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ダンジョン調査 ▶29話
#20 ごめんなさい、私は…
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「…何で避けてた?」
「…」
ルキが、怖い─
兄の点した光が遠い。暗闇に近い空間で、壁を背にルキのギラついた視線を受ける。逸らすことを許さない強い眼差しに、逃げ出したくてたまらない。だけど、ルキのこの怒りは当然のもの、私の無神経が招いた結果。ルキを、傷つけた─
だから、
「…匂うのが、嫌だったんです。」
ちゃんと、口にする。最初から、そうするべきだった─
「…匂い?なに?」
「ずっと、入浴も出来なかったので、身体が匂うのが嫌でした。…だから、ルキにも近づけなくて…」
「…ちょっと待て。」
ルキの視線が、一瞬外れる。逡巡した後、戻って来た視線。
「…嘘でも、冗談でもねぇんだな?」
「はい…」
「…はぁ?んだよ、ソレ。そんなくだんねぇことで…?」
「…」
「マジかよ、クソッ。…んなもん、気にするようなもんじゃねぇだろ?」
「気にします…」
「なんで、そんな…」
だって、私はあなたが好きだから─
その一言は言えなくて、だから、代わりにもう一つの理由を口にする。
「私は、女です。」
「…」
ただ、ルキの怒りに触れているのが怖くて、逃げ出したくて口にしてしまった。
「………は?」
「っ!」
口にして、直ぐに後悔した。タイミングは最悪。ルキを、余計に怒らせたかもしれない。嫌われるかも。だから、必死に言葉を重ねる。許して欲しくて─
「…今まで黙っていてごめんなさい。私は、これでも女なんです。だから、匂いも、気になってしまいました。」
「…」
「ずっと黙っていて…、騙していて、本当にごめんなさい。」
「…」
下げた頭、ルキの返事が無いことが怖くてたまらない。その表情を確かめたくて上げた視界、映ったルキが、今まで見たことがないくらいの怖い顔で─
「言えよっ!?」
「っ!?」
「そういうことは、もっと早く言えっ!?」
ルキの怒鳴り声。初めて向けられた。怖くて、身がすくむ─
駄目だ、怒らせた、絶対、嫌われた。
(無理、絶対、無理…)
怖くて、卑怯にも逃げ出そうとしたけれど、
「あー!もう!クッソ!」
「っ!?」
ルキに、強い力で抱き締められて─
(なに?どうして…、どういう…?)
「ってことは、アレだな?セリの好きな奴ってのは俺だな!?俺の方だな!?」
「っ!?!?!?」
「セリは俺が好きなんだなっ!?」
「っ!?」
(え!?え!?え!?)
「クッソ、マジかよー…」
抱きしめられたまま、頭の上に振って来たルキの声。それが、いつものルキの声だったことに、少しだけ安心して。
「…あの、ルキ。好きって、どういう…?」
「試験で王都行った時、エルと話してただろ?俺とザーラ、どっちが好きなのかって聞かれて、セリ、自分は異性愛者だって答えたよな?」
「っ!?」
覚えてる。兄とザーラさんの前でなんてこと言うんだと思ったから。
「はぁー、そっか、マジかー。セリ、俺が好きなのかー…」
「…」
しみじみと言われてしまうと、先ほどまでの恐怖が嘘のように消えて、代わりに居たたまれないくらいの恥ずかしさに襲われた。
ここで否定することもできる。直接、ルキを好きだと言ったわけではないから。誤解だ、勘違いだと言うことも。だけど、ルキの抱き締めてくる腕の強さに、期待してしまっている。
溢れる想いを、口にせずにはいられなくなってしまう─
「…私は、ルキが好き、です。」
「っ!?」
「…ルキ?」
「あーっ!クッソ!このタイミングはヤバいだろ!?セリ!おまえ!あんま煽んな!」
(煽る…?)
