだ」
最後に余計な虚飾が入ってるけど。
「ふーん」
聞き終えたおばさん、なにやら小馬鹿にしたように、
「何か勘違いでもしてるんじゃないの? 入れたはず入れたはずって、修平も良く思い違ってムダな探し物するでしょ、あれよあれ」
「いんだよ、それは探し物の必要な過程なんだから。騒ぎ立てることで隠した小人の罪悪感をあおってだな」
「だいたいいいじゃないそんなの別になくなったままでも。なにを騒ぐの。なんで脅迫?」
ブラボー、おばさん。
「でしょ。そうだよね、そこだよね。そう思うよね」
「そんなにいい家のお嬢さんなの? あの娘は。皇室にでも嫁ぐとか? 今の時代に手紙一通がなんだって言うの。独身なんでしょう?」
「もちろんだとも」
なにをそんなに力を込めて。おばさんもそう思ったらしく、
「ちょっと修平、今度はやめておきなさいよ。相手にはすでに恋文が絡んでるってこと、お忘れなくね」
「恋文。なんと甘露な響きなのでせう」
「でもね、本人から恋文だって断定があったわけじゃないんだよ。修平の思い込みかもしれないの」
「手紙書いて渡せずにいるんだから、中身はラヴに決まっとるでしょ。何を言うんだね、ご婦人方は」
おばさんと私、顔を見合わせ、鼻で笑って差しあげた。アイニク生活してかなくてはならんもんで、夢ばかしみてはいらんないのよ、女はね。
「まぁラヴだろうと果たし状だろーと、もし本当に盗まれていたりして読まれちゃったんだったらそれはヤダよ? だけどさ、なんでその次に脅迫なんてところに話が行くんだろって思うわけよ。直結って変じゃない? ひやかされるならわかるけど」
「脅迫されてからじゃ遅いから、いまのうちに見つけ出せってことだろうな」
「拾った人がみんな脅迫するなんてことないと思うんだってば。ただ返してくれる人の方が圧倒的多数、ふつう」
「すると内容がよっぽどなんだわね、誰もがみんな脅迫したくなっちゃうような」
どんな手紙だ。
しかしおばさんは結論が気に入ったみたいで、二回も深く頷いている。
「修平、なんで内容に触れなかったの? そんなに読まれて悪い手紙って、あ、誰宛ての手紙なのかも聞いてないじゃん! その相手が相手だから脅迫されちゃうなんて怯えるんじゃないの? 石塚さん」
「あ、そうかっ。それね、きっと。相手が妻子持ちとかで不倫。そういうことよ。だから見つかったら脅迫決定なんだわよ」
「可能性は上がるけど、不倫の手紙なんだとしても拾った人がみんな脅迫を考えるわけないと思う。私だったらやらないなー。面倒くさいもん」
「そうよね、お金の振込先とか作らなきゃなんないし、それ一つでも面倒くさいわ」
「じゃあお金はどこかに置き去りにしておいてもらって、後から取りに行く、とか」
「警察に見張られているんじゃないかとかびくびく気にして、まさか本当に捕まったりしたらどうするの。怖いじゃない」
「おまえらみたいなめんどくさがりは犯罪向きじゃないんだよ」
「そうなのよねぇ。これ考えるのも面倒くさいわ。その点、あんたはまめよね。やりもしない犯罪をずっと考えてるんだから」
それはおばさん、ミステリ作家でありますからして。褒めていると言うよりは、信じられないという方向に偏ったニュアンスがびしばし。
どうも話がふらふらしているな。ルート修正ルート修正。
「で。どうして石塚さんに内容を確認しなかったんだって?」
てとこまで戻ってみよう。
「捜査に関わらない女性の秘密を暴くことはないだろー? という紳士的な判断だ」
「ホームズは秘密が残るなら引き受けないって言ってたよね、確か。それでなんとかいう偉い人を追い返そうとしたんじゃなかったっけ」
