【完結】いつだって二人きりがよかった

ひなごとり

文字の大きさ
18 / 34
大学生の二人

17

しおりを挟む



 は、と目を覚ますとそこは冷房の効いた教室だった。キョロキョロと辺りを見渡すとそこには誰もいない――目の前の人物を除いて。
「未雲、授業終わったよ。また寝てたね……体調でも悪い?」
 あの綺麗な顔が、こちらを見つめて微笑んでいた。もうそんなことは有り得ないはずなのに。もしかして都合の良い夢でも見ているのかと思わず目の前の顔の頬をつねってみる。
「まだ寝ぼけてるの?」
 彼は柔らかく笑って未雲の手を優しく戻した。そのまま手を繋がれてしばらく互いに無言で見つめ合う。
「……柊明、」
「ん? どうしたの」
 心地良い声に笑みが漏れる。懐かしいそれに視界が滲んだ。
「俺、……」
 ゆらゆら、体が空間を揺蕩う。誰かが遠い方で自分の名前を呼んでいる気がした。



「……くん、未雲くん!」
「うわっ」
 ビクッと大袈裟なほど体が跳ねる。ガヤガヤと周りの騒がしさから、先程まで受けていた講義が終わったのだと察した。
「寝てるなんて珍しい。夜更かしでもしたか?」
「橘……俺いつから寝てた」
「んー、先生が動画流してすぐだったかな。プリントまとめといたから次の時間までに写しとく?」
「うん、する」
 はいどうぞ、と今日の授業の要点がまとめられたプリントを受け取る。少し乱れた字列に、橘も眠たかったのだと気付いて思わずにやけた。
「次、別の授業だったよな。俺は次休講になってたから、いつもの教室で待ってる」
「んー、分かった。じゃあまたお昼に」
 橘は他の学生に声をかけられ、話も程々に教室へ向かっていった。
 現在未雲は無事大学受験を終え、都内の大学に通っていた。親に心配されながらも一人暮らしを始め、大学では新しい友人も増えて平凡な生活を送っている。
 その手助けをしてくれたのが高校の同級生である橘だった。高校二年の頃まではそれほど関わりもなかったのだが、未雲がクラスから遠巻きにされていることを知りながらも声を掛けてくれる唯一の存在で、それは三年になってからも変わらなかった。
 そしてあの時――未雲がさらに孤独になった時、一人で志望大学の赤本を勉強しているところを橘に話しかけられた。「俺と同じ志望校だ」と。今思うともしどちらかが落ちたら気まずくなりそうなものだが、当時の未雲はそれほど関わることもないと特に気にしていなかった。橘がこうして話しかけてくるのもただの気まぐれだと思っていたから。
 しかし、橘はそれからよく話しかけてくるようになった。勉強も分からないところがあれば教えてくれたし、大方の授業が終わって自習が多くなった時期には一緒に過去問を解き合うこともあった。
 受験が終わった後、無事に二人とも志望校に合格して橘が大喜びしている中、水を差す思いをしながら未雲は恐る恐る質問をする。なんであの時話しかけてくれたのか、と。
「今その話するか……まあ受験でそれどころじゃなかったからな」
 聞かれた橘は気まずそうに目を伏せる。
「前に柊明とのこと聞いただろ。その後に二人の空気が悪くなった気がして……俺のせいかもと思ったらつい」
「それは……別に橘のせいじゃない。気にしなくて良かったのに」
「前にも言ったけど、未雲くんと話したかったのは本当だから。同じ志望校だったのは驚いたけどなー。改めて、これからもよろしく」
 同じ学部だったのもあって二人は案外気が合った。共通の話題も多く、もっと初めから積極的に話していたらまた何か違ったのだろうかと意味のないことを考える。
 残りの高校生活は卒業式まで静かに過ごした。橘とはたまに学校で会ったら話をするくらいで、特段仲良くなったという訳でもない。それでも十分楽しい日々だった。あの狭い教室で人と会う必要がなくなったのが大きかったかもしれないが。
 大学生になってからも橘はちょくちょく未雲と行動を共にしていた。誰かと仲良くなったらすぐに紹介もしてくれるから、高校の時のような孤独感はさっぱり消えた。今にして思うと、高校生の自分は柊明に依存していたのだろう。だから離れたくなかったし見捨てられた気になって落ち込んだ。悪いことをしてしまったのは自分の方だというのに。
 今でも柊明との思い出は鮮明に思い出せる。自分だけに向けられた笑顔も、視線も、簡単に手放せるものではない。その度にあれはただの夢だったのだと言い聞かせて今の新しい生活に身を投じた。環境が変わったのもあって忙しい日々は今の未雲にちょうど良かった。
 未雲は、柊明を忘れようと必死だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【本編完結】黒歴史の初恋から逃げられない

