21 / 48
7.ヤキモチなんかじゃない
2
しおりを挟む
保育園からの帰り道。あたしたちの足音だけが、夕方の静かな住宅街に響いてる。
き、気まずい……。
なにか会話のネタをと思えば思うほど、焦りでなにも出てこない。
こういうとき、爽太くんとなら、なんでもないことをダラダラしゃべってすごせるんだけど。
あたし、まだまだ逢坂先輩のことを知らなさすぎるのかもしれない。
「それにしても、みんなあっという間に佐倉に懐いてたな」
先に口を開いたのは、逢坂先輩だった。
「小さい弟と妹がいるので、小さい子の扱いに慣れてるだけだと思います。まあ、あいつらと比べたら、どの子もかわいらしいもんですよ」
特に最近超生意気になってきた渉を思い出して、思わず握りしめたこぶしに力が入る。
「そうか。俺にも爽太はいるが、他人との距離の取り方がいまいちわからなくてな。正直に言うと、同級生と話すのも苦手なくらいだ。会長にでもなって、無理やりいろいろな人と話すようにしていれば、もう少し慣れるかと思ったんだけどな」
「荒療治ってヤツですか?」
「まあ、そんなところだ。でも、俺は一生あいつのようになれる気はしないよ」
小さく肩をすくめると、先輩がぼそりとつぶやいた。
『あいつ』って……爽太くん、だよね?
逢坂先輩とは正反対で、爽太くんは誰とでもすぐに打ち解けて話せて、いつ見てもたくさんの友だちに囲まれている。
だけど逢坂先輩だって、なんでもできて、いつも堂々としていて、みんなから一目置かれる存在で、あたしなんか遠く及ばないって思っているのに。
「でも先輩、あたしとは最近普通にしゃべってくれてますよね?」
「佐倉は手のかかりすぎる後輩だからな」
そう言って、逢坂先輩が苦笑いを浮かべる。
「そんな言い方、ひどいですよぉ。これでも精一杯がんばってるつもりなんですから」
逢坂先輩に抗議すると、先輩があたしの方を見た。
「ああ。佐倉のがんばりは、十分伝わってるよ。生徒会報の作成も、苦手な議事録も。それに、こうやってイベントの運営にだって、積極的に関わってくれているしな」
ああ、ちゃんとあたしのこと、見てくれてたんだ。
それだけのことなのに、なんだかすごくうれしい。
がんばってもがんばっても全然できるようにならなくて落ち込んでばかりだけど、逢坂先輩の何気ない言葉に、ものすごく救われたような気がするよ。
「紙芝居選びに関しても、全部任せてしまって悪かったな」
「いえ、それは大丈夫です。弟と妹に手伝ってもらいましたし、それに、自分の好きなものが選べたので、あたしとしては大満足なんです」
結局、迷いに迷ってあたしは『眠り姫』を選んだんだ。
もちろん、カッコよく姫を助けにくる王子様を演じる逢坂先輩の声が聞きたいから。
ああ、想像しただけでドキドキして顔がニヤけてくる……。
「……佐倉、顔がヘンだぞ」
「先輩、その言い方はとっても失礼ですよ」
口をとがらせるあたしを見て、逢坂先輩がふっと小さく笑った。
「それは悪かったな。じゃあ紙芝居の練習は、期末テスト明けにはじめるか」
そんなことを話していたら、目の前に茶トラのネコちゃんが現れた。
あっ、このネコちゃんって――。
「なんだ。迎えに来てくれたのか?」
ネコちゃんに吸い寄せられるようにして逢坂先輩がしゃがみ込むと、差し出された先輩の手に甘えるようにネコちゃんが顔をすり寄せた。
やっぱり。この前木からおりられなくなってた、先輩のとこのネコちゃんだ。
「なんていう名前なんですか?」
「茶太郎」
そう答えながら、逢坂先輩がネコちゃん――茶太郎をやさしい手つきでなでている。
「結構シブい名前ですね」
あたしがクスッと笑うと、
「爽太がつけたんだよ」
と、ぶっきらぼうに言った。
「ほら、帰るぞ」
先輩が茶太郎を抱きあげると、茶太郎が先輩の頬をぺろりとなめる。
「先輩ってネコ好きなんですね。知りませんでした」
「こら、なめるな。くすぐったいだろ」
逢坂先輩は茶太郎に夢中で、あたしの声なんか先輩には届いていないみたい。
あたし、ここにいるのに。なんだか寂しい。
……いや、寂しいってなんだよ。
べつに先輩のことなんてなんとも思ってないし。
あたしが好きなのは声だけだしっ。
いくらそんなふうに思おうとしても、なんだか言い訳してるみたい。
でも、そんなはずないもん。
茶太郎にまでヤキモチを妬くなんて……絶対にありえない。
そんなの、絶対に認めない。
き、気まずい……。
なにか会話のネタをと思えば思うほど、焦りでなにも出てこない。
こういうとき、爽太くんとなら、なんでもないことをダラダラしゃべってすごせるんだけど。
