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高校生の二人
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しおりを挟むそれからの生活は、未雲が思ったほどそう変わらなかった。
劇的に変わったといえば、朝の通学を一緒にバスで通うようになったこと。家から遠くないのか、未雲がなんとなく聞いてみれば柊明曰く「駅に向かう時とそんな変わらないから大丈夫」らしい。バスを利用する学校の生徒は二人以外にあまりいない。みんな電車か自転車、親の送迎がほとんどで、朝のバスは学校最寄りの停留所より先の商店街の方へ降りるご老人のみだ。朝のその時間を柊明は特に好んでいて、誰もいないのをいいことに学校では話せないようなことを教えてくれた。外やバスの稼働する音で声は自分たちにしか聞こえないようになっているから、居心地のいい空間であることは間違いなかった。
「おれね、小さい頃一人で過ごすことが多くて。時間を潰すために本をよく読んでたんだよね。今はもうほとんど読まなくなったけど」
「なんか想像つかないな」
「これでも今の未雲みたいに読書家だったんだよ? 特に主人公に相棒みたいな存在がいるのが好きでさあ、その理由でホームズも読んでたかも」
「へえ、なんか珍しい理由。俺は有名だからってだけで読んでたよ」
「もちろんそれもあったよ。ミステリーも好きだったからね。まあそうやって読んでいくうちに、自分はお互いが唯一の存在って関係に憧れてたんだって気付いたんだよね」
そう話す柊明の横顔はどこか寂しそうで、ひたすらに遠くを見つめているようだった。未雲の視線に気付いた柊明は目を細めて微笑むと、膝に置かれていた未雲の手に自身の手を重ねる。座席の影でちょうど運転手にも見えない位置だ。
朝の時間の他に二人の間で変わったのは、柊明のボディタッチが以前より増えたことだった。これが、未雲が唯一頭を悩ませる変化だった。
手を繋いだり頬を撫でたりしてくることは過去に何回もあったし、何をする時でも距離は近かった。初めは随分困惑したし、慣れてきてもやはり驚く時はある。美形が間近にいるって色んな意味ですごいことなんだな、と未雲はどこか他人事で考えていた。しかし、いざ「恋人」関係になってみたら、今までの距離感は柊明にとってだいぶ遠慮していたものだったことが判明した。何もしていなくても肩に顎を乗せるわ、意味もなく後ろから抱きついてくるわ、挙げ出したらキリがないがとにかく未雲が経験したことのない行動ばかりしてくるようになったのである。変わらず人目のないところでしかしてこないが、たまに人の気配がして心臓が止まりそうな時も何度かあった。
「未雲に会えて良かった」
「……恥ずかしいこと言ってるの、わかってる?」
「分かってて言ってんの! あ、そろそろ着きそう」
指摘されて急に恥ずかしくなったのか、柊明は赤くなった顔を誤魔化すように窓の方へ振り向く。釣られて窓の外を見れば、見覚えのある店の看板が横を通り過ぎた。いつの間にかもう降りる時間になっていたらしい。手が離れると、なんとも言えない物寂しさが未雲の横を通り過ぎた。
バスが学校最寄りの停留所に停まる。およそ30分、二人だけの朝の時間は終わりを告げた。帰りも一緒のバスに乗るが、その時は利用者が朝の倍に増えてしまうので二人だけで朝のように会話することは難しい。だからこそ未雲は朝の時間が密かに好きだった。
昼休み、各々が弁当を持ち寄って教室で食べる中、二人は誰も通らない廊下にある空き教室へ行く。二人きりになった途端、柊明のその「距離感」は遺憾なく発揮される。
「寒いからいいけどさ、本読むならもっとマシな体勢にしたら」
未雲は相変わらず昼ごはんを食べ終わると読書に勤しんでいた。その横で、柊明は頭を未雲の肩に乗せて本を盗み見ている。
「大丈夫、全然読めるから」
「……ページ捲っていい?」
「待って、あと3行」
どちらにせよ、柊明は誰かがいる前では決してこういうことはしてこないので、未雲もまあこれくらいはと許容する。そうやって絆されていきながら、未雲は少しずつその距離感が当たり前になってきていた。
誰もいない二人きり、という状況の中で行われる密会のような出来事一つ一つに、未雲は気恥ずかしさと仄かな優越感で支配されている。今まであった劣等感や罪悪感がどんどん消えていって、柊明といると自分が肯定されたみたいな気分になった。まるで柊明がいなくなったらもう生きていけないような、崖っぷちにいるのに気付かずその時の幸せを噛み締めているような恐ろしい考えが一瞬頭に浮かび上がる。しかしそれはすぐに自身の否定によって消えていった。
(どうせ、ずっと一緒にいるわけではあるまいし)
そう思えたことに、未雲はひどく安心した。
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