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第四章 領主夫人、母となる
13.嵐の予感
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(…ハァ、疲れたぁ…!)
結局、セルジュが戻って来ることのないまま晩餐室での気まずい時間が終わったため、子ども部屋に直行。レナータにこの疲労を癒してもらおうと思ったのに、既に就寝中のレナータをギュウギュウすることは、彼女付きのナニー二人に阻止されてしまった。
仕方なく、寝室へと戻りベッドにダイブ。
(…セルジュ、戻ってきてないし。)
部屋にも居ないセルジュのことを思いながらベッドでゴロゴロ時間を潰せば、静かに開いた部屋の扉。手にした何かを難しそうな顔で眺めながら、セルジュが部屋へと入って来た。
「セルジュ?なに?どうかしたの?」
尋ねれば、手にした紙?のようなものから視線を上げたセルジュ。
「…騎士団長夫人から渡されたのですが。」
「え!?」
不穏な言葉に跳ね起きる。慌ててセルジュの手元を覗きに行けば、躊躇わずに見せてくれた紙片。メモのようなもの。
『今夜、中庭にて』
「…」
「…」
「…え?ナニコレ?どういうこと?」
シンプルにそれだけが書かれたメモは、見ようによっては、逢引のお誘いに見える。
(…私に、ケンカ売ってる?)
一瞬で頭に血が上った。今すぐ客室に乗り込んで、どういうつもりかと問い質してやりたいと思ったけれど─
「…そう、ですね。」
未だ、手元を眺めたままのセルジュの冷静な声。
「…確かに、今夜、という表現では正確な時間が分かりません。」
「え?」
「中庭という指定も、庭のどの場所を指してのことか。」
「…ああ、うん。そう、だね…?」
「これでは、最悪、行き違いになりかねません。」
「え!?行くのっ!?」
「?」
セルジュの罪悪感も何もなさそうな反応に、流石に、「無い」とは思うけれど─
「…だって、こんな…」
「アオイ?」
「っ!だって!夜中に人の夫を呼び出すなんて!それってちょっと!」
「…」
「いい度胸っていうか!非常識じゃないっ!?セルジュが行く必要なんてないと思う!」
私情たっぷりにそう告げれば、セルジュの空気が不意に緩んだ。
「…嫉妬、してくれているのですか?」
「っ!?」
「…存外、いいものですね。」
「なっ!なんで笑うのっ!?」
ここで嬉しそうに笑われてしまったら、私の身の置き所がなくなる。そんなこちらの気持ちが分かっているのかいないのか、セルジュの笑みが少し困ったものに変わる。
「…ですが、夫人が本当に外に出ていられた場合、このまま放置するわけにもいきません。…確認だけしてきます。」
「…」
「…アオイが心配するようなことは何もありませんよ?」
「…分かってる。けど…」
(ちょっと、心情的に…)
駄々をこねているのは分かってる。でも、快くなんて送り出せそうにない。
「…では、アオイも一緒に行きますか?」
「えっ!?」
「特段、一人で来るようにとの指定はありませんし。」
「…いや、それはそれで、…どうなのかなぁ…?」
だって、彼女はきっと─
「…アオイ。」
「はい…?」
「この館における客人の安全の確保は、領主である私の務めです。」
「?…そうだね?」
「ええ。ですから、騎士団長夫人にも、当然ながら、当家から護衛をつけています。」
「…」
「加えて、敷地内には夜間の警備の人員も配していますので、私と騎士団長夫人が二人きりになるという状況がそもそもありえません。」
「…なる、ほど…」
言われてみれば当然のこと。ここ最近、自由にさせてもらっているから忘れかけていたけれど、私も、王宮に居た時はそうだった。常に、誰かが側にいる窮屈さ。
「…更に言えば…」
「え?更にがあるの?」
「はい。…騎士団長夫妻には同じ客室を利用して頂いておりますから…」
「あー…」
その先を察して、別な意味で嫌な予感がしてきた。
「仮に、夫人が部屋を抜け出せば、騎士団長閣下がそれに気づかないということはあり得ないかと。」
