異世界で婚活を ~頑張った結果、狼獣人の旦那様を手に入れたけど、なかなか安寧には程遠い~

リコピン

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最終章 望まぬ再会と望んだ未来

4-1

「さて、今日も気合入れて、お肉買いに行きますか。」

月兎つきうさぎ亭の扉を開け、朝の太陽が光差す町の中を歩きだす。時折吹き抜ける風に冷たさが混じり始め、季節はそろそろ秋、私がフォルトに来てから四ヶ月、あの夏祭りの夜から二ヶ月が経とうとしていた―






「クロエちゃん、こっちのクズ肉、良かったら持ってくかい?」

「え?良いんですか?」

「いいよ。いっつもたくさん買ってってくれるからね。おまけだよ。」

「わぁ、ありがとうございます!」

「重いから、気を付けるんだよ!」

「はい!」

いつものコース、お肉屋での買い出しで思いがけず大量のおまけを貰い、気分が上がった。

(あー、でもこのままだと文句言う子がいるからなぁ。…なんとか、塊肉っぽく…)

最近になって漸く、町中まちなかの一人歩きを許してもらえるようになり、商店街への買い出しは専ら私一人が担当するようになった。お店の人達とも顔馴染みになり、時々はこうしておまけまでもらえる仲の人達も出来た。

(何より、一人で出来ることがあると居候感が減って、気持ち的にすごい楽になったよね。)

ボルドやトキさんの付き添い無しの買い出し。トキさんの代わりに店の買い出しも出来るようになってからは、トキさんの出勤時間は多少遅くなり、トキさん本人には「とても助かる」とのお言葉を頂いている。どうやら、つがいさんと一緒に居られる時間が増えて嬉しいらしい。後は、もちろん、こうやって青少年組のランチ作りも続けているから、彼らの胃袋を掴もう作戦も着々と進行中だ。

ただ、一つだけ、大きな問題があるとしたら―

(…ユーグの、ユーグのスキンシップ過剰が止まらない!!)

夏祭りの夜、ユーグにそれまでより深く触れられるようになってから、気づけばそれが標準仕様スタンダード。毎晩、いいように翻弄されて、半分、気絶するようにして眠りにつくこともある。

(なのに、最後まではしないし、何故か、キスもされないけど…)

多分、それが、匂いづけマーキングの延長、…もしくは、ユーグ的には匂いづけの範囲内なんだろうとはわかっていても、こちらはバリバリに意識してしまうし、何ならもう、本当、ムラムラして仕方ない―

(って駄目!こんな大通りのど真ん中で真っ昼間から思い出しちゃ駄目!)

ピンクがかってきた思考を慌てて脳内から追い出し、歩く速度を速める。そうして無心で身体を動かせば、徐々にクリアな思考は戻ってきたけれど。

(…失敗。やっぱり、ちょっと重い。)

抱える荷物、欲張って―遠慮なんて一切せずに―くれるという量のお肉を全て頂いてきたから、地味に掌が痛い。

「ちょっと、休憩…」

通りの端っこ、人の流れを邪魔しない場所に引っ込んで、荷物の袋を足元に下ろす。荷物が食い込んでいた手をフルフルと払って、通りを行きかう人をぼんやりと眺めた。

(もう、女の人の装いが秋だぁ。私もそろそろ、秋服買わないと…)

そうやって、なんとなく眺めていた人の流れ、目に入った人の姿に、瞠目する。

「え…?」

思わず漏れた声、聞こえたわけでなはいだろうけれど、こちらの凝視する視線に気が付いたのか、男がこちらを振り向いた。

「!」

「!」

互いに認識し合って、やはり思った通りの人物だったことに驚愕する。

「クロエ!?」

騎士服を来た男が、巡回中であったのだろう仲間たちに何かを告げると、こちらへと走り寄って来た。その姿に、懐かしさと同時、どことなく居心地の悪さを感じている内に、男が目の前に迫り、

「クロエ!やっぱり!お前、こんなとこで何やってんだ!?」

「…久しぶり、ホルス。」

見上げる長身、ユーグより背は低いが体格はいい。王立騎士団の制服を身にまとい。腰には装飾の施された剣が下げられている。

(…へぇー、一応、本当に騎士様なんだ。)

二度と会うこともないだろうと思っていた元婚約者の、戦う騎士然とした姿は初めて目にするもの。王都に出ていって以来、一度も帰ってくることのなかったホルスに会うのは五年ぶり、だろうか。

(まぁ、別にまた会いたかったか?って聞かれると微妙なとこだけど。)

そんな、若干、薄情なことを考えていた私に対して、ホルスが少し困ったような顔をする。

「…クロエ、お前、まさか、俺を追いかけてこんなとこまで来ちまったのか?」

「…は?」

(ちょっと、何を言われたのかわからない…)

