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高校生の二人
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しおりを挟む「――未雲単語、授業終わったよ」
上から降ってくる声に意識が浮上する。慌てて顔を上げて周りを見渡せば、他の生徒は教科書やらノートを机に押し込んで帰り支度をしているところだった。どうやら授業中に寝てしまっただけでなく、放課後まで寝過ごしてしまったようだ。
「また寝てたね。体調でも悪い?」
目線を正面に戻すと、綺麗な顔が心配そうにこちらを見つめていた。未雲の前の席にいる同級生は、自分の唯一の友人である柊明だ。こんな片田舎では中々見ない色素の薄い髪と瞳がキラキラと夏の日光に照らされている。起きたばかりに見るそれは随分刺激が強く、未雲は思わず顔を顰めた。
「眩しい……」
「もう、まだ寝ぼけてるの?」
目の前の美丈夫は呆れたように言うと、手を伸ばしてこちらの頬をつねってきた。痛みは感じなかったが、肌に触れた冷たい指先のおかげで意識がやっとはっきりし出す。
「柊明単語、俺いつから寝てた」
「そんなの知らないよ。さっきの授業で後ろの人と意見交換しろって先生に言われて、振り向いた時には寝てたんだから。とりあえずバレないように隠してあげたんだし、感謝してよね」
「はいはい、ありがと」
柊明は「誠意が足りない」と言いながらもさらに頬を緩ませて未雲の机に突っ伏す。ちょうど頭が未雲の腕に乗るように。重いと言っても彼が満足するまで退くことは決してないのを未雲は何度も経験していたので、柊明をそのままにさせて窓の外へと視線を移す。途端に視界には一面の青が広がった。
この教室は三階で、近くの海とその上に広がる空がよく見えた。決して綺麗とはいえない海はギラギラと照りつけた太陽のおかげか、水面が輝いて平時よりは美しかった。明るい空も辺り一面水色で、雲がどこにも見当たらない。……そのせいだろうか、夏特有のじめじめとした空気も今日は心なしか軽いような気がした。
「今日は天気がいいな」
「夏だからね」
「でも毎日こうじゃないだろ。分厚い雲とか、あといつも蒸してる」
「今日はあんまり肌が気持ち悪くないよね。まあ、多分教室が冷房効いてるからだよ。さっきの先生暑がりだったから。きっと外に出れば蒸し暑いよ」
「嫌だなあ」
周りの生徒も涼しい室内から出たくないのか、それぞれが集まって教室で駄弁っている。放課後は部活もあるが、ここ最近の暑さは異常でみんながみんな少しでもサボろうと努力している。未雲は部活には参加していないものの、環境委員会に属しているので花壇の水やりのために放課後は外に出る必要があった。行かないとな、と心の内では分かっている。しかし、未雲は柊明に阻止されているという、れっきとした理由があった。
今、未雲の腕に頭を押しつけている柊明は生徒からも教師からも一目置かれている存在だった。頭も良ければ運動神経も良く、そして何より生まれ持った美貌とうっすら筋肉のついた体躯が見る者の目を虜にする。そんな欠点が一つもないような彼は、当然のことながら人気者だった。
そんな柊明は、どういう訳か未雲と行動を共にしていた。周りから見れば、自分たちは親友のようにさえ見えているのだろう。
未雲自身なぜ自分なのか、理由はよくわからない。以前本人に聞いてみたところ「未雲が一番おれのこと好きだからかな」などと宣ったので、以降未雲は理由を知ることを諦めた。
「……そろそろ水やり行かないと」
「え、もう行っちゃうの」
「うん。だから、どけ」
「いつ戻ってくるの」
「あー、夏だから多めにやることあるかも……てか、帰ってればいいじゃん。帰宅部なんだから」
「やだ、未雲と帰るって決めてるから。帰宅部のおれは涼しい場所で待ってるもんね」
やっと頭を上げた柊明はじっとこちらを見つめて「早く帰ってきてね」と呟く。笑顔なのに、強い陽射しで影が濃くなった表情がやけに寂しそうだった。心臓がどきりと鳴る。動揺を誤魔化すように未雲は少し痺れた腕を軽く振って席を立った。
頑張ってね、と手を振る柊明を目の端で捉えながら小さく手を振り返し、そのまま教室の外に出る。途端、身体中に纏わりつく重たくねっとりとした空気に辟易して、すぐにでもオアシスである教室に戻りたくなった。しかし、後から出てきた生徒――バスケ部の奴らだ――がいる手前、そんなことできるはずもなかった。
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