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星に願いを
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悠李くんの顔をどうしても見ることができず、顔をうつむかせたままホテルの庭を並んで歩いていく。
「遅いぞ」
「ごめんなさい」
「でも、ちゃんと来てくれて、ありがとう」
「うん」
「それに……俺の嘘に付き合ってくれたことも」
そっと顔を上げると、わたしは悠李くんの方を見た。
「この前は、日菜のこと、思わず嘘つき呼ばわりしちゃったけどさ。俺、全然人のこと言えないよな。役作りのために、彼女のフリしてデートして欲しいなんて格好つけたこと言ったけどさ……本当は、ただ一人になりたくなかっただけだったんだ。一人でいると、どうしても病気のことばっか考えて、死んだらどうなるんだろうとか、どんどん不安になって……だから、ただ誰かと一緒にいたかったんだ。正直、誰でもよかった。後腐れなく別れられるやつなら」
「なら、やっぱりわたしが適任だったね」
ぐさりと胸に刺さった棘に気付かないフリをして、一生懸命笑みを浮かべて見せる。
そんなわたしのことをじっと見つめていた悠李くんが、なにか言おうと口を開きかけたけれど、そのままなにも言わずに口を閉じる。
わたしが首をかしげて見せると、悠李くんは首をゆっくりと横に振ってからもう一度口を開いた。
「今日で、俺の撮影だけ先に全部終わったんだ。だから、明日には東京に戻ることになってる」
「そう……なんだ」
うん、知ってるよ。
今日の撮影終了後、悠李くんは一抱えもある大きな花束を受け取って、スタッフ、共演者からの大きな拍手の中、満足げな笑みを浮かべていた。
先週倒れて以降、さすがの悠李くんも自由時間の校内徘徊は自粛し、校舎の屋上や、図書室などで静かに過ごしていた。
無事撮影が終わって、本当によかった。これで、悠李くんの監視役というわたしの役目も終了だ。
……あれっ、なんだろう、このチクッとした胸の痛みは。
「なあ。下ばっか見てないで、空、見てみろよ。すげーぞ」
悠李くんの言葉に顔を上げると、目の前に満天の星が広がった。
「うわぁ……あ、流れ星!」
次から次へと、どんどん流れていく。
「すごい……」
なんだか星空の中に浮かんでいるような、不思議な感覚。
「実は、今回のロケで一番楽しみにしてたんだよね。東京で見るより、ずっとたくさん見えるだろうって。これなら、流れ星にお願いし放題だしな」
「……」
ぎゅっと胸が締め付けられるようで、言葉にできない。
わたしには想像もつかないような重い運命を背負っているはずなのに。
なのに、どうしてこんなにまっすぐに前を向いていられるんだろう。
「日菜は、流れ星になにを願う?」
「わたしは……」
悠李くんの病気が良くなりますように――。
そんな安っぽい言葉じゃ、全然足りない。
お願い、悠李くんを連れていかないで。
ひどいよ、こんな運命……。
やっとわたし、いろんなことから目を背けないで、ちゃんと向き合おうって思えたのに。
どうしても叶えたい目標ができたのに。
わたし、いつか悠李くんと……。
伝えようって思って来たのに。結局言葉にすることはできなかった。
『そんなに待てないよ、俺』なんて言われたら、泣き崩れてしまいそうだったから。
「俺は、日菜にずっと笑顔でいて欲しい。俺の映画を見て、よかったって、笑って欲しい」
そんなの、絶対に無理だよ。
だけど、悠李くんがわたしの笑顔を望むのなら。
なにか言ったら涙が零れてしまいそうで、黙ったまま必死に笑顔を作って、悠李くんを見つめ続ける。
「なんだよー、泣かそうと思ったのに」
そう言って、悠李くんが頬を膨らます。
「なに言ってるの? 笑って欲しいって言ったの、悠李くんだよ? だったら、悠李くんの前では意地でも泣かない」
「そっか。……今まで世話になったな。そうだ、関係者向けの試写会のチケット、日菜宛てに送ってもらうから。絶対に見に行けよ」
なんで『見に来いよ』って言ってくれないの?
