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やっと会えたね
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病気で徐々に聴力を失う栞と、音楽に人生を懸ける星夜の、出会いと別れの物語。
本当は星夜とずっと一緒にいたいと思っているはずなのに、彼のことを想って別れを決意する栞。
星夜もまた、自分が一番聴いて欲しい相手に自分のメロディーが届かなくなる未来に絶望し、別れを受け入れる。
別れの日、星夜が栞の前でギターを弾きながら歌うと、絶対に届かないはずの彼の奏でるメロディーが、彼女にちゃんと届くんだ。
そこで気付く。届かなくなると決めつけた自分の間違いに。
そして、離れてからも、いつまでも彼女のために音楽を届け続ける。届くと信じて――。
あ……このギターの音色。
少し拙さの残る演奏が、逆にこのシーンをよりリアルに盛り上げている。
そっか。悠李くんの演奏、そのまま使ってもらえたんだね。
思わず熱いものが込み上げてきたけれど、ぐっと我慢する。
黒地に白の筆記体のENDの文字がスクリーンに映し出されると、しばらくして会場内に明かりが灯る。
よかった。すごくよかったよ、悠李くん。
順番に立ち上がり、会場を後にする人の流れができる中、わたしは放心状態で、自分の席から動けなくなっていた。
つんつん。
隣の人に肩をつつかれ、「ご、ごめんなさい。もう出なきゃですよね」と慌てて立ち上がろうとすると、ぐいっと手首を掴まれた。
思わず悲鳴を上げそうになったわたしに掛けられた「待って」という声に、今度は息が止まりそうになる。
「感想。まだ聞いてないんだけど?」
ゆっくりと隣の『彼』を見下ろすと、わたしを見上げる彼の視線と交わった。
「なん、で……」
頭が混乱して、うまく言葉にならない。
「いや、主演俳優としては、やっぱ見とかなきゃだろ」
「いや、そうじゃなくて……」
「ああ、アレ? 余命ってのはなあ、延ばすためにあるんだよ」
「なにそれ。そんなの、聞いたことないよ」
思わず涙声になる。
「実は、ちょっと前に家に戻ってさ。まあ、まだ体力とかは全然戻ってねーんだけど。でも、今日だけはどうしてもここに来るって決めてたから」
「だったら、もっと早く声を掛けてくれればよかったのに」
「だって、そうしたらおまえ、映画に集中できなかっただろ?」
「そ、そうかもだけど……」
「それに、俺はずっと隣で日菜の表情をこっそり観察できたから、満足なんだよ」
「!? そんなことしてたの!?」
かぁっと頬が熱を持つ。
悠李くんとの思い出と、映画の中の悠李くんの姿が重なるたびに、何度も何度も涙を堪えた。そのたびに、きっと変な顔をしていたはず。
やり直したい。今すぐ全部やり直したい……!
恨めしげな目で悠李くんを見ると、悠李くんがぷはっと吹き出した。
「大丈夫だよ。日菜が思ってるほど、変な顔してなかったって」
「それ、変な顔をしてたって言っているようにしか聞こえないんですけど」
「日菜と出会って、日菜が俺の映画見て笑ってるとこ見るまでは、絶対に死ねないって思って今日まで頑張ってきたんだから。このくらいのご褒美、くれたっていいだろ」
そういうこと、急に言わないでよ。
「去年の夏の撮影前に、新しい治療の話が出たんだ。すごく効くかもしれないけど、その治療のせいで、余命が縮まる可能性もあるって言われてて。だから、ずっと怖かったんだ。でも、勝てる可能性が少しでもあるならって、勇気を出して踏み出せた。それができたのは、日菜と出会えたからだよ。日菜と出会って、日菜と一緒に未来を歩きたいって。そんな欲が出た。俺、まだまだ頑張るからさ。だから、俺のこと、ちゃんと待ってて。一緒に、カメラの前に立てる日が来るまで」
――ああ、なんだ。わたしだけじゃなかったんだ。悠李くんも、同じことを思ってくれていたんだ。
そう思ったら胸が熱くなって、せっかく我慢していたのに、一筋の涙が零れ落ちた。
「悠李くんもだよ。わたしがカメラの前に立てるようになるまで、絶対待ってて」
やっと言えた。最後に会ったときには、どうしても言えなかった言葉が。