そうか、ルキは、私のこんな拙い言葉でも煽られてくれるのか─
嬉しくて、沸々と込み上げてくる喜びに、目の奥が熱くなる。
「…あーもう、ほんと、人が色んな欲求諸々我慢してんのに…」
ルキの腕の力が強くなった。
(ルキこそ…)
ルキの方こそ、人の心臓をこんなに苦しくしないで欲しい。
苦しさのまま、ルキの身体に手をまわしてみた。回した手で、ルキの背中を掴む。
「っ!?」
ルキの身体が一度だけ揺れて、固まった。
「ルキ…?」
「…帰るか。」
「え…?」
ほどかれたルキの腕、少し開いた二人の間。見下ろしてくるルキの瞳を見上げれば、
「よし、帰ろう。出んぞ、こんなとこ。帰ってどっか、二人になれるとこ、」
「待って、待って下さい、ルキ。」
突然のルキの宣言を、慌てて止める。
「もうすぐ最下層です、まだ帰れません。」
「…帰れねぇ、か?やっぱ。」
「はい。」
「…」
「…」
(…そんな目で見られても、どう考えても帰るのは無理だと思う。)
こちらの思いが伝わったのか、ルキが深い深いため息をついた。それから、腰に回された腕、身体ごと引き寄せられる。
「仕方ねぇかー。」
「…」
ルキの居る右隣、ルキの温かさと、ちょっとだけ、重みが加わって、
「…取り敢えず、戻るか、二人んとこ。すぐ戻るっつったし、まぁ、心配させてっだろーしな。」
「…はい。」
言われて、歩き出す。ルキと二人。今までで、一番近い距離で。
「…」
ルキが、怖い─
兄の点した光が遠い。暗闇に近い空間で、壁を背にルキのギラついた視線を受ける。逸らすことを許さない強い眼差しに、逃げ出したくてたまらない。だけど、ルキのこの怒りは当然のもの、私の無神経が招いた結果。ルキを、傷つけた─
だから、
「…匂うのが、嫌だったんです。」
ちゃんと、口にする。最初から、そうするべきだった─
「…匂い?なに?」
「ずっと、入浴も出来なかったので、身体が匂うのが嫌でした。…だから、ルキにも近づけなくて…」
「…ちょっと待て。」
ルキの視線が、一瞬外れる。逡巡した後、戻って来た視線。
「…嘘でも、冗談でもねぇんだな?」
「はい…」
「…はぁ?んだよ、ソレ。そんなくだんねぇことで…?」
「…」
「マジかよ、クソッ。…んなもん、気にするようなもんじゃねぇだろ?」
「気にします…」
「なんで、そんな…」
だって、私はあなたが好きだから─
その一言は言えなくて、だから、代わりにもう一つの理由を口にする。
「私は、女です。」
「…」
ただ、ルキの怒りに触れているのが怖くて、逃げ出したくて口にしてしまった。
「………は?」
「っ!」
口にして、直ぐに後悔した。タイミングは最悪。ルキを、余計に怒らせたかもしれない。嫌われるかも。だから、必死に言葉を重ねる。許して欲しくて─
「…今まで黙っていてごめんなさい。私は、これでも女なんです。だから、匂いも、気になってしまいました。」
「…」
「ずっと黙っていて…、騙していて、本当にごめんなさい。」
「…」
下げた頭、ルキの返事が無いことが怖くてたまらない。その表情を確かめたくて上げた視界、映ったルキが、今まで見たことがないくらいの怖い顔で─
「言えよっ!?」
「っ!?」
「そういうことは、もっと早く言えっ!?」
ルキの怒鳴り声。初めて向けられた。怖くて、身がすくむ─
駄目だ、怒らせた、絶対、嫌われた。
(無理、絶対、無理…)
怖くて、卑怯にも逃げ出そうとしたけれど、
「あー!もう!クッソ!」
「っ!?」
ルキに、強い力で抱き締められて─
(なに?どうして…、どういう…?)
「ってことは、アレだな?セリの好きな奴ってのは俺だな!?俺の方だな!?」
「っ!?!?!?」
「セリは俺が好きなんだなっ!?」
「っ!?」
(え!?え!?え!?)
「クッソ、マジかよー…」
抱きしめられたまま、頭の上に振って来たルキの声。それが、いつものルキの声だったことに、少しだけ安心して。
「…あの、ルキ。好きって、どういう…?」
「試験で王都行った時、エルと話してただろ?俺とザーラ、どっちが好きなのかって聞かれて、セリ、自分は異性愛者だって答えたよな?」
「っ!?」
覚えてる。兄とザーラさんの前でなんてこと言うんだと思ったから。
「はぁー、そっか、マジかー。セリ、俺が好きなのかー…」
「…」
しみじみと言われてしまうと、先ほどまでの恐怖が嘘のように消えて、代わりに居たたまれないくらいの恥ずかしさに襲われた。
ここで否定することもできる。直接、ルキを好きだと言ったわけではないから。誤解だ、勘違いだと言うことも。だけど、ルキの抱き締めてくる腕の強さに、期待してしまっている。
溢れる想いを、口にせずにはいられなくなってしまう─
「…私は、ルキが好き、です。」
「っ!?」
「…ルキ?」
「あーっ!クッソ!このタイミングはヤバいだろ!?セリ!おまえ!あんま煽んな!」
(煽る…?)
そうか、ルキは、私のこんな拙い言葉でも煽られてくれるのか─
嬉しくて、沸々と込み上げてくる喜びに、目の奥が熱くなる。
「…あーもう、ほんと、人が色んな欲求諸々我慢してんのに…」
ルキの腕の力が強くなった。
(ルキこそ…)
ルキの方こそ、人の心臓をこんなに苦しくしないで欲しい。
苦しさのまま、ルキの身体に手をまわしてみた。回した手で、ルキの背中を掴む。
「っ!?」
ルキの身体が一度だけ揺れて、固まった。
「ルキ…?」
「…帰るか。」
「え…?」
ほどかれたルキの腕、少し開いた二人の間。見下ろしてくるルキの瞳を見上げれば、
「よし、帰ろう。出んぞ、こんなとこ。帰ってどっか、二人になれるとこ、」
「待って、待って下さい、ルキ。」
突然のルキの宣言を、慌てて止める。
「もうすぐ最下層です、まだ帰れません。」
「…帰れねぇ、か?やっぱ。」
「はい。」
「…」
「…」
(…そんな目で見られても、どう考えても帰るのは無理だと思う。)
こちらの思いが伝わったのか、ルキが深い深いため息をついた。それから、腰に回された腕、身体ごと引き寄せられる。
「仕方ねぇかー。」
「…」
ルキの居る右隣、ルキの温かさと、ちょっとだけ、重みが加わって、
「…取り敢えず、戻るか、二人んとこ。すぐ戻るっつったし、まぁ、心配させてっだろーしな。」
「…はい。」
言われて、歩き出す。ルキと二人。今までで、一番近い距離で。
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