いや、聞こえていたのは聞こえていた。ただ、一応は幼馴染、産まれた時からの付き合いである男が、再会早々、こんな勘違いした台詞を吐くような男だったとは―

「親父に聞いたのか?俺がここに赴任になったって?…だからってお前、態々、」

「聞いてないよ。聞くわけないでしょ。別に、ホルスを追いかけてここに居るわけないじゃない。」

「…」

全否定すれば、目の前の男が鼻白んだ。

「…だったら、何でお前がこんな、…掃き溜めみたいな場所に…」

「…」

言葉の最後、吐き捨てるように言われた一言に、知らず、眉間に皺が寄る。

「…結婚したの。」

「…は?」

「だから、結婚して、この町に来たの。」

「結婚って…。お前、嘘つくにしても、もう少し、マシな、」

「嘘じゃない。こんなことで嘘つく意味なんて無いでしょう?」

「…仮に、結婚が本当だとしても、こんな町に住んでるような男なんて、ろくな奴じゃないだろう?」

「どういう意味よ?」

今度こそ、聞き捨てならない言葉に、頭に血が上る。

「何だよ、だって、そうだろうが。こんな、魔の森しかないような辺境。犯罪者みたいな奴らがうろうろしてるようなとこだぞ?こんなとこに居る奴らなんか、底辺も底辺じゃないか。」

「っ!最っ低!あんたこそ、最っ低!」

「!っあ、おい!クロエ!」

「二度と私の前に現れないで!」

言い捨てて、荷物を引っ掴んで歩き出す。腹が立って仕方なかった―

この町がちょっと他と違うのは百も承知だ。私だって、この町の第一印象は最悪。こんなところでやっていけるのかと不安でたまらなかったくらい。でも、そんな自分のことは棚上げしても、ユーグやくろがねの牙のみんな、町の人達も、全部まとめて否定するホルスが許せなかった。

「待てよ!クロエ!」

「…離して。」

追いつかれ、掴まれた腕に立ち止まる。振り返って告げた拒絶の言葉は、無視された。

「何をそんな急に怒り出してんだよ?お前、昔はもっと、」

「言ったよね?私、結婚してこの町にいるの。夫は当然この町の人なの。それを馬鹿にされて、何で怒らないと思うわけ?」

「…それ、本当は嘘じゃないのか?」

「はぁ?」

「いや。俺に捨てられて、お前、むきになってるとか、」

「離して!」

思いっきり振り払った腕、だけど、男の力でしっかりと掴まれてしまっている腕は簡単には自由にならない。

「…クロエ、俺さ、これでも反省してんだよ。だからさ、また前みたいに仲良く、」

「ほんっと、最っ低!!」

叫んだと同時、ホルスの身体が後ろに吹っ飛んだ。

(えっ!?)

まさか、また指輪の付与魔法が発動したのかと、一瞬、血の気が引いたが―

「ねぇ、本当、何してんの、あんた。…団長の女だって自覚ちゃんとある?」

「ルナール…」

「んで?こいつ、何?お前に手ぇ出したわけ?なら、ここでっちまうけど。」

「!?ガット!駄目!」

屈み込み、倒れたホルスの首筋に大ぶりのナイフを押し当てるガットを焦って止める。

「違うから!昔の知り合い!同じ村の人なの!」

「あ?」

「そのと、あんた、何してたわけ?」

「何もしてないよ!さっき偶然会って、話をしてただけで!」

「腕、ひっ掴まれて?」

「っ!?」

ガットにナイフを首筋に当てられたまま、青ざめた顔でこちらを見るホルスと視線が合う。

「…それは、ちょっと行き違いがあったから。…でも、もう、大丈夫というか。話も終わったし…」

「…」

とにかく、最低発言野郎だとしても、流石に友人の家族でもあるホルスをここでやられてしまうのは困る。その必死さが伝わったのか、ルナールがため息をついた。

「…まぁ、あんたがそう言うなら。」

「チッ!しゃーねぇなぁ。」

立ち上がり、ヒュンと一振りでナイフを消したガットが、睨むようにホルスを見下ろしてから、こちらを向いた。

「…帰んぞ。」

「うん…」

歩き出したガット。一度だけホルスを振り返ってから、先を行くガットの後を追う。横に並んだルナールが、手に持っていた荷物を横から奪うようにして持ってくれた。礼を言えば、首を振られて、

「別に。…で?あんたの何なの?あの男。」

「何って…」

知り合いなんかじゃないでしょ?そんなの見ればわかるんだから、さっさと吐きなよ。」

ルナールの追求に、何とも落ち着きの悪いその単語を口にした。

「…元、婚約者、だった人。」

「はぁあっ!?あんた、そんな男と会ってたわけ?」

「会ってたんじゃなくて、本当に、買い物帰りに偶然会っただけなんだってば。」

訝しむルナールの視線にむきになって答えれば、逡巡したルナールが不機嫌そうに聞いてくる。

「…団長は?知ってんの?」

「婚約者がいたことは知ってる。…けど、この町に居るってことは知らない、というか、私もさっき会ったばかりだから…」

まだ、知らせるも何もない、という状況。それをそのまま伝えたところで、ルナールも漸く納得してくれたらしい。嘆息して、忠告をくれた。

「…団長とトキさんにはちゃんと、伝えときなよ?」

「うん。」

「あと、あんたは、あんまりフラフラしないでよね。」

「…わかった。」

フラフラしているつもりはないのだけれど、それがルナールなりの心配から来る言葉なのだと思うから、素直に頷いた。





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