「…だよねぇ…」
(…何だろう、本当、もう…)
修羅場の予感しかしない。
結局、セルジュが戻って来ることのないまま晩餐室での気まずい時間が終わったため、子ども部屋に直行。レナータにこの疲労を癒してもらおうと思ったのに、既に就寝中のレナータをギュウギュウすることは、彼女付きのナニー二人に阻止されてしまった。
仕方なく、寝室へと戻りベッドにダイブ。
(…セルジュ、戻ってきてないし。)
部屋にも居ないセルジュのことを思いながらベッドでゴロゴロ時間を潰せば、静かに開いた部屋の扉。手にした何かを難しそうな顔で眺めながら、セルジュが部屋へと入って来た。
「セルジュ?なに?どうかしたの?」
尋ねれば、手にした紙?のようなものから視線を上げたセルジュ。
「…騎士団長夫人から渡されたのですが。」
「え!?」
不穏な言葉に跳ね起きる。慌ててセルジュの手元を覗きに行けば、躊躇わずに見せてくれた紙片。メモのようなもの。
『今夜、中庭にて』
「…」
「…」
「…え?ナニコレ?どういうこと?」
シンプルにそれだけが書かれたメモは、見ようによっては、逢引のお誘いに見える。
(…私に、ケンカ売ってる?)
一瞬で頭に血が上った。今すぐ客室に乗り込んで、どういうつもりかと問い質してやりたいと思ったけれど─
「…そう、ですね。」
未だ、手元を眺めたままのセルジュの冷静な声。
「…確かに、今夜、という表現では正確な時間が分かりません。」
「え?」
「中庭という指定も、庭のどの場所を指してのことか。」
「…ああ、うん。そう、だね…?」
「これでは、最悪、行き違いになりかねません。」
「え!?行くのっ!?」
「?」
セルジュの罪悪感も何もなさそうな反応に、流石に、「無い」とは思うけれど─
「…だって、こんな…」
「アオイ?」
「っ!だって!夜中に人の夫を呼び出すなんて!それってちょっと!」
「…」
「いい度胸っていうか!非常識じゃないっ!?セルジュが行く必要なんてないと思う!」
私情たっぷりにそう告げれば、セルジュの空気が不意に緩んだ。
「…嫉妬、してくれているのですか?」
「っ!?」
「…存外、いいものですね。」
「なっ!なんで笑うのっ!?」
ここで嬉しそうに笑われてしまったら、私の身の置き所がなくなる。そんなこちらの気持ちが分かっているのかいないのか、セルジュの笑みが少し困ったものに変わる。
「…ですが、夫人が本当に外に出ていられた場合、このまま放置するわけにもいきません。…確認だけしてきます。」
「…」
「…アオイが心配するようなことは何もありませんよ?」
「…分かってる。けど…」
(ちょっと、心情的に…)
駄々をこねているのは分かってる。でも、快くなんて送り出せそうにない。
「…では、アオイも一緒に行きますか?」
「えっ!?」
「特段、一人で来るようにとの指定はありませんし。」
「…いや、それはそれで、…どうなのかなぁ…?」
だって、彼女はきっと─
「…アオイ。」
「はい…?」
「この館における客人の安全の確保は、領主である私の務めです。」
「?…そうだね?」
「ええ。ですから、騎士団長夫人にも、当然ながら、当家から護衛をつけています。」
「…」
「加えて、敷地内には夜間の警備の人員も配していますので、私と騎士団長夫人が二人きりになるという状況がそもそもありえません。」
「…なる、ほど…」
言われてみれば当然のこと。ここ最近、自由にさせてもらっているから忘れかけていたけれど、私も、王宮に居た時はそうだった。常に、誰かが側にいる窮屈さ。
「…更に言えば…」
「え?更にがあるの?」
「はい。…騎士団長夫妻には同じ客室を利用して頂いておりますから…」
「あー…」
その先を察して、別な意味で嫌な予感がしてきた。
「仮に、夫人が部屋を抜け出せば、騎士団長閣下がそれに気づかないということはあり得ないかと。」
「…だよねぇ…」
(…何だろう、本当、もう…)
修羅場の予感しかしない。
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