まだまだ全然悠李くんには追いつけないけれど。
でも、いつかきっと。
流れ星に込めた願いが叶いますように。
(了)
本当は星夜とずっと一緒にいたいと思っているはずなのに、彼のことを想って別れを決意する栞。
星夜もまた、自分が一番聴いて欲しい相手に自分のメロディーが届かなくなる未来に絶望し、別れを受け入れる。
別れの日、星夜が栞の前でギターを弾きながら歌うと、絶対に届かないはずの彼の奏でるメロディーが、彼女にちゃんと届くんだ。
そこで気付く。届かなくなると決めつけた自分の間違いに。
そして、離れてからも、いつまでも彼女のために音楽を届け続ける。届くと信じて――。
あ……このギターの音色。
少し拙さの残る演奏が、逆にこのシーンをよりリアルに盛り上げている。
そっか。悠李くんの演奏、そのまま使ってもらえたんだね。
思わず熱いものが込み上げてきたけれど、ぐっと我慢する。
黒地に白の筆記体のENDの文字がスクリーンに映し出されると、しばらくして会場内に明かりが灯る。
よかった。すごくよかったよ、悠李くん。
順番に立ち上がり、会場を後にする人の流れができる中、わたしは放心状態で、自分の席から動けなくなっていた。
つんつん。
隣の人に肩をつつかれ、「ご、ごめんなさい。もう出なきゃですよね」と慌てて立ち上がろうとすると、ぐいっと手首を掴まれた。
思わず悲鳴を上げそうになったわたしに掛けられた「待って」という声に、今度は息が止まりそうになる。
「感想。まだ聞いてないんだけど?」
ゆっくりと隣の『彼』を見下ろすと、わたしを見上げる彼の視線と交わった。
「なん、で……」
頭が混乱して、うまく言葉にならない。
「いや、主演俳優としては、やっぱ見とかなきゃだろ」
「いや、そうじゃなくて……」
「ああ、アレ? 余命ってのはなあ、延ばすためにあるんだよ」
「なにそれ。そんなの、聞いたことないよ」
思わず涙声になる。
「実は、ちょっと前に家に戻ってさ。まあ、まだ体力とかは全然戻ってねーんだけど。でも、今日だけはどうしてもここに来るって決めてたから」
「だったら、もっと早く声を掛けてくれればよかったのに」
「だって、そうしたらおまえ、映画に集中できなかっただろ?」
「そ、そうかもだけど……」
「それに、俺はずっと隣で日菜の表情をこっそり観察できたから、満足なんだよ」
「!? そんなことしてたの!?」
かぁっと頬が熱を持つ。
悠李くんとの思い出と、映画の中の悠李くんの姿が重なるたびに、何度も何度も涙を堪えた。そのたびに、きっと変な顔をしていたはず。
やり直したい。今すぐ全部やり直したい……!
恨めしげな目で悠李くんを見ると、悠李くんがぷはっと吹き出した。
「大丈夫だよ。日菜が思ってるほど、変な顔してなかったって」
「それ、変な顔をしてたって言っているようにしか聞こえないんですけど」
「日菜と出会って、日菜が俺の映画見て笑ってるとこ見るまでは、絶対に死ねないって思って今日まで頑張ってきたんだから。このくらいのご褒美、くれたっていいだろ」
そういうこと、急に言わないでよ。
「去年の夏の撮影前に、新しい治療の話が出たんだ。すごく効くかもしれないけど、その治療のせいで、余命が縮まる可能性もあるって言われてて。だから、ずっと怖かったんだ。でも、勝てる可能性が少しでもあるならって、勇気を出して踏み出せた。それができたのは、日菜と出会えたからだよ。日菜と出会って、日菜と一緒に未来を歩きたいって。そんな欲が出た。俺、まだまだ頑張るからさ。だから、俺のこと、ちゃんと待ってて。一緒に、カメラの前に立てる日が来るまで」
――ああ、なんだ。わたしだけじゃなかったんだ。悠李くんも、同じことを思ってくれていたんだ。
そう思ったら胸が熱くなって、せっかく我慢していたのに、一筋の涙が零れ落ちた。
「悠李くんもだよ。わたしがカメラの前に立てるようになるまで、絶対待ってて」
やっと言えた。最後に会ったときには、どうしても言えなかった言葉が。
まだまだ全然悠李くんには追いつけないけれど。
でも、いつかきっと。
流れ星に込めた願いが叶いますように。
(了)
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