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高校生の二人
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しおりを挟む「もし未雲が気付いてて、それで離れたいと思ってるなら最後くらいちゃんと想いは伝えたいと思って」
未雲が未だに壊れたロボットのように動けないのをいいことに、柊明はつらつらと言葉を並べる。そのせいで未雲はさらに口を開けなくなっているのだが、本人は気にせず――言ってしまった手前、柊明もどうしようもなくなっているのかもしれない――話を続けた。
「……ごめんね、寒いのにここまで連れて来ちゃって。未雲に負担かけたくないから、これからは話しかけないようにする。必要なことがあったら別だけど……なるべく関わらないように気を付けるよ」
「はっ?」
なんだそれ。未雲はさっきまでの火照りが嘘のように引いて手の先が冷たくなった。柊明が手を離したせいもあるが、それよりも彼の言葉が重く深く未雲の心に突き刺さった。
未雲は去ろうとする柊明の腕を思わず捕まえる。予想外の強さだったのだろう、柊明は驚いて立ち止まった。
「返事聞いてないのに、勝手に終わりにしようとするな」
「え、でも、未雲はおれのこと避けてたでしょ……?」
「違う! 俺が勝手に勘違いしてただけで、嫌いになって避けてたわけじゃない」
緊張と寒さで口がうまく回らない。震える未雲に、柊明は恐る恐る両手を握った。
「……じゃあ、返事、聞かせてくれる?」
今まで散々スキンシップをしてきたくせに、今更そんな仕草をするなんて。こんなの、断れないようにしているも同然だろう。未雲はついに決心をして、深呼吸を一つした。
「お、俺も、柊明のことが好きだと思う、いや、好き、です」
カタコトになりながら伝えた返事は、柊明にちゃんと届いたらしい。さっきまでの沈んだ顔は形を潜め、瞳をキラキラと輝かせて今にも涙が溢れそうになっていた。
「未雲、そう言ってくれて嬉しい、本当に、ありがとう……」
ぽろり、目の縁に溜まった涙が雫のように二人の間に落ちる。ゆらゆらと揺れる柊明の瞳は星が散らばった夜空を彷彿とさせ、綺麗な人は瞳の中まで綺麗なのかと未雲は場違いなことを考えていた。
実際問題、未雲は自分自身柊明のことが恋愛的に好きかどうか分からなかった。普通に考えれば一番大切な友人と言えるだろう。こんな面倒な自分と仲良くしてくれて、好きなことを一緒に楽しんでくれる、良き友人だ。しかし彼の言うように「恋人」という枠になると、未雲は判断が難しかった。付き合ったこともなければ恋愛的に好きになった相手もいない、いわゆる恋愛未経験の自分にはそこら辺の塩梅がよく分かっていなかった。
だとしても今「好きではない」と伝えるか? 友人として好きだと話して、前のように接してもらおうとして、柊明はそれで良しとなるだろうか。きっとどこかで綻びが生じて、気まずくなってしまう。もう以前のように接することはできなくなる。そうなるくらいなら「好き」と言えばいい。嘘ではないのだから。
手を繋いだり、距離が近かったり、今思えば恋人同士がするようなことを俺たちは平然とやっている。初めは慣れなかった距離も今では当たり前になっていったし、友人から恋人に変わったところで何か不都合があるようにも感じられなかった。
だからこれで大丈夫。
未雲は別に柊明から離れたいとは思っていない。もし柊明がそう思っているなら仕方ないな、くらいの感覚で、自分の返答次第で関係が悪くなることは望んでいなかった。
「流石に寒いし、早く中入ろう」
ぎゅうぎゅうに抱きしめてくる柊明の肩を宥めるように叩くと、彼は名残惜しそうに未雲から離れて、その代わりというように手をしっかりと握った。
「とりあえず保健室行こっか。学校で一番あったかいし」
目鼻を赤くさせた柊明がふにゃりと安心したような顔でこちらを向く。相変わらず凍えるように寒かったけれど、その初めて見る表情に未雲は少しだけ寒さを忘れて笑みが溢れた。
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