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鼓動
友達宣言
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あの事件のあと・・・
蒼音たち三人のことはクラスの中で、良くも悪くも話題になっていた。
三人が崖を転がり落ちた場所、に御神木がそびえていたこと。
先生に助けを求めるため、蒼音が山道を疾風のように駆け抜けたこと。
琴音と山奥に待機する涼介が、近寄ってきた熊を撃退したこと。
五十嵐先生は琴音を軽々背負い、余裕で戻ってきたこと。
・・・・しかし全ての事の発端は、男子二人のつまらぬいさかいが原因であったこと。
男子は双方、両親からも、教頭先生からもこっぴどく叱られたこと。
今回の事件を教訓に、来年からの登山では班ごとに命綱をつけてはどうか・・・
という聞き捨てならぬ噂が浮上していること。
そして琴音の捻挫が全治二週間であること・・・・などなど。
ああでもないこうでもない、と少々飛躍的に味付けされて、三人の冒険劇に想像を掻き立てられていた。
放課後・・・・
三人は教室で刑を執行させられていた。
五十嵐先生に言い渡された、事件に対する罰のことだ。
三人の連帯責任として課せられた刑罰は、教室の窓ガラス拭きだ。
捻挫が完治しない琴音だけは、学級通信の原本を手書きで清書させられていた。
松葉杖を二日間使っただけで、あとは補装具をつけて、挫いた右足をかばいながら学校生活を送っている。
三人は素直に与えられた罰をこなしながら、先日の話しをしていた。
「しかし・・・
園田君のあの日の活躍は誇らしい武勇伝として、末代までこのクラスメイトに語り継がれるんだろうな。
君は英雄だよ。
なにしろ、あの山奥を一人で突っ切たんだよ。
いや本当に、誰でも出来ることじゃないよ。
俺なんて、他のやつらが勝手に面白がって、熊と格闘したことにされてるけど、あれはバカにされてる証拠だから。どんぐり山に熊はいないから。
けれど園田君は本物だよ。
本当の勇者だよ。いや、悔しいけど功労賞は君に譲るよ」
涼介は褒めているのか、はたまた小馬鹿にしているのか・・・?
大げさな身振りで蒼音をねぎらってくれた。
「やめてよそういう言い方。
菅沼君こそ、事件の責任を半分担いでくれてありがとう。
僕の方が二割増で悪いと思っているのに・・・
教頭先生の前で僕をかばってくれてありがとう」
蒼音は素直にお礼が言えた。
「本当にあの日は運がよかったよね。
転がったことは災難だったけど大怪我もしなかったし、あんな山奥の御神木に会えたものね。
それに、御神木の”声“も聞こえたよね。
それも三人一緒に。
不思議だったな」
琴音はいまだに、あの日の感動の余韻に浸っていた。
「そうだよな、俺もびっくりしたよ。
木の精の声なんて。
今まで生きてきてあんなこと初めてだったぞ」
涼介も興奮冷めやらぬ様子だった。
「僕だって驚いたよ。
あの声は茜音にしか聞こえないと思っていたのにな・・・
あっ・・・」
蒼音はつい口を滑らせて、茜音の秘密をばらしかけてしまった。
「ん?茜音って?
なんの話しだ?
誰のことだ?」
茜音の存在を知らない涼介は、蒼音の言葉に即座に食いついた。
「い、いやなんでもないんだ
。別の話しだよ。あの事件とは全く無関係の話しをもちだしちゃった・・・・・
ははは」
「なんだよそれ。
何か怪しいな。
俺に何か隠しているだろう?
とぼけたって無駄だよ園田君。
なんとなく以前から思っていたんだけど・・・
行動が何か怪しいよね」
涼介は蒼音を舐めまわすように、ジロジロ見回した。
「なにも隠してないよ。
ほら」
無実を晴らすため蒼音は持っていた雑巾を置いて、両手をひろげて見せた。
「いいや、何か隠しているな。
うん絶対に隠してる。
男の勘だ。だったら説明しろよ。
本当のところあの日、どうして園田君は迷いもせずに、登山道まで戻ることが出来たんだよ」
「そ、それは、なんとなく覚えていたからだよ」
「そんな言い訳信じられないな~
怪しいことは他にもまだあるぞ。
転校してきてからいつも見てたんだ俺。
園田君はひとり言が多いよな。
時々小声でブツブツ言ってるし、まるで誰かと話しているみたいだぞ。
すげえ怪しくて近寄り難いぞアレ。
それに、この前、なんで給食のプリン持って帰ったんだよ。
俺見てたんだからな。
琴音の分までもらってただろう?」
「うっ・・・そ、それは・・・」
蒼音は完全に追い詰められていた。
完全に押され気味で不利な状況だった。
しかも、涼介はそこまで自分の行動を見張っていたなんて・・・!
その事実も驚愕だった。
「なあ琴音。
琴音もそう思うだろ、怪しいって」
事件のあと、蒼音をかばってくれた涼介だが、それとこれは別!
とでも言わんばかりに彼を追い詰めた。
「え・・・うん。
そうかな~あたしにはよくわからないわ。
園田君が怪しいかどうかなんて。
あの事件は解決したんだし、涼介こそもういいじゃない、そんなこと蒸し返さなくても・・・」
一応ことの次第を知っている琴音は、なんとなく言葉尻を濁した。
「いやそういうわけにはいかないよ。
だって・・・・そうだろ。
俺たち・・・・」
涼介はもごもごと口ごもった。
「俺たち・・・
俺たちあの日から、もう友達だろう!
