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私立探偵・修平は朝も早よから出かけたそうだ。登校時、ゴミ集積所で出会ったおばさんは出て行ったのも知らないと言った。
割り出せば六時前にはスタートしていたという事実だ。スゴイ。美女絡みだと情熱が違う。勢いで本当に見つけちゃったりして。
なんて予想は、七時間後には木っ端微塵。下校してきた私は、自室のソファにだらしなく転がり、意気消沈している修平を見ていた。
これを見るに決まっていたのに、朝はバカげた夢を見たもんだ。まだ起きていなかったに違いない。
「捜査難航なんだねぇぇ」
声に楽しそうな感じは出さなかったと思うけど、新聞かぶった修平からは見えないと確信できる顔の方は、思いきり笑ってしまった。くぐもった声が応える。
「黙ってろっての」
「探偵の側に居る人は喋らなきゃいけないんだよ。掟でしょ、掟」
「黙っていなさい、ミス・レモン」
「あ、それ、卵野郎」
「なんてこと言うんだ、偉大なる灰色の脳細胞に向かって」
ふだんはちょび髭野郎呼ばわりなのに、いきなり擁護なのである。くたびれ果てて何もかもが狂ったか。
「はーやく手を引いた方がいいんじゃない? 誰も脅してきたりしないって。手紙は風に飛ばされて海にでも落ちたんだよ。誰にも拾えないとこ。だいたい失くしてから五日も経ってるんだからさ、脅すんだったら始めてるんじゃない? 週末だって挟んでるし。石塚さんにそう言って、口八丁で丸め込んだらいいじゃん」
「八丁は得意だけどなぁ」
「ホンモノの美人には弱いんだよね」
「おまえな」
ばさりと新聞がどかされる。しかし本当のことだけに、何も言葉が出せない様子。
念のために拳の届かない距離まで退いていた私は、そのままお茶汲み目的でカウンターに入った。自業が自得とはいえ、消沈ぶりはちょっと気の毒か? よぉく考えてみよう。私は本当に修平を気の毒だと思えているか?(日頃の仕打ちを考え合わせ)
わからん。
労わっていいのか結論が出せないので、いつものよーにいつもにしてみた。とっておき~ではない、とっておいただけの紅茶はブレンド・イン・軽井沢。
どなたかの夏旅行のお土産の品であったけれど、賞味期限はよろしいか。敢えて確かめずに封を切り、カウンター越しに話しかける。
「入れたはずの手紙がなくなったって言ったって、あきらめるのが自然だと思うけどな。なくなったものはなくなったんだって。実際に脅されたわけじゃ、まさかないんでしょ?」
「ない。しかしな、いつか脅しのネタにされたらとここのところであきらめきれないわけだ。いっそのこと恐喝された方が楽かもな。どこにあるのかわからないモノを探して回るより、人相手に交渉したいじゃないか」
「そこだけ聞くと、納得はできるけど」
「な」
「けど、大前提が全っ然うなずけない。昨日も話したけどさ、だからどうして拾うの。いや落ちてたら人は拾うかもしれないけど、どうして脅されるの。修平、やっぱり内容は聞いてみた方がいいよ。なんかどろどろしたおそろしーものだから、あんなに脅えてるんだと普通はそう考える」
「恐ろしかないだろ。大事な手紙って言ったんだぞ」
「恐ろしくて誰にも秘密だから大事な手紙なんだよ。いいじゃん。成立する。内容かお相手の素性か、どっちかだけでも聞き出した方がいいって、絶対。なんっかおかしいよこの話。修平、はめられてるんじゃない?」
「どこぞのハードボイルドじゃねんだから、はめられるほどの当てはない」
おう。
「そうだったね」
「だろ?」
私がそれを見失ってどうする。修平は探偵ではなく、ただ小説書きなのだった。
無意識のうちに毒されているな、と思うと物悲しい。私のこの先はどうなってゆくのだろう、とか。
作家先生は狭いソファの上で体をくるんと半回転させ、うつぶせの姿勢になると頭を抱えた。
「手紙を取り戻したいんだと思うんだよなぁ」
「それはそうだって言ってることでしょが」
他になんだと言い出すんだ。またくるりんとひっくり返る。
「どこにあるんだろう」
「知ってたらびっくりなんですけど」
だよなぁ、と修平は、それでも期待が裏切られてしまったみたいな顔をした。もしかしてマジどん詰まり? そしてさらにそれを自覚しているということかもしれない。自信過剰の突っ走りタイプの修平にしては、お珍しいことでござったことだ。