ゆきりんご
BL
同性の幼馴染である美也に「僕とケッコンしよう」と告げた過去を持つ志悠。しかし小学生の時に「男が男を好きになるなんておかしい」と言われ、いじめにあう。美也に迷惑をかけないように距離を置くことにした。高校は別々になるように家から離れたところを選んだが、同じ高校に進学してしまった。それでもどうにか距離を置こうとする志悠だったが、美也の所属するバレーボール部のマネージャーになってしまう。 部員とマネージャーの、すれ違いじれじれラブ。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※表紙をAI君に描いてもらいました。(2026.2.21) ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。

入社1ヶ月のワンコ系男子が、知らずのうちに射止めたのはイケメン社長!?

monteri
BL
CM制作会社の新入社員、藤白純太は入社1ヶ月で教育係の先輩が過労で倒れたため、特別なクライアントの担当を引き継ぐことになる。 そのクライアントは、女子禁制ミーハー厳禁の芸能事務所だった。 主人公の無知で純なところに、翻弄されたり、骨抜きにされるイケメン社長と、何も知らない純太がドキドキするお話です。 ※今回の表紙はAI生成です ※小説家になろうにも公開してます

地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛

中岡 始
BL
誰にも気づかれたくない。 誰の心にも触れたくない。 無表情と無関心を盾に、オフィスの隅で静かに生きる天王寺悠(てんのうじ・ゆう)。 その存在に、誰も興味を持たなかった――彼を除いて。 明るく人懐こい営業マン・梅田隼人(うめだ・はやと)は、 偶然見た「眼鏡を外した天王寺」の姿に、衝撃を受ける。 無機質な顔の奥に隠れていたのは、 誰よりも美しく、誰よりも脆い、ひとりの青年だった。 気づいてしまったから、もう目を逸らせない。 知りたくなったから、もう引き返せない。 すれ違いと無関心、 優しさと孤独、 微かな笑顔と、隠された心。 これは、 触れれば壊れそうな彼に、 それでも手を伸ばしてしまった、 不器用な男たちの恋のはなし。

泣き虫だったはずの幼なじみが再会したら僕を守るために完璧超人になっていた話。

ネギマ
BL
気弱で泣き虫な高校生、日比野千明は、昔からいじめられっ子体質だった。 高校生になればマシになるかと期待したが状況は変わらず、クラスメイトから雑用を押し付けられる毎日を送っていた。 そんなある日、いつものように雑用を押し付けられそうになっている千明を助けたのは、学校中が恐れる“完璧超人”の男子生徒、山吹史郎だった。 文武両道、眉目秀麗、近寄りがたい雰囲気を纏う一匹狼の生徒だったが、実は二人は、幼い頃に離れ離れになった幼なじみだった――。

隣の席のイケメンに懐かれた

しょうがやき
BL
隣の席のイケメンに懐かれた平凡男子の話

一軍男子と兄弟になりました

しょうがやき
BL
親の再婚で一軍男子と兄弟になった、平凡男子の話。

処理中です...