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第一章 純真妖狐(?)といっしょ
1-3.
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1-3.
「…にん、ぎょう?」
目の前、地面に転がっているのは両掌に余るサイズ、赤い着物を着た二頭身姿の女の子の人形。見えていたのは、その着物の振り袖部分だったようで、
「う、そでしょぉー」
一気に緊張が解けてへたりこんだ。テンパっていたとは言え、一応それなりに色々覚悟したのだ。恐かったし、逃げ出したかったけど、でも、子どもが襲われてるって思ったから―
「もう、本当、やだ。なんなのもぉ」
さっきの男が―人形相手とは言え―刃物を持っていた時点で危険人物だったことは間違いない。さっさと逃げださなければいけなかった場面。なのに、勘違いからバカな真似をしてしまった自分に落ち込む。
「…刺されなくて良かった」
本当に、幸運だったとしか言いようがない。こんな危ないこと二度としないと決めて、ふと気になったのは目の前の人形。男が一体何をしようとしていたのかを確かめるため、人形に手を伸ばせば、
「きゃあっ!」
理解できない事態に思わず叫んだ。背筋に走った寒気に、人形に伸ばした手、人形に触れようとした右手を左手で握りしめる。
確かに、拾おうと、持ち上げようとしたのだ。
なのに―
「…」
もう一度、恐る恐る手を伸ばす。伸ばしたその手が人形に触れようとして、
「…さわれ、ない」
3D映像に手を伸ばした時のよう。確かに目の前にあるはずの人形を、手が通り抜けてしまう。
もっとよく見ようと顔を近づけて、気がついた。
「っ!」
手が、着物の袖からのぞく白い手が、ピクリと動いたのだ。
「やだ、なに?なに、これ…」
人形のように見える、触れない生き物。あり得ない存在が怖くて堪らない。だけど、それでも辛うじて逃げ出さずに済んでいるのは、その見た目が人形と見間違えるほどに可愛いから。根拠も無いのに無害に思えてしまって、
「…妖精、とか?かな?」
それも、着ているものを考えれば違う気がして、しかもよく見れば、その頭には猫のような、犬のような真っ白な耳がはえている。
「…大きさ的には狐の耳?っぽい?」
小さな子のあどけない寝顔を眺める内に、マズイことに恐怖心がどんどん薄れてきている。
「…寝てる…気絶してる、のかな?」
見守る中、ときどき手足をピクリと動かしていたその子が体を丸めて小さなクシャミをした。
「…寒そう、なんだけど…」
ダメ元で、巻いていたマフラーを小さな体にかけてみるが、やはりマフラーもその子の体を通過してしまった。
「どうしよう…」
震えているようにさえ見えてきた小さな体。どうにか出来ないかと周囲を見回して目に入った、こちらに背を向けた灯り。入ってきたのとは別、もう一つあった公園の入口に、道路に向けて設置された自販機を見つけた。
拾ったマフラーを巻き直し、その灯りへ小走りに駆け寄る。並ぶドリンクを眺めて、選んだのはホットのミルクティ缶。ずっと持ち続けるには少し熱いと思えるそれを手に、女の子の元へと戻る。
先ほどと変わらない体勢のまま丸まった女の子の、その隣に缶を転がしてみた。果たしてこれでこの子を温めることが出来るのかは不明だけれど、
「あ」
耳が―
ピクピクと動いた耳、目を閉じたままの女の子の手が伸びて缶に触れた。
―触れるんだ
その不思議に目を離せなくなってしまう。そのまま、やはり暖を求めていたらしい女の子が缶へとすり寄り、頬を寄せた。その仕草が可愛くて、思わず口元が弛んだ、が、次の瞬間―
「キュッ!」
悲鳴らしきものをあげた女の子が、弾かれたように缶から身を離す。
「あ。熱すぎた?ごめんね」
「キュッ!?」
思わず口にした言葉に、こちらの存在を認識した女の子。再びの悲鳴とともに、目が合って、
「あ」
一瞬で見えなくなった姿。辺りを見回してみてもそれらしき姿は見つけられず、どうやら完全に逃げられてしまったらしい。
―ちょっと、残念、かな?
