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第三章 領主夫人、王都へと出向く

4.公開処刑

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(帰りたい…)

王家主催の大祝宴会、王宮の大ホールへと続く階段を目の前にして、もうすでに帰りたくて仕方ない。

アンブロス領を出る時にはあんなにみなぎっていた気合。時間経過と、王太子との面会でごっそり失われてしまったそれを、もう一度根性で入れ直す。

人の流れの中、一瞬、足を止めてしまったせいで、エスコートしてくれているセルジュがつられて足を止めた。そのまま流れを抜け、階段の隅へと連れていかれる。

「…アオイ、大丈夫ですか?」

「うん、ちょっと気合入れ直してただけ。大丈夫大丈夫!」

見下ろすセルジュの視線、心配げだったそれが、私の返事にフワリと柔らかく解けた。

(っ!?これは、…来る…!)

「…美しいですね。」

「…ありがとう。」

予想通り、アンブロスの王都邸で初めてドレス姿をお披露目してからずっと、既に何度も繰り返してくれる賛辞の言葉に、いい加減、そろそろ慣れてもよさそうなものなんだけど─

(っ!無理!こんな顔されて言われたら、無理っ!)

出来ることと言えば、セルジュの顔を直視しないように視線をちょっとずらすことくらい。だけど、セルジュはこちらのそんな反応も見逃してはくれなくて─

「…すみません、アオイを表現するのに言葉が足らず。アオイも、いい加減、聞き飽きたでしょうが…」

「いや…、聞き飽きたってことはないけど…」

「…浮かれているようです。」

「え?」

「…漸く、アオイのドレス姿を見ることが叶いました。」

「っ!?って言っても、普段とそんなに変わらないよ!?」

(そこで、そんな風に笑うなんてずるい!)

視界の端でとらえてしまったセルジュの笑みに、こちらは浮つくどころか心臓が大忙し。顔の熱も尋常じゃないことになってしまっている。

「そ、れに!婚姻式の時だって!あれも、一応、ドレスだったでしょう!?だから、この格好も、そんなに目新しくないっていうか!」

(いや、ドレスだけで言うなら今の方が最高!すっごく綺麗だけど!)

元々、白を上手に着こなすことができない私には、今日のコバルト系のドレスの方が似合っている。デザインも、周囲から全く浮いていないラインだから、とても心強い。流石は王都の工房、流石はマイラ夫人。

(でも、結局、中身は私だし…!)

そこまで喜んでもらうほどのことは─

「…アオイは嫌がるでしょうが…」

「え?」

「婚姻式でのアオイは、私にとっては女神に等しく…」

「っ!?」

「ただ、お側に侍るだけ、お役に立てるだけで、本望だと思っていました。ですが…」

伸びて来たセルジュの手が、頬に触れる。

「…私が贈ったものを身に着けるあなたは…」

耳飾りを伝って─

「…とても、綺麗です。」

「…」

見下ろすセルジュの瞳、そこにある熱を認めてしまえば、視線を逸らすこともできなくなる。

「…だとしたら、セルジュのおかげだよ…」

「…」

「その…、ドレスも、アクセサリーも、ありがとう。」

「いえ。私が、勝手にやったことですから。」

「…」

(…もう、無理。)

「…行こう、セルジュ。」

「?」

「そろそろ、行かないと…」

いい加減、私の心臓が持たない。

(…それに、こんなところでイチャイチャしてるとか…)

こっそり、周囲に視線を送る。周りには結構な数の人。声までは聞こえていないだろうし、一応、人の流れは避けているものの、こちらに視線を送る人がいないわけではない。

(…公開処刑。)

今までとは別の種類の熱が顔に集まる。

「…アオイ?」

「…うん、よし、行こう。」

視線に背を向け、セルジュに身を寄せた。エスコートの腕に乗せた手に、少しだけ力を込める。

「?」

見下ろしてくるセルジュの表情は既にいつも通り。周囲の視線に気づいた様子も、それを気にしている様子もない。

(…なんか、もう、逆に頼もしい。)

セルジュの冷静さ、平常運転っぷりに、こちらの気が抜ける。

そんなセルジュに連れられて向かった大ホール。

(…眩しい…!)

王家の威信をこれでもかと示すためだろう。ホールの中はふんだんに使われた照明の光で昼間のような明るさを放っていた。熱を生まない照明の魔道具は、こんな時、便利だなぁなんて呑気に思いながら会場へと足を踏み入れた、その途端─

「セルジュ!」

聞こえてきた、夫の名を呼ぶ高い声。

(え…?女の、人…?)







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