そんなコンなで毎日修行中!

西出あや

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5.彼氏じゃありません!

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***

「そっか、そっか。入部、決めてくれたんだね。ありがとう!」
 もう逃がさないよと言わんばかりに、千明先輩がわたしの両手をぎゅっと握ってくる。
 翌日の昼休みに顧問の秋葉先生に入部届を提出し、放課後さっそく野球部に顔を出すと、千明先輩の大歓迎を受けた。
「部員のみなさんのために精いっぱいがんばるので、これからよろしくおねがいします!」
 じゃっかん緊張ぎみにあいさつし、ぺこりと頭をさげる。
 そんなわたしに、
「そんなに固くならなくても大丈夫だよー。リラックスしてね」
 と、千明先輩が、明るく笑いかけてくれた。
 こうやって、きっといつも部員のことを細かく気遣っているんだろうな。
 黒瀬くんの監視が入部の一番の目的だけど、だからってマネージャーの仕事をいいかげんにはしたくない。
 わたしも、少しでも早く千明先輩みたいになれるように、がんばらなくっちゃ。
「それじゃあ、さっそくで悪いんだけど、道具の準備を手伝ってくれる?」
「はいっ、わかりました!」
 千明先輩と二人で、部員がアップする様子を横目に見つつ、体育倉庫からボールの入ったカゴを出したり、バットの準備をしたり。
 そうこうしているうちに、キャッチボールがはじまった。
 だけど、ぽつんとたたずむひょろっと背の高い男子が一人。
 黒瀬くんだ。うーん……相変わらず声をかけづらい空気をまとっているからなあ……。
 あぁっ。相手がいないからって、一人で壁当てなんかはじめようとしてるし。
「黒瀬くん、ほら、どっかに混ぜてもらわないと」
 なんだか放っておけなくて、にらまれる覚悟で声をかける。
「うるさい。春日には関係のないことだ」
「そ、そうだ。だったら、わたしとやる? 前はよく和真としてたし、少しくらい……」
「だから、それが余計なお世話だと言っているんだ」
 そうやって、しばらくの間、わたしが黒瀬くんと言い争いをしていると――。
「岡林、危ない!」
 鋭い声のあと、どさりと運動場に倒れ込むような音がする。
 ハッとして音の方を見ると、部員が二人、もつれるようにして地面に倒れ込んでいた。
「痛っ……」
「おいっ、大丈夫か⁉」
 倒れたうちの一人が、もう一人を覗きこんでいる。
「誰か、ティッシュ!」
「え、あ、は、はいっ!」
 パタパタと自分の荷物のところへと走り、ポケットティッシュをつかむと、二人の元へと急ぐ。
「だいじょう……」
 声をかけようとして、途中で言葉を飲み込んだ。
 地面にまで、ボタボタと血がしたたり落ちている。
「大丈夫だよ。ただの鼻血だ」
 わたしからティッシュを受け取り、和真が鼻を押さえる。
「すみませんでした。俺がよそ見してたから」
「珍しいな。岡林がこんなふうに注意力散漫になるなんて」
「……すみません」
「おい、誰か保健室に付き添ってやってくれ」
「あ。なら、わたしが――」
 わたしが手をあげると、
「いい。俺一人で大丈夫だ」
 と言いながら、和真がゆっくりと立ちあがる。
「でも……」
「李胡は、マネージャーの仕事があるだろ」
 そう言うと、和真は一人で保健室へと歩いていってしまった。
「ま、あいつが一人でいいって言うならいいよ。春日は、千明と一緒にマネージャーの仕事を引き続き頼むな」
「はい、わかりました」
 梅宮先輩にぺこりと頭をさげると、わたしは千明先輩の元へと走って戻った。
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