あたし、まだまだ逢坂先輩のことを知らなさすぎるのかもしれない。
「それにしても、みんなあっという間に佐倉に懐いてたな」
先に口を開いたのは、逢坂先輩だった。
「小さい弟と妹がいるので、小さい子の扱いに慣れてるだけだと思います。まあ、あいつらと比べたら、どの子もかわいらしいもんですよ」
特に最近超生意気になってきた渉を思い出して、思わず握りしめたこぶしに力が入る。
「そうか。俺にも爽太はいるが、他人との距離の取り方がいまいちわからなくてな。正直に言うと、同級生と話すのも苦手なくらいだ。会長にでもなって、無理やりいろいろな人と話すようにしていれば、もう少し慣れるかと思ったんだけどな」
「荒療治ってヤツですか?」
「まあ、そんなところだ。でも、俺は一生あいつのようになれる気はしないよ」
小さく肩をすくめると、先輩がぼそりとつぶやいた。
『あいつ』って……爽太くん、だよね?
逢坂先輩とは正反対で、爽太くんは誰とでもすぐに打ち解けて話せて、いつ見てもたくさんの友だちに囲まれている。
だけど逢坂先輩だって、なんでもできて、いつも堂々としていて、みんなから一目置かれる存在で、あたしなんか遠く及ばないって思っているのに。
「でも先輩、あたしとは最近普通にしゃべってくれてますよね?」
「佐倉は手のかかりすぎる後輩だからな」
そう言って、逢坂先輩が苦笑いを浮かべる。
「そんな言い方、ひどいですよぉ。これでも精一杯がんばってるつもりなんですから」
逢坂先輩に抗議すると、先輩があたしの方を見た。
「ああ。佐倉のがんばりは、十分伝わってるよ。生徒会報の作成も、苦手な議事録も。それに、こうやってイベントの運営にだって、積極的に関わってくれているしな」
ああ、ちゃんとあたしのこと、見てくれてたんだ。
それだけのことなのに、なんだかすごくうれしい。
がんばってもがんばっても全然できるようにならなくて落ち込んでばかりだけど、逢坂先輩の何気ない言葉に、ものすごく救われたような気がするよ。
「紙芝居選びに関しても、全部任せてしまって悪かったな」
「いえ、それは大丈夫です。弟と妹に手伝ってもらいましたし、それに、自分の好きなものが選べたので、あたしとしては大満足なんです」
結局、迷いに迷ってあたしは『眠り姫』を選んだんだ。
もちろん、カッコよく姫を助けにくる王子様を演じる逢坂先輩の声が聞きたいから。
ああ、想像しただけでドキドキして顔がニヤけてくる……。
「……佐倉、顔がヘンだぞ」
「先輩、その言い方はとっても失礼ですよ」
口をとがらせるあたしを見て、逢坂先輩がふっと小さく笑った。
「それは悪かったな。じゃあ紙芝居の練習は、期末テスト明けにはじめるか」
そんなことを話していたら、目の前に茶トラのネコちゃんが現れた。
あっ、このネコちゃんって――。
「なんだ。迎えに来てくれたのか?」
ネコちゃんに吸い寄せられるようにして逢坂先輩がしゃがみ込むと、差し出された先輩の手に甘えるようにネコちゃんが顔をすり寄せた。
やっぱり。この前木からおりられなくなってた、先輩のとこのネコちゃんだ。
「なんていう名前なんですか?」
「茶太郎」
そう答えながら、逢坂先輩がネコちゃん――茶太郎をやさしい手つきでなでている。
「結構シブい名前ですね」
あたしがクスッと笑うと、
「爽太がつけたんだよ」
と、ぶっきらぼうに言った。
「ほら、帰るぞ」
先輩が茶太郎を抱きあげると、茶太郎が先輩の頬をぺろりとなめる。
「先輩ってネコ好きなんですね。知りませんでした」
「こら、なめるな。くすぐったいだろ」
逢坂先輩は茶太郎に夢中で、あたしの声なんか先輩には届いていないみたい。
あたし、ここにいるのに。なんだか寂しい。
……いや、寂しいってなんだよ。
べつに先輩のことなんてなんとも思ってないし。
あたしが好きなのは声だけだしっ。
いくらそんなふうに思おうとしても、なんだか言い訳してるみたい。
でも、そんなはずないもん。
茶太郎にまでヤキモチを妬くなんて……絶対にありえない。
そんなの、絶対に認めない。
0
あなたにおすすめの小説
クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました
藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。
相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。
さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!?
