【完結】いつだって二人きりがよかった

ひなごとり

文字の大きさ
25 / 33
大学生の二人

24

しおりを挟む


 何度目かの柊明の部屋はいつ見ても綺麗に片付けられていて、あまり生活感は感じられない。部屋には二人で座るには少し小さいソファやテーブル、十分な大きさのテレビなどが置いてある。引き戸になった室内ドアを開いた先には寝室があり、柊明の体格に合ったサイズのベッドが入ってもなおスペースが余っており、寝泊まりをする際はそのベッドの横で未雲は用意してもらったマットレスを敷いて寝ていた。
「今日はどの俳優さんにするか決めてきた?」
 ソファに座りながら部屋の様子を眺めていると、家主がキッチンからお菓子と飲み物を注いだグラスを準備して持ってきてくれた。今日の映画鑑賞のためのお供だ。
「うん、前とはまた趣向を変えて選んでみた」
「おれも。じゃあ、せーので発表して、どっちにするか決めよ!」
 家での映画鑑賞の良いところは、周りを気にせず好きに会話できるところだと思う。二人は選んだ俳優の名前を動画配信アプリで検索すると、出てきた映画から順に観ていくことにした。
 二人が観る映画はもっぱら洋画が多く、今観ているものもヴァンパイアを題材にした海外の映画だった。孤独だった一人の人間が、ヴァンパイアに血を吸われて同じ種族になってしまう。そこで彼は新しい家族の形を作り幸せに暮らすが、次第に変化していく環境、仲違い、そしてついには大きな事件が起きて……とハラハラする展開が続く。
 映画の主人公である元人間に、未雲は何となく親近感が湧いた。孤独だったところを自分とは違う世界を生きる者に救われ、幸せになるも幾度の困難に遭い苦悩する姿。自分だけが互いの関係を大切にしていて、相手は簡単に自分を切り捨てることもできると知った時の動揺……。
 そうやって映画の中の登場人物に深く入り込みすぎたせいだろうか。何故か高校の時の思い出や大学で橘に言われた「忠告」がふと頭に浮かび、未雲はパッと思ったことが口に出た。
「――俺たちもいつかこうして会わなくなるのかもな……」
 自虐のような独り言だった。ちょっとした当て付けのつもりだったのかもしれないし、自分自身を宥めるためのものだったのかもしれない。どちらにせよ、柊明は映画に集中して無視するか、笑って何か言ってくれると思っていた。
 案の定、彼からは何も反応が返ってこないので少し悲しくも感じながら映画へと集中しようと身じろぎする。
 突然、自分の膝に置いていた片方の手がひんやりとした手に掴まれた。驚いて柊明の方を見ると、彼はやたら神妙な顔つきでこちらをじっと見つめていた。狭いソファに二人で座っていたせいで元々近かった距離がさらに近付き、未雲は映画のことも一瞬忘れて柊明を見入った。
 常より近い距離で、柊明の口がゆっくりと開く。
「未雲はそうなってもいいと思ってるの?」
「え……。いや、続くならもちろんそれがいいけど、こんなに趣味が合う友人も中々いないし」
「うん。おれもそう思う」
 まるで尋問されているような感覚に、小さく喉が鳴る。手は強く握られ、見つめられた目は逸らすなと言われているようだった。遠くで映画の中のヴァンパイアが何かを叫んでいる。
 いつの間にか、もう唇が重なる寸前まで二人の距離は溶けていた。いつぞやの情景がフラッシュバックして、未雲の肩が大きく揺れる。
「……またあの時みたいに拒絶する?」
 柊明の瞳は、どこまでも沈んでいくような海だった。先が見えない夜空だった。
 拒絶なんて、できるはずがない。元通りになれたと思った関係をもう一度壊すのも、また同じ過ちを犯すのもしたくなかった。あの時の離れていく柊明を思い出して罪悪感に押しつぶされそうになりながら、未雲は自分から顔を近づける。
 柊明にもう見限られたくない、出来もしないのに独り占めしたいと思いながらゆっくりと唇を重ねると、繋がれていた手が離れて自分の頬を包み込み、二人のキスはさらに深くなった。
 慣れないことで戸惑っていると、舌が唇を割って中へ入ってくる。そのまま舌を絡め取られ、途端身体中に電気が走ったかのようにビクビクと震えた。未知の体感に困惑して柊明の方に縋るが、キスは中々終わらなかった。
「……ぁっ、んんっ……!?」
 舌を吸われ、未雲の頭に白い火花が散る。訳もわからず目を白黒とさせていると、唇をやっと離した柊明が恍惚とした表情をさせながら囁いた。
「キスだけでこんなに感じるんなら、もっと早くすれば良かったね」
 心臓が痛いほど音を鳴らす。困惑しながらも興奮や期待が入り混じっている心音は、次を期待してどんどんうるさくなっていく。
「未雲は……続き、したい?」
 こうやって聞いてくるのもきっとわざとなのだろう。分かってても、未雲は抗える気すら失せて身体がさらに熱くなっていくのを感じた。
 柊明はきっと復讐の機会を狙っていたのだ。あの時と似た状況を作り出して、こうして試してきている――そう思うのに。
「し、したい、柊明となら、したい」
 自分は縋ることしかできない。縋らなければ、見捨てられてしまうから。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中  二日に一度を目安に更新しております

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」 穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン 攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?   攻め:深海霧矢 受け:清水奏 前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。 ハピエンです。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。 自己判断で消しますので、悪しからず。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

【完結】弟を幸せにする唯一のルートを探すため、兄は何度も『やり直す』

バナナ男さん
BL
優秀な騎士の家系である伯爵家の【クレパス家】に生まれた<グレイ>は、容姿、実力、共に恵まれず、常に平均以上が取れない事から両親に冷たく扱われて育った。  そんなある日、父が気まぐれに手を出した娼婦が生んだ子供、腹違いの弟<ルーカス>が家にやってくる。 その生まれから弟は自分以上に両親にも使用人達にも冷たく扱われ、グレイは初めて『褒められる』という行為を知る。 それに恐怖を感じつつ、グレイはルーカスに接触を試みるも「金に困った事がないお坊ちゃんが!」と手酷く拒絶されてしまい……。   最初ツンツン、のちヤンデレ執着に変化する美形の弟✕平凡な兄です。兄弟、ヤンデレなので、地雷の方はご注意下さいm(__)m

処理中です...