そんな普通だったらどうってことないような言葉の節々に、悲しみが溢れそう。
だけど、悟られるわけにはいかない。明るく笑顔でお別れするって決めたんだから。
「東京まで映画だけ見に行くなんてできないよ」
「それでも送るから。絶対『いい映画だった』って言わせる自信あるからさ。俺に会いに来い。日菜に、最後にそれだけはどうしても伝えたかった」
そう言うと、悠李くんは今まで見た中で一番の笑顔をわたしに向ける。
そんな悠李くんのことを、わたしは静かに笑顔で見つめ返した。
「遅いぞ」
「ごめんなさい」
「でも、ちゃんと来てくれて、ありがとう」
「うん」
「それに……俺の嘘に付き合ってくれたことも」
そっと顔を上げると、わたしは悠李くんの方を見た。
「この前は、日菜のこと、思わず嘘つき呼ばわりしちゃったけどさ。俺、全然人のこと言えないよな。役作りのために、彼女のフリしてデートして欲しいなんて格好つけたこと言ったけどさ……本当は、ただ一人になりたくなかっただけだったんだ。一人でいると、どうしても病気のことばっか考えて、死んだらどうなるんだろうとか、どんどん不安になって……だから、ただ誰かと一緒にいたかったんだ。正直、誰でもよかった。後腐れなく別れられるやつなら」
「なら、やっぱりわたしが適任だったね」
ぐさりと胸に刺さった棘に気付かないフリをして、一生懸命笑みを浮かべて見せる。
そんなわたしのことをじっと見つめていた悠李くんが、なにか言おうと口を開きかけたけれど、そのままなにも言わずに口を閉じる。
わたしが首をかしげて見せると、悠李くんは首をゆっくりと横に振ってからもう一度口を開いた。
「今日で、俺の撮影だけ先に全部終わったんだ。だから、明日には東京に戻ることになってる」
「そう……なんだ」
うん、知ってるよ。
今日の撮影終了後、悠李くんは一抱えもある大きな花束を受け取って、スタッフ、共演者からの大きな拍手の中、満足げな笑みを浮かべていた。
先週倒れて以降、さすがの悠李くんも自由時間の校内徘徊は自粛し、校舎の屋上や、図書室などで静かに過ごしていた。
無事撮影が終わって、本当によかった。これで、悠李くんの監視役というわたしの役目も終了だ。
……あれっ、なんだろう、このチクッとした胸の痛みは。
「なあ。下ばっか見てないで、空、見てみろよ。すげーぞ」
悠李くんの言葉に顔を上げると、目の前に満天の星が広がった。
「うわぁ……あ、流れ星!」
次から次へと、どんどん流れていく。
「すごい……」
なんだか星空の中に浮かんでいるような、不思議な感覚。
「実は、今回のロケで一番楽しみにしてたんだよね。東京で見るより、ずっとたくさん見えるだろうって。これなら、流れ星にお願いし放題だしな」
「……」
ぎゅっと胸が締め付けられるようで、言葉にできない。
わたしには想像もつかないような重い運命を背負っているはずなのに。
なのに、どうしてこんなにまっすぐに前を向いていられるんだろう。
「日菜は、流れ星になにを願う?」
「わたしは……」
悠李くんの病気が良くなりますように――。
そんな安っぽい言葉じゃ、全然足りない。
お願い、悠李くんを連れていかないで。
ひどいよ、こんな運命……。
やっとわたし、いろんなことから目を背けないで、ちゃんと向き合おうって思えたのに。
どうしても叶えたい目標ができたのに。
わたし、いつか悠李くんと……。
伝えようって思って来たのに。結局言葉にすることはできなかった。
『そんなに待てないよ、俺』なんて言われたら、泣き崩れてしまいそうだったから。
「俺は、日菜にずっと笑顔でいて欲しい。俺の映画を見て、よかったって、笑って欲しい」
そんなの、絶対に無理だよ。
だけど、悠李くんがわたしの笑顔を望むのなら。
なにか言ったら涙が零れてしまいそうで、黙ったまま必死に笑顔を作って、悠李くんを見つめ続ける。
「なんだよー、泣かそうと思ったのに」
そう言って、悠李くんが頬を膨らます。
「なに言ってるの? 笑って欲しいって言ったの、悠李くんだよ? だったら、悠李くんの前では意地でも泣かない」
「そっか。……今まで世話になったな。そうだ、関係者向けの試写会のチケット、日菜宛てに送ってもらうから。絶対に見に行けよ」
なんで『見に来いよ』って言ってくれないの?
そんな普通だったらどうってことないような言葉の節々に、悲しみが溢れそう。
だけど、悟られるわけにはいかない。明るく笑顔でお別れするって決めたんだから。
「東京まで映画だけ見に行くなんてできないよ」
「それでも送るから。絶対『いい映画だった』って言わせる自信あるからさ。俺に会いに来い。日菜に、最後にそれだけはどうしても伝えたかった」
そう言うと、悠李くんは今まで見た中で一番の笑顔をわたしに向ける。
そんな悠李くんのことを、わたしは静かに笑顔で見つめ返した。
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