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【緊張】好きな人の帰省についていったら…/実家ご挨拶/地元の友人/豊漁祭/ ▶17話
#7 相変わらずな彼女の急襲とジャガイモとドレス
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豊漁祭当日、夜の準備のお手伝いをするためにルキの実家を訪れた。ルキ達男性陣は、お祭りの象徴になる櫓を組むために町へ下りていき、私は女性陣のお料理を手伝うことになった。兄は砂像大会の大会委員長として朝から出かけている。
大量に用意されたジャガイモの皮をひたすら剥く作業、お祭り用のツェペという揚げイモ料理の下準備を黙々とこなす。途中、お姉さんが若奥様の会合に呼ばれて行き、お母さんが「ちょっと、お願いね」と席を離れた時間、ルキの生まれ育った家にひとり居るという不思議な感覚に浸っていると─
「こんにちはー!」
「…」
ノックも何もなく、突然、静寂を破って開かれた玄関の扉、驚きに身体が跳ねた。振り向けば、こちらに驚愕の眼差しを向ける女性、ミランダの姿─
「…えーっと、セリ君が来てるって聞いて、…あなた、ひょっとして、セリ君…?」
「はい…」
「…カッシュに、セリ君が女だったって聞いたんだけど…」
「…」
「…本当、だったんだ。」
「…はい。」
何とも言えない雰囲気、沈黙の落ちる部屋で、手元の作業を再開させる。玄関で少し躊躇う様子を見せたミランダは、結局、家の中へと入って来た。そのまま、作業をしていた食卓までやってきて、テーブルの端に片手をつく。
「…セリ君、…セリちゃんってさー、ルキと結婚、するんだって?」
「…まだ、具体的な話ではないですけど、いずれはと考えています。」
「フーン…」
そう言ったっきり、こちらをじっと観察する視線は感じるものの、何も言わないミランダ。やがて、口を開いたかと思うと、
「…なんか、セリちゃんの皮むきって、すっごい丁寧っていうか…、ちょっと時間掛けすぎなんじゃない?それじゃ、いつまでたっても終わんないよ?」
「…」
「…なんか、見ててアレっていうか、日が暮れそう。ナイフ貸して。」
言って、無遠慮に突き出された手に、首を振る。
「…これは、私が頼んでさせてもらってるので、貸せません。」
「はぁ?何それ…」
不機嫌にそう溢したミランダは、勝手に台所へと侵入し、同じようなナイフを手にして戻ってくる。向かいの席に座り込み、ジャガイモの山から一つを取って皮をむき始めた。
「これ、ツェペ用でしょ?懐かしい―。」
「…」
「子どもの頃からルキ達と一緒によく皮むきさせられてさー、でも、男連中は直ぐに飽きて、ルキとカッシュ先頭に、どっか遊びに行っちゃうんだよね。で、結局、残った女の子でやらされることになって。」
「…」
「ああ、でも、アタシは大抵、男連中に混ざって遊びに行っちゃってたんだけどね?そっちの方が向いてたっていうか、楽しかったからなー。ほんと、懐かしー。」
ミランダの話に適当に相槌を打つ。これが、ルキ本人やお母さん達から聞かされる話なら、私も素直に「子どもの頃のルキ、見たかったなー」って思えるのに。
「…セリちゃんってさー、なんか、繊細って感じだよね?そんなんで大丈夫?やってけんの?」
「え…?」
「だって、相手があのルキでしょ?あいつ、乱暴だし、口は悪いし、なんていうか、女心、全然分かってないっていうか…」
「…」
最後の一文には、若干、同意してしまったけれど、
「…ルキは、乱暴ではないですし、口も、…たまにしか悪くありません。」
「…」
「それに、私はそんなルキが好きなので、問題ないです。」
「っ!はっ、何それ…」
ミランダが、笑い損なった顔で何かを言おうとしたタイミングで、手に荷物を抱えたお母さんが戻って来た。
「ありがとう、セリちゃん。ルキってば、セリちゃんにそこまで言ってもらえるような子じゃないんだけど、嬉しいわー。ルキをよろしくねー。」
「はい…」
「っ!」
荷物を部屋の隅に置いたお母さんが、剥き終わったジャガイモの入ったボールを抱える。それを台所に運ぼうとしたところで、ミランダが立ち上がった。
「アディさん!アタシ、手伝う!」
「え?でも、」
「毎年やってることだから、大丈夫!任せて!」
「んー、でも、お鍋一個しかないのよね。手伝ってもらうほどのことは、」
「遠慮しないでよー!」
「…じゃあ、お願いしようかしら?」
「任せて!」
台所へ向かったミランダが、一瞬、振り返る。その顔が不敵に笑って─
(えー…?)
