君の声が好き!

西出あや

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8.わかってたのに

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 六月も今日で最後。長かったテスト週間もやっと終わって、さっそく逢坂先輩と紙芝居の練習をはじめることになった。

「先輩! そこはもっと感情を込めてくださいって、さっきも言いましたよね? 適当に読んでるって、子どもたちにすぐバレちゃいますよ」
「こんなもの、普通に読むだけで十分だろ」

 あたしに何度もダメ出しされて、うんざりした様子の逢坂先輩。

「先輩、今『こんなもの』って言いましたね? その心構えが、まずありえません」
「ああ、そうだな……悪かった」

 ビシッと逢坂先輩を指さしてダメ出しするあたしに、先輩が素直に謝る。

「それに、今のままでは、先輩のいいところが全然発揮できていないじゃないですか」
「俺のいいところ? どこだ、それは?」
「だっ、だから、先輩のその……その……」

 うわっ、完全に油断した。
 思わず口を滑らしたところをツッコまれ、視線が宙をさまよう。

「と、とにかく。さあ、もう一回最初からいきますよ」

 あたしの使命は、逢坂先輩の声を最大限に活かした紙芝居屋さんをすること。
 そのためなら、先輩へのダメ出しだって、迷わずするんだから。

「なんだか普段より生き生きしているみたいだな」

 そう言いながら、逢坂先輩がげんなりした表情を浮かべる。

「だって、人を楽しませる準備をするのって、自分も楽しくないですか?」

 今のあたしは、プロデューサーにでもなった気分なのかもしれない。
 まあ、すべて……いや半分はあたしのためだったりするんだけどね。
 先輩に隠れてぺろっと舌を出す。

「そうか。いかにも佐倉らしい前向きな考え方だな」

 そう言う逢坂先輩の口角が少しあがった気がする。

「先輩、今ちょっとあたしのことバカにしましたね。ヒドイですよぉ」
「いや、今のはほめたつもりだったんだが。そういえば、過去の記録によると、十年くらい前にも紙芝居をやったことがあるらしいぞ。そのときに、どうやら勢いで紙芝居用の枠も買ったみたいなんだが」
「そうなんですか? だったら、あたしたちも使いましょうよ。形から入った方が、断然テンションあがるじゃないですか」

 とりあえず手近なキャビネットの扉をガラガラッと開けて、中をのぞき込む。

「う~ん、ここにはなさそう」

 すぐ上の扉を開けようとしたら、すっと逢坂先輩の腕が伸びてきた。

「上は俺が見るから。下の方を順番に頼む」
「はいっ」

 ふたりであっちこっちの扉を開けて探してみたけど、なかなか見つからない。

「ひょっとして、捨てちゃったんですかねぇ」
「いや。経費で購入したものを、そう簡単には捨てんだろ」

 だったら、もうあとはあそこしか……。
 棚の上の、いらなさそうなものをぐちゃぐちゃに突っ込んだような一角に目をやる。
 通称ブラックホール。一度あそこに入れたら、二度と出せなくなるっていうウワサだ。
 ガタガタと折りたたみイスを引っ張ってくると、その上に立って、棚の上をがさごそあさる。
 キャビネットの中を丁寧に探していた先輩が、それに気づいて慌てて声をかけてきた。

「おい、危ないから俺が代わりに――」
「大丈夫ですよー」

 そう返しながら探っていると、なにか固いものが手に触れた。
 あっ、ひょっとして!
 見えないそれの端っこをなんとかつかむと、ぐいっと引っ張ってみる。
 だけど、どこかに引っかかっているのか、ビクともしない。
 ちょっと持ちあげ気味にして……。
 もう一度ぐいっと引っ張った瞬間、引っかかっていたところが外れ、勢いよく体がうしろに傾いていく。

「ひゃぁっ!」

 ――あ、これ落ちた。絶対痛いヤツだ。

 衝撃を覚悟してぎゅっと目を閉じると、そのまま仰向けに倒れていき――。
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