「あのね、女はね、秘密を着飾って美しくなるの。シークレットは必要なの。ホームズはなにしろ女性は担当じゃなかったからな」
なにしろあんたは担当だからな。ただいま担当者に代わります。
「だけどそれがふっかく事件に関わってたら、なんにもわかんなくなっちゃうよね。それでいいの? 捜査員として」
「関係のあることはすべてお話くださいと言ったのに、茉里絵さんは話さなかったんだぞ。関係ないに決定しただろう」
アホちゃうか。
空いたまま塞がらない口に、私はごはんを詰めてみた。食べ物が入れば反射で閉じるわ、それでよし。
いいわけないけど、いいんかねこれ。必要な情報があちこち欠けている気がする。全体像が描けないというか、頼りなくもやもやしたものになってしまっちゃないだろーか。
まぁただの失せもの探しと考えたなら、背景なんてなくたっていいんだけどさ。暇な修平が忙しい石塚さんの代わりに探すってそれだけならね。
「まずは明日は、彼女の自宅だぞう♪ 楽しみ楽しみ、今日は早く寝よーっと」
私はおばさんと顔を見合わせて、すぐにお互いに視線を外し、焼き豚レシピに花を咲かせた。
とにかく依頼人より依頼があって動いているわけなんだから、何が起きても合意の上だ。何が起きるか――どころか起きても知らんけど。
やっとすべての準備が整って全員席に着いたところでおばさんが言った。うきうきと井戸端全開で身を乗り出している。
はー、と私はお箸をくわえながら思う。おばさんもいまいち、修平のストッパーにはならないんだよね。まぁつまりは育ての親なわけだから。いや産んでもいるけど、育てるって性質伝授ってそういう意味で。
もきゅもきゅごはんを食べながら、修平は事件(じゃないけど)のあらましを一通り語った。石塚さんが涙ながらに語ったことは、まとめてしまえば非常に簡潔。さらっとこんなで終わってしまう。
「手紙を書いて鞄に入れて出かけて、渡せなくて持ち歩いていたらいつしか姿を消していたんだと。心当たりは探しまくったけれど、どこにもない。ということはと考え続けて、出てきた可能性が盗まれた? だと言うんだな。鞄に入れたことは確かだから家中探してももちろんないし、学校中可能性のありそうなところをさまよってみても見つからない。鞄に入れたまま一度も出してないんだから落とすはずはないんだけどな。で、ま、盗まれたんじゃないかと思って、誰かに見られたときの事を考えて居ても立ってもいられず、脅迫者の影に脅えて、このダンディな二枚目探偵のところに助けを求めにきたわけだ」
最後に余計な虚飾が入ってるけど。
「ふーん」
聞き終えたおばさん、なにやら小馬鹿にしたように、
「何か勘違いでもしてるんじゃないの? 入れたはず入れたはずって、修平も良く思い違ってムダな探し物するでしょ、あれよあれ」
「いんだよ、それは探し物の必要な過程なんだから。騒ぎ立てることで隠した小人の罪悪感をあおってだな」
「だいたいいいじゃないそんなの別になくなったままでも。なにを騒ぐの。なんで脅迫?」
ブラボー、おばさん。
「でしょ。そうだよね、そこだよね。そう思うよね」
「そんなにいい家のお嬢さんなの? あの娘は。皇室にでも嫁ぐとか? 今の時代に手紙一通がなんだって言うの。独身なんでしょう?」
「もちろんだとも」
なにをそんなに力を込めて。おばさんもそう思ったらしく、
「ちょっと修平、今度はやめておきなさいよ。相手にはすでに恋文が絡んでるってこと、お忘れなくね」
「恋文。なんと甘露な響きなのでせう」
「でもね、本人から恋文だって断定があったわけじゃないんだよ。修平の思い込みかもしれないの」
「手紙書いて渡せずにいるんだから、中身はラヴに決まっとるでしょ。何を言うんだね、ご婦人方は」
