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前編 学園編
6-6. (前編終)
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6-6.
王都襲撃の危機が去ってから、三日。アイリーに告げられた言葉から、今後の身の振り方について一つの答えが出た頃、学園の全生徒が講堂に集められた。
入学式以来の訪れとなったその場所は、変わらずに荘厳な雰囲気に満ちていて、隣にブレンが居ないのも前回と変わらない。
ただ、前回と違うのは、隣にダミアンとカスパーが居ること。入口で出会って、ダミアンの「ブレンはどこだ」攻撃が収まった後も、こうして二人が側に居る。
「学園生諸君―」
学園長のその一言で始まった『王都防衛褒賞の儀』は、要するに、モンスター襲撃に際して活躍した人間に、王宮からのご褒美がある、ということらしい。
「それでは、学園内において最も目覚ましい働きを見せ、王都防衛において最も重要な働きをした者達の栄誉をここに称えよう。ディーツ・アメルン!アルド・シャウマン!シャウゼ出身、アイリー!三名の者は前へ!」
学園長の言葉に、講堂内にざわめきが起こった。驚き、というよりは、不信に満ちた―
「なぜ彼らが?アイリー嬢がベヒモスの討伐に成功したからか?」
「しかし、他のパーティーメンバーは何の成果も」
「あの彼はどうしたんだ?先陣を切ってモンスターに単身挑んでいた者が居たのだろう?」
耳が、囁きを拾う。
「やっぱり、あの噂は本当だったんじゃないかしら?」
「噂?」
「王都を守ったあの結界。『賢者の石』を使って、アルド様がお一人で作られたらしいわ」
「まあ!あれをお一人で?」
「本当か?だとしたら、彼らパーティーの功績は確かに大きいと言えるが」
結界に関する噂。様々な憶測が成されているのは知っていたけれど、「アルドが張った」とするものまであるとは知らなかった。『賢者の石』が加わることで信憑性も増している、と半ば感心していると―
「…僕は、黙っていたほうがいいですか?」
「え?」
前を向いたままのカスパーの小さな問いかけ。
「祠でお二人に助けられた時。ひと三人の入る大きさの結界を、あれほど精密に、しかも無詠唱で紡げる人を、僕は他に知らない」
「…」
「あなたなら、王都を包む結界も張れそうだと思っています」
「…」
淡々と語られる言葉。返す言葉に躊躇う。
「…お二人が、それを公にしたくないなら、僕は口をつぐみます。だけど、」
「?」
カスパーの身体がこちらを向く。向かい合えば、
「心からの感謝を、僕の故郷を、家族を守ってくれたあなた方に」
「…カスパー」
深々と、頭を下げるその姿に、少しだけ泣きそうになった。
「…お礼なら、ブレンに言って。王都を救ったのは、彼だから」
「…ブレンさんには」
突如、横から割り込んできた影、
「俺が言ったっす!昨日、寮で会ったときに!本当は、あの日もブレンさんとこまで行きたかったんっすけど!っ!?」
「…お前が行っても邪魔になるだけだ」
「…」
カスパーが、ダミアンの大声を無理矢理に塞ぐ。
「昨日も、鬱陶しがられてました」
二人の、そして目に浮かぶブレンの様子がおかしくて笑う。
視線を戻せば、壇上では、いよいよクライマックス。ディーツが、学園長の前にひざまずく。
「ディーツ・アメルン、その奮闘を称え、王家より『金獅子章』を与える」
ディーツが頭を下げたまま、一瞬の間―
「…謹んで、辞退、申し上げます」
「ディーツ!?」
ディーツの言葉に、どよめきが起こり、アイリーの悲鳴が響いた。
「…恐れながら、私は、私の働きは、その誉れに値しません」
「何言ってるの!?ディーツ!これを貰わないと!あなた!」
壇上で、また一騒動を起こしているアイリー達。長くなりそうな気配に、一人、退出を決める。最後まで残るというダミアンとカスパーを置いて、人ごみの合間を縫って出口へと向かった。
扉を押し開け、外に二、三歩、踏み出したところで、近づいてきた気配。
「…ブレン」
「終わったのか?」
見上げるブレンの長身。日の光が眩しくて、目を細める。
学園に来て、当初の目的である『始まりの祠』は踏破した。思わぬ形で、賢者の石も手に入った今、行きたい場所、欲しいものも出来た。