「それでこの先はどうするの?」
「探す、を続けるよな。俺は」
「それは誰に確認取ってるわけなのよ」
「俺か?」
「続いてそれも誰相手?」
割り出せば六時前にはスタートしていたという事実だ。スゴイ。美女絡みだと情熱が違う。勢いで本当に見つけちゃったりして。
なんて予想は、七時間後には木っ端微塵。下校してきた私は、自室のソファにだらしなく転がり、意気消沈している修平を見ていた。
これを見るに決まっていたのに、朝はバカげた夢を見たもんだ。まだ起きていなかったに違いない。
「捜査難航なんだねぇぇ」
声に楽しそうな感じは出さなかったと思うけど、新聞かぶった修平からは見えないと確信できる顔の方は、思いきり笑ってしまった。くぐもった声が応える。
「黙ってろっての」
「探偵の側に居る人は喋らなきゃいけないんだよ。掟でしょ、掟」
「黙っていなさい、ミス・レモン」
「あ、それ、卵野郎」
「なんてこと言うんだ、偉大なる灰色の脳細胞に向かって」
ふだんはちょび髭野郎呼ばわりなのに、いきなり擁護なのである。くたびれ果てて何もかもが狂ったか。
「はーやく手を引いた方がいいんじゃない? 誰も脅してきたりしないって。手紙は風に飛ばされて海にでも落ちたんだよ。誰にも拾えないとこ。だいたい失くしてから五日も経ってるんだからさ、脅すんだったら始めてるんじゃない? 週末だって挟んでるし。石塚さんにそう言って、口八丁で丸め込んだらいいじゃん」
「八丁は得意だけどなぁ」
「ホンモノの美人には弱いんだよね」
「おまえな」
ばさりと新聞がどかされる。しかし本当のことだけに、何も言葉が出せない様子。
念のために拳の届かない距離まで退いていた私は、そのままお茶汲み目的でカウンターに入った。自業が自得とはいえ、消沈ぶりはちょっと気の毒か? よぉく考えてみよう。私は本当に修平を気の毒だと思えているか?(日頃の仕打ちを考え合わせ)
わからん。
労わっていいのか結論が出せないので、いつものよーにいつもにしてみた。とっておき~ではない、とっておいただけの紅茶はブレンド・イン・軽井沢。
どなたかの夏旅行のお土産の品であったけれど、賞味期限はよろしいか。敢えて確かめずに封を切り、カウンター越しに話しかける。
「入れたはずの手紙がなくなったって言ったって、あきらめるのが自然だと思うけどな。なくなったものはなくなったんだって。実際に脅されたわけじゃ、まさかないんでしょ?」
「ない。しかしな、いつか脅しのネタにされたらとここのところであきらめきれないわけだ。いっそのこと恐喝された方が楽かもな。どこにあるのかわからないモノを探して回るより、人相手に交渉したいじゃないか」
「そこだけ聞くと、納得はできるけど」
「な」
「けど、大前提が全っ然うなずけない。昨日も話したけどさ、だからどうして拾うの。いや落ちてたら人は拾うかもしれないけど、どうして脅されるの。修平、やっぱり内容は聞いてみた方がいいよ。なんかどろどろしたおそろしーものだから、あんなに脅えてるんだと普通はそう考える」
「恐ろしかないだろ。大事な手紙って言ったんだぞ」
「恐ろしくて誰にも秘密だから大事な手紙なんだよ。いいじゃん。成立する。内容かお相手の素性か、どっちかだけでも聞き出した方がいいって、絶対。なんっかおかしいよこの話。修平、はめられてるんじゃない?」
「どこぞのハードボイルドじゃねんだから、はめられるほどの当てはない」
おう。
「そうだったね」
「だろ?」
私がそれを見失ってどうする。修平は探偵ではなく、ただ小説書きなのだった。
無意識のうちに毒されているな、と思うと物悲しい。私のこの先はどうなってゆくのだろう、とか。
作家先生は狭いソファの上で体をくるんと半回転させ、うつぶせの姿勢になると頭を抱えた。
「手紙を取り戻したいんだと思うんだよなぁ」
「それはそうだって言ってることでしょが」
他になんだと言い出すんだ。またくるりんとひっくり返る。
「どこにあるんだろう」
「知ってたらびっくりなんですけど」
だよなぁ、と修平は、それでも期待が裏切られてしまったみたいな顔をした。もしかしてマジどん詰まり? そしてさらにそれを自覚しているということかもしれない。自信過剰の突っ走りタイプの修平にしては、お珍しいことでござったことだ。
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