おばさんと私、顔を見合わせ、鼻で笑って差しあげた。アイニク生活してかなくてはならんもんで、夢ばかしみてはいらんないのよ、女はね。
「まぁラヴだろうと果たし状だろーと、もし本当に盗まれていたりして読まれちゃったんだったらそれはヤダよ? だけどさ、なんでその次に脅迫なんてところに話が行くんだろって思うわけよ。直結って変じゃない? ひやかされるならわかるけど」
「脅迫されてからじゃ遅いから、いまのうちに見つけ出せってことだろうな」
「拾った人がみんな脅迫するなんてことないと思うんだってば。ただ返してくれる人の方が圧倒的多数、ふつう」
「すると内容がよっぽどなんだわね、誰もがみんな脅迫したくなっちゃうような」
どんな手紙だ。
しかしおばさんは結論が気に入ったみたいで、二回も深く頷いている。
「修平、なんで内容に触れなかったの? そんなに読まれて悪い手紙って、あ、誰宛ての手紙なのかも聞いてないじゃん! その相手が相手だから脅迫されちゃうなんて怯えるんじゃないの? 石塚さん」
「あ、そうかっ。それね、きっと。相手が妻子持ちとかで不倫。そういうことよ。だから見つかったら脅迫決定なんだわよ」
「可能性は上がるけど、不倫の手紙なんだとしても拾った人がみんな脅迫を考えるわけないと思う。私だったらやらないなー。面倒くさいもん」
「そうよね、お金の振込先とか作らなきゃなんないし、それ一つでも面倒くさいわ」
「じゃあお金はどこかに置き去りにしておいてもらって、後から取りに行く、とか」
「警察に見張られているんじゃないかとかびくびく気にして、まさか本当に捕まったりしたらどうするの。怖いじゃない」
「おまえらみたいなめんどくさがりは犯罪向きじゃないんだよ」
「そうなのよねぇ。これ考えるのも面倒くさいわ。その点、あんたはまめよね。やりもしない犯罪をずっと考えてるんだから」
それはおばさん、ミステリ作家でありますからして。褒めていると言うよりは、信じられないという方向に偏ったニュアンスがびしばし。
どうも話がふらふらしているな。ルート修正ルート修正。
「で。どうして石塚さんに内容を確認しなかったんだって?」
てとこまで戻ってみよう。
「捜査に関わらない女性の秘密を暴くことはないだろー? という紳士的な判断だ」
「ホームズは秘密が残るなら引き受けないって言ってたよね、確か。それでなんとかいう偉い人を追い返そうとしたんじゃなかったっけ」
「あのね、女はね、秘密を着飾って美しくなるの。シークレットは必要なの。ホームズはなにしろ女性は担当じゃなかったからな」
なにしろあんたは担当だからな。ただいま担当者に代わります。
「だけどそれがふっかく事件に関わってたら、なんにもわかんなくなっちゃうよね。それでいいの? 捜査員として」
「関係のあることはすべてお話くださいと言ったのに、茉里絵さんは話さなかったんだぞ。関係ないに決定しただろう」
アホちゃうか。
空いたまま塞がらない口に、私はごはんを詰めてみた。食べ物が入れば反射で閉じるわ、それでよし。
いいわけないけど、いいんかねこれ。必要な情報があちこち欠けている気がする。全体像が描けないというか、頼りなくもやもやしたものになってしまっちゃないだろーか。
まぁただの失せもの探しと考えたなら、背景なんてなくたっていいんだけどさ。暇な修平が忙しい石塚さんの代わりに探すってそれだけならね。
「まずは明日は、彼女の自宅だぞう♪ 楽しみ楽しみ、今日は早く寝よーっと」
私はおばさんと顔を見合わせて、すぐにお互いに視線を外し、焼き豚レシピに花を咲かせた。
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