「フフン!」をされてしまった。今のは、感じが悪い。苛立ちを目の前のジャガイモの皮に向けることで昇華しようとしていたら、
「セリちゃん、セリちゃん。」
「?はい?」
台所から戻ってきたお母さんに呼ばれた。お母さんの手には先ほどの荷物が広げられていて、中から綺麗な花柄がのぞいている。
「これね?私が若い頃のものなんだけど、結局、一、二度しか着たことがなくて。それで、捨てられずにとってたものなんだけど。…セリちゃん、良かったら、今日のお祭り、これ着て行かない?」
「!」
お母さんの提案に、花柄の布地を改めて見る。大きな赤いビスクスの花があしらわれたサンドレス。
「昨日の内にね、丈を詰めてみたんだけど、後は、肩紐の調節と、ウエストを絞めれば、何とかなると思うのよね?」
「…ありがとう、ございます。」
なんだろう、照れくさい。だけど、凄く嬉しい。前世以来の感覚、こんな風に、「母親」から譲り受けた服を身体に当てられて、「これくらい?」って私のために調整される。
(子どもの頃に、浴衣、縫ってもらった時みたいな…)
「…うん、大丈夫、出来そうね。じゃあ、セリちゃん、一度、着てみてくれる?」
アディさんの言葉に頷いて、隣室で着替えを済ませる。戻ったところで、アディさんの大絶賛を受けて、また恥ずかしくなってしまったけれど。台所に、既にミランダの姿はなかった─
大量に用意されたジャガイモの皮をひたすら剥く作業、お祭り用のツェペという揚げイモ料理の下準備を黙々とこなす。途中、お姉さんが若奥様の会合に呼ばれて行き、お母さんが「ちょっと、お願いね」と席を離れた時間、ルキの生まれ育った家にひとり居るという不思議な感覚に浸っていると─
「こんにちはー!」
「…」
ノックも何もなく、突然、静寂を破って開かれた玄関の扉、驚きに身体が跳ねた。振り向けば、こちらに驚愕の眼差しを向ける女性、ミランダの姿─
「…えーっと、セリ君が来てるって聞いて、…あなた、ひょっとして、セリ君…?」
「はい…」
「…カッシュに、セリ君が女だったって聞いたんだけど…」
「…」
「…本当、だったんだ。」
「…はい。」
何とも言えない雰囲気、沈黙の落ちる部屋で、手元の作業を再開させる。玄関で少し躊躇う様子を見せたミランダは、結局、家の中へと入って来た。そのまま、作業をしていた食卓までやってきて、テーブルの端に片手をつく。
「…セリ君、…セリちゃんってさー、ルキと結婚、するんだって?」
「…まだ、具体的な話ではないですけど、いずれはと考えています。」
「フーン…」
そう言ったっきり、こちらをじっと観察する視線は感じるものの、何も言わないミランダ。やがて、口を開いたかと思うと、
「…なんか、セリちゃんの皮むきって、すっごい丁寧っていうか…、ちょっと時間掛けすぎなんじゃない?それじゃ、いつまでたっても終わんないよ?」
「…」
「…なんか、見ててアレっていうか、日が暮れそう。ナイフ貸して。」
言って、無遠慮に突き出された手に、首を振る。
「…これは、私が頼んでさせてもらってるので、貸せません。」
「はぁ?何それ…」
不機嫌にそう溢したミランダは、勝手に台所へと侵入し、同じようなナイフを手にして戻ってくる。向かいの席に座り込み、ジャガイモの山から一つを取って皮をむき始めた。
「これ、ツェペ用でしょ?懐かしい―。」
「…」
