【更新停止中】おキツネさまのしっぽ【冬再開予定】

リコピン

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第二章 ツンデレ天邪鬼といっしょ

1-1.

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1-1.

信じられないような経験―化け物に襲われたり、それを退治する人達と出会ったり―をしたわりには、その後は何もなく。傍らにシロが居る以外には、以前と何も変わらない毎日が過ぎていく中、

「瑞穂!?どうしたの??」

「…いちか~」

休み明け、教室に入った途端目に入ったのは、机の上で完全に萎びてしまっている親友の姿で、

「本当にどうしたの?勉強疲れ?」

本命校の受験日間近、どこまでやっても「これで大丈夫」とは思えない勉強漬けの日々に、私自身疲れきっているからこそ出た言葉。

けれど、それに返ってきたのは唸るような返事だけで、

「瑞穂、しんどいなら帰る?先生に言う?」

「…帰んない、ごめん、凹んでるだけ…」

「凹んでる??」

だとしても、その尋常でない様子に不安が募る。ようやくノロノロと顔を上げ始めた瑞穂の言葉を待てば、

「…喧嘩した…」

「喧嘩?誰と?」

「…大翔ひろと…」

「名島くん?」

思いがけない名前が出てきたことに驚く。軽口を叩き合うことはあっても、険悪な仲になった瑞穂達なんて見たことが無かったから。

「…大翔とはずっとクラスが同じだから、仲は良い、んだけど…」

「…うん」

「結局、告白とかはできなくて、ここまできちゃって…」

「…」

何度か聞かされたことのある、瑞穂の恋愛相談。同じ内容でも、その時はもっと、彼女の恋する楽しさが伝わってきたのに―

「大学は別だし、このままじゃ、何にも無いまま終わっちゃうと思って、それは…」

「…嫌、だった?」

「…うん。だから、土曜日に二人で勉強しようって外で会ったんだけど。結局、告白どころか、大喧嘩しちゃって」

瑞穂の口から、生気の無いため息が漏れる。

「今まで、本気の喧嘩とかしたことなかったから、もう、どうしていいかわかんない…」

「瑞穂…」

言い終わった途端、また沈んでいく瑞穂に声をかける。

「…放課後、時間ある?どこか寄ってこうか?話し相手くらいになら成れると思うから」

「でも、一花も勉強…」

「瑞穂がそんなんじゃ、私だって気になって勉強どころじゃないよ。ね?受験前、最後の気晴らしに甘いものでも食べに行かない?」

「一花…ありがとう」

漸く―辛うじてではあるけれど―笑顔を見せてくれた瑞穂に、こちらも気の抜けた笑いが浮かぶ。その瑞穂の顔が瞬時に強張った。

「…」

「…名島くん」

瑞穂の視線の先、教室のドアをくぐった彼女の想い人が、こちらへと視線を向けている。

「瑞穂…?」

「…」

固まってしまった瑞穂に声をかけるが、返事はない。どうしたものかと困り果てて瑞穂を眺めていれば―

「っ!?」

あがりそうになった悲鳴をどうにか飲み込んだ。こちらの不審な様子には気づいた様子のない瑞穂。その彼女の頭の上に座り込む、小さな女の子の姿―

「!」

思わず、肩に乗っているシロを振り向くが、シロは暢気に女の子に向かって手を振っているだけで。

視線を女の子へと戻せば、クスクス笑うその子が、シッポをゆっくりと持ち上げた。細くて長いシッポ、その先は尖ったハート型になっていて、

「!?」

止める間もなく、そのシッポの先が瑞穂の頭に刺さった、ように見えた。

途端、さっきまで不安げな表情で名島を見ていた瑞穂が、表情を変える。そのまま思いっきり名島から視線を逸らして、彼を視界から閉め出してしまった瑞穂の行動に戸惑う。

「…瑞穂?」

「…」

瑞穂の豹変ぶりが恐くなって、無駄かもしれないと思いつつ、彼女の頭の上に手を伸ばした。

「一花?なに?」

「ちょっと、髪に何かついてる」

不審がる瑞穂にそう返して、彼女の頭の上に居座る「女の子」を掴もうとしたのだけれど、

「とれた?」

「…うん、落ちたみたい」

やはり、捕まえることは出来ないらしい。手をすり抜けてしまった「女の子」が、クスクス笑いを残して消えていく―

と同時に、瑞穂が机の上に崩れ落ちた。

「…また、やっちゃった。やな態度とっちゃった。あんなことするつもり、無かったのに…」

「…」

瑞穂が「自分の意思に反してとった」という行動と、確実に関係するだろう先ほどの女の子。

未知に対する不安感に、心が激しくざわめく―




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