だから、我が儘は重々承知の上で、口にする―
「ブレン、学園を辞めよう」
王都襲撃の危機が去ってから、三日。アイリーに告げられた言葉から、今後の身の振り方について一つの答えが出た頃、学園の全生徒が講堂に集められた。
入学式以来の訪れとなったその場所は、変わらずに荘厳な雰囲気に満ちていて、隣にブレンが居ないのも前回と変わらない。
ただ、前回と違うのは、隣にダミアンとカスパーが居ること。入口で出会って、ダミアンの「ブレンはどこだ」攻撃が収まった後も、こうして二人が側に居る。
「学園生諸君―」
学園長のその一言で始まった『王都防衛褒賞の儀』は、要するに、モンスター襲撃に際して活躍した人間に、王宮からのご褒美がある、ということらしい。
「それでは、学園内において最も目覚ましい働きを見せ、王都防衛において最も重要な働きをした者達の栄誉をここに称えよう。ディーツ・アメルン!アルド・シャウマン!シャウゼ出身、アイリー!三名の者は前へ!」
学園長の言葉に、講堂内にざわめきが起こった。驚き、というよりは、不信に満ちた―
「なぜ彼らが?アイリー嬢がベヒモスの討伐に成功したからか?」
「しかし、他のパーティーメンバーは何の成果も」
「あの彼はどうしたんだ?先陣を切ってモンスターに単身挑んでいた者が居たのだろう?」
耳が、囁きを拾う。
「やっぱり、あの噂は本当だったんじゃないかしら?」
「噂?」
「王都を守ったあの結界。『賢者の石』を使って、アルド様がお一人で作られたらしいわ」
「まあ!あれをお一人で?」
「本当か?だとしたら、彼らパーティーの功績は確かに大きいと言えるが」
結界に関する噂。様々な憶測が成されているのは知っていたけれど、「アルドが張った」とするものまであるとは知らなかった。『賢者の石』が加わることで信憑性も増している、と半ば感心していると―
「…僕は、黙っていたほうがいいですか?」
「え?」
前を向いたままのカスパーの小さな問いかけ。
「祠でお二人に助けられた時。ひと三人の入る大きさの結界を、あれほど精密に、しかも無詠唱で紡げる人を、僕は他に知らない」
「…」
「あなたなら、王都を包む結界も張れそうだと思っています」
「…」
淡々と語られる言葉。返す言葉に躊躇う。
「…お二人が、それを公にしたくないなら、僕は口をつぐみます。だけど、」
「?」
カスパーの身体がこちらを向く。向かい合えば、
「心からの感謝を、僕の故郷を、家族を守ってくれたあなた方に」
「…カスパー」
深々と、頭を下げるその姿に、少しだけ泣きそうになった。
「…お礼なら、ブレンに言って。王都を救ったのは、彼だから」
「…ブレンさんには」
突如、横から割り込んできた影、
「俺が言ったっす!昨日、寮で会ったときに!本当は、あの日もブレンさんとこまで行きたかったんっすけど!っ!?」
「…お前が行っても邪魔になるだけだ」
「…」
カスパーが、ダミアンの大声を無理矢理に塞ぐ。
「昨日も、鬱陶しがられてました」
二人の、そして目に浮かぶブレンの様子がおかしくて笑う。
視線を戻せば、壇上では、いよいよクライマックス。ディーツが、学園長の前にひざまずく。
「ディーツ・アメルン、その奮闘を称え、王家より『金獅子章』を与える」
ディーツが頭を下げたまま、一瞬の間―
「…謹んで、辞退、申し上げます」
「ディーツ!?」
ディーツの言葉に、どよめきが起こり、アイリーの悲鳴が響いた。
「…恐れながら、私は、私の働きは、その誉れに値しません」
「何言ってるの!?ディーツ!これを貰わないと!あなた!」
壇上で、また一騒動を起こしているアイリー達。長くなりそうな気配に、一人、退出を決める。最後まで残るというダミアンとカスパーを置いて、人ごみの合間を縫って出口へと向かった。
扉を押し開け、外に二、三歩、踏み出したところで、近づいてきた気配。
「…ブレン」
「終わったのか?」
見上げるブレンの長身。日の光が眩しくて、目を細める。
学園に来て、当初の目的である『始まりの祠』は踏破した。思わぬ形で、賢者の石も手に入った今、行きたい場所、欲しいものも出来た。
だから、我が儘は重々承知の上で、口にする―
「ブレン、学園を辞めよう」
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