不思議な生き物に出会う不思議体験。まだ頭の中で上手く処理出来ていない出来事だったけれど、可愛い生き物を見ることが出来たのはラッキーだったのかもしれない。
「…えっと、まだこの辺に居る?」
立ち上がり、誰も居ない空間を見回して話しかける。
「私はもう帰るけど、大丈夫?ちゃんとおうち帰れる?」
暗闇に向かって尋ねてみるが、返事はない。転がったまま、まだ温かさの残る缶を拾おうとして、手を止めた。少し迷ったが、結局、
「これ、一応ここに置いておくね。帰る時、そのままにしておいていいからね。私が明日回収するから。これで温まったら、おうち帰るんだよ?」
言って、公園の外へと向かって歩き出す。
冷えきってしまったはずの体、吐く息も真っ白。
だけど、妙に興奮しきってしまった頭では、先ほどまでの寒さは全く感じられなくなっていた。
「…にん、ぎょう?」
目の前、地面に転がっているのは両掌に余るサイズ、赤い着物を着た二頭身姿の女の子の人形。見えていたのは、その着物の振り袖部分だったようで、
「う、そでしょぉー」
一気に緊張が解けてへたりこんだ。テンパっていたとは言え、一応それなりに色々覚悟したのだ。恐かったし、逃げ出したかったけど、でも、子どもが襲われてるって思ったから―
「もう、本当、やだ。なんなのもぉ」
さっきの男が―人形相手とは言え―刃物を持っていた時点で危険人物だったことは間違いない。さっさと逃げださなければいけなかった場面。なのに、勘違いからバカな真似をしてしまった自分に落ち込む。
「…刺されなくて良かった」
本当に、幸運だったとしか言いようがない。こんな危ないこと二度としないと決めて、ふと気になったのは目の前の人形。男が一体何をしようとしていたのかを確かめるため、人形に手を伸ばせば、
「きゃあっ!」
理解できない事態に思わず叫んだ。背筋に走った寒気に、人形に伸ばした手、人形に触れようとした右手を左手で握りしめる。
確かに、拾おうと、持ち上げようとしたのだ。
なのに―
「…」
もう一度、恐る恐る手を伸ばす。伸ばしたその手が人形に触れようとして、
「…さわれ、ない」
3D映像に手を伸ばした時のよう。確かに目の前にあるはずの人形を、手が通り抜けてしまう。
もっとよく見ようと顔を近づけて、気がついた。
「っ!」
手が、着物の袖からのぞく白い手が、ピクリと動いたのだ。
「やだ、なに?なに、これ…」
人形のように見える、触れない生き物。あり得ない存在が怖くて堪らない。だけど、それでも辛うじて逃げ出さずに済んでいるのは、その見た目が人形と見間違えるほどに可愛いから。根拠も無いのに無害に思えてしまって、
「…妖精、とか?かな?」
それも、着ているものを考えれば違う気がして、しかもよく見れば、その頭には猫のような、犬のような真っ白な耳がはえている。
「…大きさ的には狐の耳?っぽい?」
小さな子のあどけない寝顔を眺める内に、マズイことに恐怖心がどんどん薄れてきている。
「…寝てる…気絶してる、のかな?」
見守る中、ときどき手足をピクリと動かしていたその子が体を丸めて小さなクシャミをした。
「…寒そう、なんだけど…」
ダメ元で、巻いていたマフラーを小さな体にかけてみるが、やはりマフラーもその子の体を通過してしまった。
「どうしよう…」
震えているようにさえ見えてきた小さな体。どうにか出来ないかと周囲を見回して目に入った、こちらに背を向けた灯り。入ってきたのとは別、もう一つあった公園の入口に、道路に向けて設置された自販機を見つけた。
拾ったマフラーを巻き直し、その灯りへ小走りに駆け寄る。並ぶドリンクを眺めて、選んだのはホットのミルクティ缶。ずっと持ち続けるには少し熱いと思えるそれを手に、女の子の元へと戻る。
先ほどと変わらない体勢のまま丸まった女の子の、その隣に缶を転がしてみた。果たしてこれでこの子を温めることが出来るのかは不明だけれど、
「あ」
耳が―
ピクピクと動いた耳、目を閉じたままの女の子の手が伸びて缶に触れた。
―触れるんだ
その不思議に目を離せなくなってしまう。そのまま、やはり暖を求めていたらしい女の子が缶へとすり寄り、頬を寄せた。その仕草が可愛くて、思わず口元が弛んだ、が、次の瞬間―
「キュッ!」
悲鳴らしきものをあげた女の子が、弾かれたように缶から身を離す。
「あ。熱すぎた?ごめんね」
「キュッ!?」
思わず口にした言葉に、こちらの存在を認識した女の子。再びの悲鳴とともに、目が合って、
「あ」
一瞬で見えなくなった姿。辺りを見回してみてもそれらしき姿は見つけられず、どうやら完全に逃げられてしまったらしい。
―ちょっと、残念、かな?
不思議な生き物に出会う不思議体験。まだ頭の中で上手く処理出来ていない出来事だったけれど、可愛い生き物を見ることが出来たのはラッキーだったのかもしれない。
「…えっと、まだこの辺に居る?」
立ち上がり、誰も居ない空間を見回して話しかける。
「私はもう帰るけど、大丈夫?ちゃんとおうち帰れる?」
暗闇に向かって尋ねてみるが、返事はない。転がったまま、まだ温かさの残る缶を拾おうとして、手を止めた。少し迷ったが、結局、
「これ、一応ここに置いておくね。帰る時、そのままにしておいていいからね。私が明日回収するから。これで温まったら、おうち帰るんだよ?」
言って、公園の外へと向かって歩き出す。
冷えきってしまったはずの体、吐く息も真っ白。
だけど、妙に興奮しきってしまった頭では、先ほどまでの寒さは全く感じられなくなっていた。
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