「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」
星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。
「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」
「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」
ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や
帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……?
「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」
「お前のこと、誰にも渡したくない」
クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。
笑いの授業
ひろみ透夏
児童書・童話
大好きだった先先が別人のように変わってしまった。
文化祭前夜に突如始まった『笑いの授業』――。
それは身の毛もよだつほどに怖ろしく凄惨な課外授業だった。
伏線となる【神楽坂の章】から急展開する【高城の章】。
追い詰められた《神楽坂先生》が起こした教師としてありえない行動と、その真意とは……。
14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート
谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。
“スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。
そして14歳で、まさかの《定年》。
6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。
だけど、定年まで残された時間はわずか8年……!
――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。
だが、そんな幸弘の前に現れたのは、
「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。
これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。
描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。
猫菜こん
児童書・童話
小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。
中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!
そう意気込んでいたのに……。
「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」
私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。
巻き込まれ体質の不憫な中学生
ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主
咲城和凜(さきしろかりん)
×
圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良
和凜以外に容赦がない
天狼絆那(てんろうきずな)
些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。
彼曰く、私に一目惚れしたらしく……?
「おい、俺の和凜に何しやがる。」
「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」
「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」
王道で溺愛、甘すぎる恋物語。
最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。
黒地蔵
紫音みけ🐾書籍発売中
児童書・童話
友人と肝試しにやってきた中学一年生の少女・ましろは、誤って転倒した際に頭を打ち、人知れず幽体離脱してしまう。元に戻る方法もわからず孤独に怯える彼女のもとへ、たったひとり救いの手を差し伸べたのは、自らを『黒地蔵』と名乗る不思議な少年だった。黒地蔵というのは地元で有名な『呪いの地蔵』なのだが、果たしてこの少年を信じても良いのだろうか……。目には見えない真実をめぐる現代ファンタジー。
※表紙イラスト=ミカスケ様
「いっすん坊」てなんなんだ
こいちろう
児童書・童話
ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。
自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・
アリアさんの幽閉教室
柚月しずく
児童書・童話
この学校には、ある噂が広まっていた。
「黒い手紙が届いたら、それはアリアさんからの招待状」
招かれた人は、夜の学校に閉じ込められて「恐怖の時間」を過ごすことになる……と。
招待状を受け取った人は、アリアさんから絶対に逃れられないらしい。
『恋の以心伝心ゲーム』
私たちならこんなの楽勝!
夜の学校に閉じ込められた杏樹と星七くん。
アリアさんによって開催されたのは以心伝心ゲーム。
心が通じ合っていれば簡単なはずなのに、なぜかうまくいかなくて……??
『呪いの人形』
この人形、何度捨てても戻ってくる
体調が悪くなった陽菜は、原因が突然現れた人形のせいではないかと疑いはじめる。
人形の存在が恐ろしくなって捨てることにするが、ソレはまた家に現れた。
陽菜にずっと付き纏う理由とは――。
『恐怖の鬼ごっこ』
アリアさんに招待されたのは、美亜、梨々花、優斗。小さい頃から一緒にいる幼馴染の3人。
突如アリアさんに捕まってはいけない鬼ごっこがはじまるが、美亜が置いて行かれてしまう。
仲良し3人組の幼馴染に一体何があったのか。生き残るのは一体誰――?
『招かれざる人』
新聞部の七緒は、アリアさんの記事を書こうと自ら夜の学校に忍び込む。
アリアさんが見つからず意気消沈する中、代わりに現れたのは同じ新聞部の萌香だった。
強がっていたが、夜の学校に一人でいるのが怖かった七緒はホッと安心する。
しかしそこで待ち受けていたのは、予想しない出来事だった――。
ゾクッと怖くて、ハラハラドキドキ。
最後には、ゾッとするどんでん返しがあなたを待っている。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる