【男装歴10年】異世界で冒険者パーティやってみた【好きな人がいます】

リコピン

文字の大きさ
124 / 174
【サプライズ】好きな人の誕生日に全力でプレゼントを用意しました ▶10話

#4 たくさん、兄のことを

しおりを挟む
「セリ君も大変ねぇ…」

「…ご迷惑を、おかけしてます。」

結局、ロカールを出る直前にもまた兄とルキの横やりが入り─曰く、男の比率が高いだの、護衛が頼りないだの、俺が護衛としてついていくだの─、結局、ロカールを出たのが午後の便になってしまった。

ボッツに着いたのが夕方、鑑定士への持ち込みは明日ということで、宿を取り、夕食を終えて、漸く一息。それぞれのベッドの上で、ザーラさんとパジャマパーティもどきを開催している。

「…兄一人の時は、あそこまで酷くはなかったんです。ルキと二人で心配する内に、エスカレートしてしまうようで。…いつもなら、エルが止めてくれるんですけど。」

「ふふ。…何だか、目に浮かぶわ。」

笑ってくれるザーラさんに、気持ち分、姿勢を正す。緊張に、小さく息を吐いて、

「あの、ザーラさん、実は、その、打ち明け話が、一つ、あるんです。…聞いてもらえますか?」

「あら?私に?いいの?」

「はい。…あの、ザーラさんだから聞いて欲しいといいますか…」

「…分かったわ、心して聞くわね?」

ザーラさんまで姿勢を正してくれた。受け入れてくれようとするその姿勢に、少しだけ緊張が解ける。

そのまま、ザーラさんに打ち明けた。兄と自分のこと。異世界の記憶を持って生まれ変わったこと、師に弟子入り出来たのはその前世の知識があったからで、ザーラさんも見たあの銃は兄の前世の記憶を元に造られていることも─

「…不思議な話ね。前世…」

「はい。…ただ、あの、これは一方的に、私がザーラさんに私達のことを知って欲しくて打ち明けただけなので、その…」

「…」

「…ザーラさんが信じられないのは最もだと思うんです。だから、えっと、信じてもらえなくても…、あ、勿論、信じてもらえれば嬉しいですけど、」

「…信じるわ。」

「…」

ザーラさんが笑ってる。いつもの、私の好きな笑顔で。

「セリ君の言葉だから、信じる。」

「…ザーラさん。」

「それに、すごく納得できちゃったの。セリ君の前世の話。だからかぁって…」

「納得ですか?」

「そう。人嫌いで知られるヴァイス導師が弟子を取るなんて、初めてセリ君達から導師の名前聞いた時は、凄く驚いたもの。」

「…そう、なんですね。」

「それに、シオン君も。…たまに、年齢以上にしっかりしてるから、前世があるって言われて、違和感が無いくらい。」

「兄が?…しっかりしてますか?」

「ええ。…セリ君に関わることに関しては、特に。」

「?」

そうだろうか?と考えてみるけれど、私の脳内の兄はいつも呑気に笑っている。

(…それだけが、兄さんの顔じゃないのは知っているけど。)

それでも、兄はいつも、私の前で笑っている─

「…兄は、前世では二十三だったんです。」

「…若かったのね…?セリ君は?」

「十八、でした。」

「そう…」

ザーラさんの顔がくもる。

(こういうところ、ルキとザーラさんは似てる…)

そんなザーラさんだから、知って欲しいと思ってしまう。私のこともだけれど、それ以上に─

「…前世での十八歳は、まだ、半分くらいは子ども扱いで、仕事をせずに進学する人も半分くらいはいるような世界だったんです。…私も、進学する予定でした。」

「…」

「けど、兄は、進学せずに十八から働いてたんです。…だからかもしれません。兄が落ち着いてるっていうのは。…兄は、私よりずっと苦労、…努力、してましたから。」

「…セリ君は、シオン君が自慢なのね?」

「はい、とても…」

家計の負担にならないよう、塾にも通わず公立の進学校へ通っていた兄。地元の国立大学への進学だって確実だって言われていた。でも、

「…うちは、父親が居なくて、母一人で私達を養ってくれてたんです。…兄は、その負担を軽くしたかったみたいで、それで、自分は進学をせずに、私を進学させてくれようとして…」

「…」

「私、全然、知らなかったんです。兄が進学しないって言った時も、『お兄ちゃん、またいい加減なこと言ってる』くらいの気持ちで…」

知ってたはずなのに。兄が、機械いじりも、プログラムを組むことも、大好きだったこと─

「…私が進学を決めた時に、母が教えてくれました。…兄が、母に『母さん大変だから』って言って、進学しなかったこと。」

兄が、本当は、機械工学をやりたいと思っていたこと、飛行機を飛ばしたいと思っていたことも─

「…なのに、私の時は、『俺が行かせてやるから』って、学費、全部出してくれようとして…」

結局、私が大学に進学することはなかったけれど─

「…それまで、年も離れてたから、兄に本気で怒られたことって無かったんです。でも、その進学の話の時だけ、私、兄を本気で怒らせてしまいました。」

「…」

「『お兄ちゃんを犠牲にしてまで進学したくない』って。そしたらもう、兄が、それまで見たこと無いくらい本気で激怒して…」

今なら、その一言がどれほど無神経だったかが分かるけれど、当時の私は、自分の青臭い正義感を振りかざしてしまった─

「『俺の人生を犠牲なんて言うな』、『俺を憐れむな』って…」

「…」

「…私は、二度と兄にあんな顔させたくありません。だから、私は、兄にたくさん感謝はしていても、『犠牲にしてる』って思うことはしないんです。兄が、今度の人生で、また私のために頑張っていても、私はただ、ありがとうって…」

「…」

「でも…、だけど、兄には、今度こそ、…今度の人生では、好きなことをやりたいだけやって、もっとずっと、笑ってて欲しいって思ってるんです。私のことばっかりじゃなくて、兄にはもっと、自分のことを、いっぱい、…」

「セリ君…」

ザーラさんに名前を呼ばれる。ベッドを移動してきたザーラさんに、座ったまま並んで、肩を抱き締められた。思い出して、少し辛い過去ごと─

「…セリ君、…ねぇ?セリ君のこと、これから、セリちゃんって呼んでもいい?」

「…はい。」

「ありがとう。…あのね?セリちゃんとシオン君、凄く仲のいい兄妹なんだなって思った。…大切に思われてるセリちゃんが羨ましくなるくらい。」

「…」

「私は兄弟がいないから、余計にかしら?」

「私は…」

私は、知って欲しいと思った。私だけが知っている兄の強さと優しさを。

もう誰も、兄を守ってくれる人のいないこの世界で、母に似ている、この優しい女性ひとに─

「…ごめんなさい、ザーラさん。」

「あら?どうして謝るの?」

「…私、凄く、ザーラさんに甘えてます。」

「ほんと?…じゃあ、光栄ね?私、セリちゃんに甘えられて嬉しいもの。」

「…甘やかされてます。」

「ふふ。」

ザーラさんが笑う。

(やっぱり、いいな、ザーラさん。…もし、ザーラさんが…)

それが、私のエゴだということは分かっている。だから、口にはしない。

ただ、小さな子どもが星や笹に願いを託すように、願ってしまうことだけはやめられない。

もしも、この女性ひとが、これから先、兄の隣に居てくれたら─




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分

かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。 前世の分も幸せに暮らします! 平成30年3月26日完結しました。 番外編、書くかもです。 5月9日、番外編追加しました。 小説家になろう様でも公開してます。 エブリスタ様でも公開してます。

[完結]前世引きこもりの私が異世界転生して異世界で新しく人生やり直します

mikadozero
ファンタジー
私は、鈴木凛21歳。自分で言うのはなんだが可愛い名前をしている。だがこんなに可愛い名前をしていても現実は甘くなかった。 中高と私はクラスの隅で一人ぼっちで生きてきた。だから、コミュニケーション家族以外とは話せない。 私は社会では生きていけないほどダメ人間になっていた。 そんな私はもう人生が嫌だと思い…私は命を絶った。 自分はこんな世界で良かったのだろうかと少し後悔したが遅かった。次に目が覚めた時は暗闇の世界だった。私は死後の世界かと思ったが違かった。 目の前に女神が現れて言う。 「あなたは命を絶ってしまった。まだ若いもう一度チャンスを与えましょう」 そう言われて私は首を傾げる。 「神様…私もう一回人生やり直してもまた同じですよ?」 そう言うが神は聞く耳を持たない。私は神に対して呆れた。 神は書類を提示させてきて言う。 「これに書いてくれ」と言われて私は書く。 「鈴木凛」と署名する。そして、神は書いた紙を見て言う。 「鈴木凛…次の名前はソフィとかどう?」 私は頷くと神は笑顔で言う。 「次の人生頑張ってください」とそう言われて私の視界は白い世界に包まれた。 ーーーーーーーーー 毎話1500文字程度目安に書きます。 たまに2000文字が出るかもです。

ペットたちと一緒に異世界へ転生!?魔法を覚えて、皆とのんびり過ごしたい。

千晶もーこ
ファンタジー
疲労で亡くなってしまった和菓。 気付いたら、異世界に転生していた。 なんと、そこには前世で飼っていた犬、猫、インコもいた!? 物語のような魔法も覚えたいけど、一番は皆で楽しくのんびり過ごすのが目標です! ※この話は小説家になろう様へも掲載しています

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

追放令嬢、辺境王国で無双して王宮を揺るがす

遊鷹太
ファンタジー
王国随一の名門ハーランド公爵家の令嬢エリシアは、第一王子の婚約者でありながら、王宮の陰謀により突然追放される。濡れ衣を着せられ、全てを奪われた彼女は極寒の辺境国家ノルディアへと流される。しかしエリシアには秘密があった――前世の記憶と現代日本の経営知識を持つ転生者だったのだ。荒廃した辺境で、彼女は持ち前の戦略眼と人心掌握術で奇跡の復興を成し遂げる。やがて彼女の手腕は王国全土を震撼させ、自らを追放した者たちに復讐の刃を向ける。だが辺境王ルシアンとの運命的な出会いが、彼女の心に新たな感情を芽生えさせていく。これは、理不尽に奪われた女性が、知略と情熱で世界を変える物語――。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

【完結】憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

処理中です...