「子どもの頃からルキ達と一緒によく皮むきさせられてさー、でも、男連中は直ぐに飽きて、ルキとカッシュ先頭に、どっか遊びに行っちゃうんだよね。で、結局、残った女の子でやらされることになって。」
「…」
「ああ、でも、アタシは大抵、男連中に混ざって遊びに行っちゃってたんだけどね?そっちの方が向いてたっていうか、楽しかったからなー。ほんと、懐かしー。」
ミランダの話に適当に相槌を打つ。これが、ルキ本人やお母さん達から聞かされる話なら、私も素直に「子どもの頃のルキ、見たかったなー」って思えるのに。
「…セリちゃんってさー、なんか、繊細って感じだよね?そんなんで大丈夫?やってけんの?」
「え…?」
「だって、相手があのルキでしょ?あいつ、乱暴だし、口は悪いし、なんていうか、女心、全然分かってないっていうか…」
「…」
最後の一文には、若干、同意してしまったけれど、
「…ルキは、乱暴ではないですし、口も、…たまにしか悪くありません。」
「…」
「それに、私はそんなルキが好きなので、問題ないです。」
「っ!はっ、何それ…」
ミランダが、笑い損なった顔で何かを言おうとしたタイミングで、手に荷物を抱えたお母さんが戻って来た。
「ありがとう、セリちゃん。ルキってば、セリちゃんにそこまで言ってもらえるような子じゃないんだけど、嬉しいわー。ルキをよろしくねー。」
「はい…」
「っ!」
荷物を部屋の隅に置いたお母さんが、剥き終わったジャガイモの入ったボールを抱える。それを台所に運ぼうとしたところで、ミランダが立ち上がった。
「アディさん!アタシ、手伝う!」
「え?でも、」
「毎年やってることだから、大丈夫!任せて!」
「んー、でも、お鍋一個しかないのよね。手伝ってもらうほどのことは、」
「遠慮しないでよー!」
「…じゃあ、お願いしようかしら?」
「任せて!」
台所へ向かったミランダが、一瞬、振り返る。その顔が不敵に笑って─
(えー…?)
「フフン!」をされてしまった。今のは、感じが悪い。苛立ちを目の前のジャガイモの皮に向けることで昇華しようとしていたら、
「セリちゃん、セリちゃん。」
「?はい?」
台所から戻ってきたお母さんに呼ばれた。お母さんの手には先ほどの荷物が広げられていて、中から綺麗な花柄がのぞいている。
「これね?私が若い頃のものなんだけど、結局、一、二度しか着たことがなくて。それで、捨てられずにとってたものなんだけど。…セリちゃん、良かったら、今日のお祭り、これ着て行かない?」
「!」
お母さんの提案に、花柄の布地を改めて見る。大きな赤いビスクスの花があしらわれたサンドレス。
「昨日の内にね、丈を詰めてみたんだけど、後は、肩紐の調節と、ウエストを絞めれば、何とかなると思うのよね?」
「…ありがとう、ございます。」
なんだろう、照れくさい。だけど、凄く嬉しい。前世以来の感覚、こんな風に、「母親」から譲り受けた服を身体に当てられて、「これくらい?」って私のために調整される。
(子どもの頃に、浴衣、縫ってもらった時みたいな…)
「…うん、大丈夫、出来そうね。じゃあ、セリちゃん、一度、着てみてくれる?」
アディさんの言葉に頷いて、隣室で着替えを済ませる。戻ったところで、アディさんの大絶賛を受けて、また恥ずかしくなってしまったけれど。台所に、既にミランダの姿はなかった─
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