仲間だろう!」
蒼音たち三人のことはクラスの中で、良くも悪くも話題になっていた。
三人が崖を転がり落ちた場所、に御神木がそびえていたこと。
先生に助けを求めるため、蒼音が山道を疾風のように駆け抜けたこと。
琴音と山奥に待機する涼介が、近寄ってきた熊を撃退したこと。
五十嵐先生は琴音を軽々背負い、余裕で戻ってきたこと。
・・・・しかし全ての事の発端は、男子二人のつまらぬいさかいが原因であったこと。
男子は双方、両親からも、教頭先生からもこっぴどく叱られたこと。
今回の事件を教訓に、来年からの登山では班ごとに命綱をつけてはどうか・・・
という聞き捨てならぬ噂が浮上していること。
そして琴音の捻挫が全治二週間であること・・・・などなど。
ああでもないこうでもない、と少々飛躍的に味付けされて、三人の冒険劇に想像を掻き立てられていた。
放課後・・・・
三人は教室で刑を執行させられていた。
五十嵐先生に言い渡された、事件に対する罰のことだ。
三人の連帯責任として課せられた刑罰は、教室の窓ガラス拭きだ。
捻挫が完治しない琴音だけは、学級通信の原本を手書きで清書させられていた。
松葉杖を二日間使っただけで、あとは補装具をつけて、挫いた右足をかばいながら学校生活を送っている。
三人は素直に与えられた罰をこなしながら、先日の話しをしていた。
「しかし・・・
園田君のあの日の活躍は誇らしい武勇伝として、末代までこのクラスメイトに語り継がれるんだろうな。
君は英雄だよ。
なにしろ、あの山奥を一人で突っ切たんだよ。
いや本当に、誰でも出来ることじゃないよ。
俺なんて、他のやつらが勝手に面白がって、熊と格闘したことにされてるけど、あれはバカにされてる証拠だから。どんぐり山に熊はいないから。
けれど園田君は本物だよ。
本当の勇者だよ。いや、悔しいけど功労賞は君に譲るよ」
涼介は褒めているのか、はたまた小馬鹿にしているのか・・・?
大げさな身振りで蒼音をねぎらってくれた。
「やめてよそういう言い方。
菅沼君こそ、事件の責任を半分担いでくれてありがとう。
僕の方が二割増で悪いと思っているのに・・・
教頭先生の前で僕をかばってくれてありがとう」
蒼音は素直にお礼が言えた。
「本当にあの日は運がよかったよね。
転がったことは災難だったけど大怪我もしなかったし、あんな山奥の御神木に会えたものね。
それに、御神木の”声“も聞こえたよね。
それも三人一緒に。
不思議だったな」
琴音はいまだに、あの日の感動の余韻に浸っていた。
「そうだよな、俺もびっくりしたよ。
木の精の声なんて。
今まで生きてきてあんなこと初めてだったぞ」
涼介も興奮冷めやらぬ様子だった。
「僕だって驚いたよ。
あの声は茜音にしか聞こえないと思っていたのにな・・・
あっ・・・」
蒼音はつい口を滑らせて、茜音の秘密をばらしかけてしまった。
「ん?茜音って?
なんの話しだ?
誰のことだ?」
茜音の存在を知らない涼介は、蒼音の言葉に即座に食いついた。
「い、いやなんでもないんだ
。別の話しだよ。あの事件とは全く無関係の話しをもちだしちゃった・・・・・
ははは」
「なんだよそれ。
何か怪しいな。
俺に何か隠しているだろう?
とぼけたって無駄だよ園田君。
なんとなく以前から思っていたんだけど・・・
行動が何か怪しいよね」
涼介は蒼音を舐めまわすように、ジロジロ見回した。
「なにも隠してないよ。
ほら」
無実を晴らすため蒼音は持っていた雑巾を置いて、両手をひろげて見せた。
「いいや、何か隠しているな。
うん絶対に隠してる。
男の勘だ。だったら説明しろよ。
本当のところあの日、どうして園田君は迷いもせずに、登山道まで戻ることが出来たんだよ」
「そ、それは、なんとなく覚えていたからだよ」
「そんな言い訳信じられないな~
怪しいことは他にもまだあるぞ。
転校してきてからいつも見てたんだ俺。
園田君はひとり言が多いよな。
時々小声でブツブツ言ってるし、まるで誰かと話しているみたいだぞ。
すげえ怪しくて近寄り難いぞアレ。
それに、この前、なんで給食のプリン持って帰ったんだよ。
俺見てたんだからな。
琴音の分までもらってただろう?」
「うっ・・・そ、それは・・・」
蒼音は完全に追い詰められていた。
完全に押され気味で不利な状況だった。
しかも、涼介はそこまで自分の行動を見張っていたなんて・・・!
その事実も驚愕だった。
「なあ琴音。
琴音もそう思うだろ、怪しいって」
事件のあと、蒼音をかばってくれた涼介だが、それとこれは別!
とでも言わんばかりに彼を追い詰めた。
「え・・・うん。
そうかな~あたしにはよくわからないわ。
園田君が怪しいかどうかなんて。
あの事件は解決したんだし、涼介こそもういいじゃない、そんなこと蒸し返さなくても・・・」
一応ことの次第を知っている琴音は、なんとなく言葉尻を濁した。
「いやそういうわけにはいかないよ。
だって・・・・そうだろ。
俺たち・・・・」
涼介はもごもごと口ごもった。
「俺たち・・・
俺たちあの日から、もう友達だろう!
仲間だろう!」
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